認知症の人の食事を支える声かけと環境づくり

2026/6/10

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

食べない理由は一つではない

認知症の人が食事を残す、食べ始めない、途中で席を立つ、同じものばかり食べるといった場面は、介護者にとって不安になりやすいものです。しかし、食べない理由は単純ではありません。食事であることが分かりにくい、箸やスプーンの使い方が分からない、周囲の音や人の動きが気になる、口の痛みや便秘がある、薬の影響で眠い、気分が落ち込んでいるなど、複数の要因が関わることがあります。食べないことを叱ったり、急がせたりすると、食事に対する不安や拒否感が強くなる場合があります。まずは、いつ、どの場面で食べにくくなるのかを観察し、本人が落ち着いて食べられる条件を探すことが大切です。

食卓の情報を減らして分かりやすくする

認知症があると、目の前のものを選んだり、手順を組み立てたりすることが難しくなる場合があります。食卓に多くの皿や調味料、薬、新聞などが置かれていると、何から始めればよいか分かりにくくなることがあります。最初は主菜と主食など、食べるものを少なめに並べ、食べ終えたら次を出す方法もあります。皿の色と食べ物の色に差をつける、食具を持ちやすいものに変える、食事の位置を手の届きやすい場所に置くなど、小さな環境調整が役立つことがあります。テレビの音や人の出入りが多い環境では集中しにくい人もいます。本人の様子を見ながら、安心して食べられる静かな時間を作りましょう。

声かけは短く穏やかにする

食事介助の声かけは、説明を多くするより、短く分かりやすい言葉が向いていることがあります。「ごはんを一口どうぞ」「お茶を飲みましょう」など、一つの動作にしぼって伝えます。否定や命令が続くと、本人は理由が分からないまま責められているように感じることがあります。食べる順番や量にこだわりすぎず、本人が手を伸ばしたものから食べてもよい場面もあります。食器を手渡す、介護者が向かい側で同じように食べて見せるなど、言葉以外の手がかりも有効です。むせやすい人では、急がせず、口の中が空になってから次の一口をすすめます。本人のペースを守ることが、安全と安心につながります。

栄養不足と脱水に注意する

認知症の人では、食事量の低下が続くと低栄養や脱水につながることがあります。体重が減る、服がゆるくなる、ふらつきが増える、尿が少ない、便秘が続く、口が乾くといった変化を確認します。1回の食事量が少ない場合は、食べやすい時間帯に分けて提供する、間食を栄養補給の時間にする、好みの味や温度を取り入れる方法があります。手で持てるおにぎり、サンドイッチ、卵焼き、やわらかい果物などは、食具の操作が難しい人にも向くことがあります。ただし、飲み込みに不安がある人には、形や大きさに注意が必要です。むせ、発熱、体重減少がある場合は、医療職へ相談しましょう。

介護者だけで抱え込まない

認知症の食事支援は、毎日続くため、介護者の負担が大きくなりやすいケアです。食べてくれないことが続くと、介護者が自分を責めたり、焦ったりすることがあります。食事量、好きな食品、拒否が強い時間帯、むせの有無、便通、睡眠、服薬状況を記録し、ケアマネジャー、訪問看護師、主治医、歯科医師、管理栄養士に共有しましょう。デイサービスや配食サービスを利用することで、本人の食べ方の変化が分かることもあります。急激な食欲低下、意識の変化、呼吸困難、発熱、繰り返す嘔吐がある場合は、早めに医療機関へ相談が必要です。本人の尊厳と食べる楽しみを大切にしながら、支援の輪を広げていきましょう。

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