高齢者のめまい、考えられる原因は?

2021/3/19

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

年齢を重ねていくにつれ、身体機能の低下や内臓機能の低下によって体にはさまざまな不調が現れやすくなります。その一つにめまいがありますが、めまい自体は高齢者だけの症状というわけではなく、若年者にもよく見られる症状です。高齢者に起こりやすいめまいの原因には、どんなものがあるのでしょうか。また、現れる症状やその対策・受診すべき科なども合わせてご紹介します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

高齢者にめまいが増える理由は?

高齢者は、若年者と比べてめまいを起こしやすい傾向にあります。その理由として、以下の3つがあります。

平衡感覚の衰え
  • 内耳や前庭神経・前庭神経核・大脳皮質などの神経系が老化によって変性している
  • 変性によって平衡感覚に関係する情報をうまく処理できず、めまいを起こしやすくなる
血圧調節能力の衰え
  • 加齢によって血圧調節能力が衰え、血圧の変動が激しくなる
  • 血圧の激しい変動によって脳幹や視床、大脳皮質に酸素や栄養が十分に送られなくなり、めまいを起こしやすくなる
さまざまな疾患や薬剤
  • 生活習慣や加齢によって発症する高血圧・糖尿病・動脈硬化症などでめまいが起こる
  • 治療のために服用する薬剤の副作用でめまいが起こる

高齢者のめまいは上記3つの要因が重なり合っていることが多いため、簡単に原因を特定しにくいことも大きな特徴です。若年者の場合は、たとえばめまいとともに難聴や耳鳴りがあれば耳に原因があるとわかりますが、高齢者の場合はそもそも耳鳴りがあったり、もともと難聴ぎみだったりするため、その状態でめまいが起こっても耳が原因とは限りません。

加えて、めまいの感じ方にも個人差があり、必ずしも典型的な症状が現れるとは限りません。たとえば、回転性のめまいが生じやすい疾患にかかっても、それによって揺れるようなめまいを感じたりします。このように、高齢者のめまいは若年者と違って症状の現れ方や感じ方が典型的なパターンとして現れにくいため、原因の発見や診断が難しいのです。

高齢者のめまいの原因になる病気は?

高齢者のめまいの原因となる病気や状態として、「起立性低血圧」「椎骨脳底動脈循環不全」「脳梗塞や脳出血」「脱水」の4つがあります。なかでも「起立性低血圧」によるものが最も多いので、以下、起立性低血圧とその他の病気に分けて解説します。

起立性低血圧とは

「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がるときに、最高血圧が20mmHg以上低下することで発症する低血圧です。若い人の場合、急激に血圧が下がると顔が青ざめ、冷や汗が出て倒れてしまうことが多いのですが、高齢者では反応自体は弱い反面、血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすくなります。

めまいを感じるのは、脳の「大脳皮質」という部位の中でも「頭頂葉」の「第2野」という部分の周辺です。頭頂葉の第2野は「前大脳動脈」と「中大脳動脈」の境目にあります。ここは脳内で最も心臓から遠い部分なので、血圧が下がって脳の血液循環量が低下すると真っ先に影響を受けてめまいが起こるのです。

「起立性低血圧」が起こる原因として、主に血液が足にたまってしまうことが考えられます。本来、座った状態から立ち上がったときに神経の末端から「ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)」という物質が放出され、足の血管を収縮させて足にたまった血液を上半身に戻して血液が足にたまるのを防ぎます。しかし、加齢によって神経物質の分泌や足の血管の反応が衰えてくると、立ち上がるときに血液が重力によって足の方へ流れてしまい、上半身(特に心臓から遠い脳)に血液が流れにくくなってしまうのです。

起立性低血圧を防ぐには「急に立ち上がらない」「めまいが起こりそうになったら足踏みをする」「弾性ストッキングを使う」などの対策をとるのがおすすめです。

また、以下のような疾患や薬剤も、起立性低血圧の原因となります。

パーキンソン病
  • パーキンソン病では、血管の収縮を調節する交感神経の働きが鈍くなる
  • 立ち上がったときに血管を収縮させられず、脳の血液循環量が低下する
  • 治療には、血圧上昇剤を使う
多発神経炎
  • 末梢神経が障害され、手足の先からしびれが始まる疾患
  • 血管を支配している神経にまで障害が及ぶと、立ち上がったときの血管の収縮がうまくいかなくなり、脚に血液が溜まる
  • 糖尿病・過度の飲酒・腎不全などの慢性疾患のほか、感染症・毒性物質・薬剤・がん・栄養不良など、原因となっている基礎疾患を治療することが重要
薬剤が起立性低血圧を引き起こす例
血圧降下剤・利尿剤・狭心症の治療に使うニトログリセリン・向精神薬など

これらの疾患では、疾患そのものの治療のほか、薬剤の量を調整するなどの医療的な介入が必要です。めまいに悩まされている人で、こうした疾患や服用薬に心当たりがある場合は、主治医に相談してみましょう。

その他の原因

以下の3つが、起立性低血圧の他に原因として考えられます。

椎骨脳底動脈循環不全
動脈硬化が進行したり、頚椎が変形したりすることによって引き起こされる疾患
脳卒中
  • 脳梗塞や脳出血が高齢者のめまいの原因に多い
  • とくに「ラクナ梗塞」と呼ばれる小さな梗塞の場合、麻痺が出ずめまいでおさまることも
暑さによる脱水
  • 暑くて汗をかくと体の水分が失われて脱水状態になり、血液の粘度が増して血流が滞る
  • 高齢者は喉の乾きを感じる感覚が鈍くなることもあり、脱水状態に陥りやすい
  • こまめにお茶や水で水分補給をするとともに、入浴や就寝前にもコップ1杯の水を飲むのが重要

脳に行く血管を大別すると「内頚動脈系」と「椎骨動脈系」の2つに分けられますが、椎骨動脈系の血流量が一時的に減少することで起こるのが「椎骨脳底動脈循環不全」です。椎骨脳底動脈循環不全は、高血圧や脂質異常症を抱える人は特に注意が必要です。この疾患自体は生命に関わったり、後遺症が残ったりするわけではありませんが、放置すると脳梗塞に進行する可能性があるので注意しましょう。

また、脳梗塞や脳出血でもめまいが起こることがあります。とくに、「ラクナ梗塞」というごく小さな範囲(15mm未満)で起こる脳梗塞では、血液の脳細胞が壊死する範囲もごく狭い範囲であるため、わかりやすい麻痺などの自覚症状が出ず、めまいでおさまってしまうことも少なくありません。発症して4〜5時間以内で脳細胞がまだ壊死していない段階ならば、血栓を溶かす薬で治療できる可能性もありますので、早めに病院を受診するのが大切です。

暑さで脱水状態になり、血液の粘度が高くなってしまうのも血流が悪くなる原因のひとつです。特に高齢者は喉の乾きを感じにくく、体内の水分が不足していても自分で気づけないことも少なくありません。そこで、喉が乾いたかどうかに関わらずこまめに水分補給をしたり、入浴や就寝など大量に水分が失われる前にはコップ1杯の水を補給しておいたりするなどの工夫が重要です。

めまいの原因によって症状も違う?

上記のようにめまいの原因はさまざまですが、原因によって症状の出方(いつ、どんな状態で出るのか)が異なります。以下の8つの項目について、心当たりがないかどうか、ある場合はどんな科を受診すれば良いのかチェックしていきましょう。

朝起きたときにふらつく場合
  • 睡眠薬や安定剤、降圧剤などを飲んでいると起こりやすい(5種類以上で転倒リスク2倍)
  • 特に、精神神経系の薬剤である「非定型抗精神病薬」や「抗うつ薬」などで転倒リスクが上がることがわかっている
  • ハルシオン・デパス・コンスタン・レキソタン・セルシン・ベンザリンなどを服用中の場合、ふらつくことを主治医に相談する
朝、顔を洗うときに体が揺れたり、不安定になったりする
  • 内耳や三半規管の問題である可能性が高いため、耳鼻科や神経内科の「めまい外来」を受診する
  • 立ち上がったとき、しばらく立っているとめまいがする
  • 高血圧・糖尿病・脳血管障害・パーキンソン病などによる起立性低血圧の可能性があるため、内科で検査を受ける
夕方にお腹がすいてふらつく
  • 糖尿病の薬を飲んでいたり、注射をしていたりする場合、低血糖の可能性があるため主治医に相談する
風呂から出ようとするとふらつく
  • 起立性低血圧の一種と考えられ、風呂の熱さで血管が拡張したことによる
  • 風呂はぬるめにし、首まで絶対につからないよう気をつける(最悪の場合、倒れて浴槽で溺死する可能性がある)
食後、立つときにふらつく
  • 食後低血糖(食後、1時間程度すると血圧が低下する)の可能性があるため、食べる順番やスピード、内容に注意する
  • それでも改善しない場合、内科や糖尿病外来などを受診する
夜中、トイレに立つときにふらつく
  • 睡眠薬を飲んでいるとよく起きる症状であり、疾患ではないことが多い
  • すぐに立ち上がらず、ベッドの端に腰かけて少ししてから立ち上がるようにする
  • 突然、前触れなく強いめまいに襲われる
  • 耳鼻科系の疾患の可能性が高いと考えられるため、耳鼻科を受診する

このように、めまいはその原因によって受診すべき科もさまざまです。とくに、お風呂から出ようとしたときにふらついたり、夜中に起きたときにふらついたりする症状は疾患とは限らず、少しの工夫で改善できる可能性が高いです。ぜひ、ここでご紹介した方法を試してみましょう。しかし、工夫しても改善されない場合は、主治医に相談するかめまい外来、内科などを受診するのがおすすめです。

おわりに:高齢者のめまいの多くは「起立性低血圧」によるものです

高齢者のめまいの多くは「起立性低血圧」という、座った状態から立ち上がるときに最高血圧が20mmHg以上低下することで起こるめまいです。若年者に起こると青ざめて倒れるなど激しい症状が出ますが、高齢者では症状そのものは軽く済むことが多いため、めまいとなるのです。

他にも、脳血管障害や脱水、薬剤などによってめまいが起こる場合があります。心当たりがあれば対策をとったり、主治医に相談したりしてみましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

高齢者(102) めまい(93) 起立性低血圧(18)