発達障害の人が受けるソーシャルスキルトレーニング(SST)の目的と内容とは?

2021/12/30

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

会話のソーシャルスキルトレーニングを受けている子供たち

発達障害の特性や生きづらさ、社会生活での困りごとの改善が期待できる訓練に「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」があります。ソーシャルスキルトレーニングは、発達障害の人が弱いとされる「ソーシャル(=社会的な)スキル」を補強するために行われるものです。
この記事では、ソーシャルスキルトレーニングは具体的に何をするのか、どんなところで受けられるのかなどについてご紹介します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

ソーシャルスキルとは?

ソーシャルスキルとは、「ソーシャル=社会の、社会的な」「スキル=能力」を合わせた言葉で、社会で生活していくための能力のことを指します。つまり、社会生活をしていくうえで必要な、挨拶や依頼などのコミュニケーション能力や、毎日歯を磨いたり決まった時間に薬を飲んだりする生活能力などのことです。

一般的な定型発達の人においては、子供の頃から家庭や学校で他人と関わっていくなかで、周りの人がどう行動しているのか、どう反応しているのかを観察しながら、自然と身につけていくスキルです。しかし、発達障害の人では、この観察学習が上手くいきません。そのため、集団生活をしていても、自然にソーシャルスキルを習得できず、適切な人間関係を築くことが難しくなってしまいます。

社会生活をしていくうえで、ソーシャルスキルは必要不可欠な能力ですが、必要とされる度合は、人によって、また職種によって違いがあります。
たとえば、営業職などでは高いソーシャルスキルが必要とされますが、専門職や製造業などではそれほど高いソーシャルスキルが必要とされない場合もあります。

このように、すべての大人が必ずしも高いソーシャルスキルを持っているわけではなく、必ずしも高いソーシャルスキルが必要とされるわけでもありません。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)ってどんな訓練?

ソーシャルスキルの習得度合いは、家庭や学校など、成長の過程で接してきた環境によって変わります。しかし、発達障害の人に代表されるように、生まれつきによる個人差も大きいです。そのため、ソーシャルスキルが身についていないからといって、親や学校の教育が原因とは限りません

また、ソーシャルスキルは、大人になってからでも身につけることができます。このソーシャルスキルを習得するための訓練をするのが、「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」です。ソーシャルスキルトレーニングを行っていく過程で「できること」を少しずつ増やしていき、生活するための力や社会生活を送るための力をつけていきます。

ソーシャルスキルトレーニングのテーマは幅広くあるため、まず「その人自身が実際に困っていること」を解決するトレーニングからスタートします。
必要に応じてさまざまなトレーニングが組み込まれますが、一般的にはロールプレイング形式によって、実際に役割を演じながら理解していく手法が多く用いられます。なかでも、グループワーク形式を通じて参加メンバー同士で意見を出し合いながら進めていくなど、対人関係を重視したトレーニングがとくに多いです。

発達障害の困りごとの解決にソーシャルスキルトレーニングは役立つ?

発達障害の人は、対人関係や社会生活でのコミュニケーション能力、生活能力などで困ることが多く、対人関係においては以下に関する困りごとが起こりやすいです。

  • 円滑な意思疎通に必要な「適切な言葉」の選択
  • 身振り手振りによるコミュニケーション

ソーシャルスキルトレーニングは、ロールプレイング形式で対人関係、とくにコミュニケーションに関するトレーニングを多く行います。これは、発達障害の人が困難を感じやすいシチュエーションでのコミュニケーション方法を学ぶきっかけになり、困りごとが発生しやすい状況を前もって知るきっかけにもなります

このように、ソーシャルスキルトレーニングでは、発達障害の人に起こりやすい困難を事前に予習し、対処法を繰り返し練習することができるため、発達障害による困りごとや二次障害の軽減にも役立つと考えられています。

ソーシャルスキルトレーニングの「学習」と「応用」とは?

ソーシャルスキルトレーニングには、大きく分けて「学習」「応用」の2つの段階があります。ソーシャルスキルトレーニングの施設で学ぶのはおもに「学習」の部分ですが、トレーニング中は同じような人たちと集団生活をすることになるため、自然と「応用」の部分も少し学ぶことができます。

「学習」がある程度進んできたら、施設だけでなく一般社会のなかでも少しずつ「応用」していけるように工夫しましょう。

「学習」の内容

ソーシャルスキルトレーニングでは、前述のロールプレイングやグループワーク以外にも、さまざまな手法を使って学習します。

ボードゲームなど、複数人で行う遊び

複数人でするゲームは、「ルールを守る」「勝ち負けなどの結果を受け入れる」「仲間と相談、協力する」など、多くのソーシャルスキルの要素が含まれています。一般的な定型発達の人で言うと、幼児期や小学生の頃にやっていた鬼ごっこやかくれんぼなどは代表的なものです。

ソーシャルスキルトレーニングの指導の一環として行う場合、「参加する」「友達と協力・協調する」など、子供それぞれに目標を決めて行います。

共同活動、共同行動

共同活動や共同行動も、ゲームと近いものがあります。「一緒に何かを作りあげる」「作ったものを分け合って食べる」など、お互いに相談し合ったり、役割分担をしたり、困っている人がいたら助け合うなど、大人の社会生活でも必要なスキルを学ぶことができます。

話し合い

複数人の遊びや共同活動、共同行動の行動が充分にできるようになると、より高度なコミュニケーションスキルが要求される「話し合い」の段階に進んでいきます。聞き方や質問の仕方などを学びながら話し合い、対人関係をスムーズに行う訓練が行われます。

ロールプレイ

ロールプレイとは、日本語では役割演技と訳されます。複数人がそれぞれの役を演じ、疑似的な体験をしながら、特定の事象が実際に起こったときに適切な対応できるようにするための学習方法のことです。

ロールプレイでは、どんな場面でどのように振る舞うべきかを、子供たちが劇のような形で演じたり、人形劇などで見せたりします。

ソーシャル・ストーリーなど

ソーシャル・ストーリーは、「発達障害の人用の絵本」と考えるとわかりやすいです。世の中の暗黙のルールや非言語的なコミュニケーションについて、易しい文章や絵などを使って学んでいきます。

「応用」で伸ばすスキル

ソーシャルスキルトレーニングの「応用」とは、「学習」で身につけたコミュニケーションスキルを応用して、普段の生活のなかで実際に使いながら行動に移すことです。

「応用」が必要になるシチュエーションの例
  • あいさつをするとき
  • 順番を守らなければいけないとき
  • 会話をするとき

あいさつをするとき

あいさつはコミュニケーションの基本です。対人関係を良い状態にするためにも、ソーシャルスキルトレーニングで学習したことを、積極的に応用、活用していきたいものです。

しかし、タイミングがつかめなかったり、恥ずかしかったりなどの理由から、なかなかできない、続かないことも多いといわれています。「あいさつをすると気持ちいい」「あいさつをされたら嬉しくなる」などを肌で感じられるよう、身近な人が一緒にあいさつをすると、取り組みやすくなります

順番を守らなければいけないとき

順番を守ることは、スムーズに社会生活を送るために必要なことであり、ルールを守るうえで最初に取り組みたいことです。トイレや電車のホームはもちろん、おもちゃの貸し借りなどのように、子供の遊びのなかにも順番があります。

ソーシャルスキルトレーニングで順番の守り方を学んでおけば、「あのときはどうしたかな?」と、本人は自ら思い出すことができます。「自分から順番を守れたとき」にきちんと褒めてあげると、積極的に順番を守るようになりやすいです。

会話をするとき

会話をするときは、「言葉のキャッチボール」を意識してもらうことが大切です。また、自分が話したら相手の話も聞く、話したいことは時間を決めて話す、同じ話は繰り返さないように気をつけるなど、「会話のルール」を決めることも、会話のトレーニングを進めていくうえで大切になってきます。

会話のルールを守りながら、言葉のキャッチボールを意識して適切な言葉を使えるように考えたり、自分が言った言葉で相手がどのような気持ちになるかなどを考えてもらったりすることが、会話のスキルを身につける重要な訓練になります。

「相手の気持ちを考える、理解するよう努力する」ことは、日常生活をスムーズに過ごすために大切なことであり、ソーシャルスキルトレーニングにおいても重要になります。身につきづらいスキルでもありますので、何か行動をしたときには周囲の人が「私はこういう気持ちになったよ」「あなたはどう思った?」などと声をかけて気持ちを伝えたり、少し立ち止まって考えたりする機会を作ってあげましょう。

ソーシャルスキルトレーニングは、どこで受けられる?

ソーシャルスキルトレーニングは、医療機関や福祉施設、就労支援の場や学校、職場などさまざまな場所で行われていて、大人の発達障害向けのソーシャルスキルトレーニングは、以下のような場所でも行われています。受講条件があるところもありますので、興味がある場合は、事前に確認しましょう。

  • 精神科のデイケア・ナイトケア
  • 若者サポートステーション
  • 就労・生活支援センター
  • 就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所
  • 自立訓練事業所
  • 地域活動支援センター

大人のソーシャルスキルトレーニングは、どんな人が支援するの?

大人向けのソーシャルスキルトレーニングは、「SSTトレーナー」「セラピスト」などの職種の人がトレーナーとなって行うことが多いです。SSTトレーナーとは、その人それぞれに合ったソーシャルスキルトレーニングのプランを考え、実践できる専門家のことで、一般社団法人SST普及委員会が認める「SST認定講師」には、医師や心理士・精神保健福祉士(PSW/精神科ソーシャルワーカーとも)などもいます。

施設によっては、産業カウンセラーの資格を持ったセラピストなどが行う場合もあります。料金は運営形態によって異なりますが、民間企業や団体では1回あたり約4,500円〜10,000円程度のところが多いです。

おわりに:ソーシャルスキルトレーニングは社会生活に必要なことを学ぶ訓練

ソーシャルスキルトレーニングとは、社会生活で必要な対人関係やルールなどを学ぶ訓練のことです。子供ならゲームや共同活動などを通じて、大人ならロールプレイングや話し合いなどを通じて必要なスキルを学びます。大人のソーシャルスキルトレーニングは、医療機関や福祉施設のほか、就労訓練の事業所などでも受けることができます。ただし、受講には条件があることもありますので、受けたい場合はまず問い合わせてみましょう。

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