自閉症の原因は ― 遺伝的な要因と環境的な要因のほかに何がある?

2017/3/15 記事改定日: 2018/3/26
記事改定回数:1回

佐藤 典宏 先生

記事監修医師

産業医科大学第1外科

佐藤 典宏 先生

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、周囲の人とコミュニケーションをとるのが難しかったり、興味や関心にかたよりがみられるといった症状があらわれるものです。小さい頃に親がこのような兆候に気づいて診断を受けることもありますが、中には大人になってから診断を受けてはじめて気づく人もいます。この記事では、自閉症スペクトラム障害を発症する原因について、詳しく解説します。

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自閉症スペクトラム障害とは

自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder;ASD)とは、自閉症やアスペルガー症候群を含む発達障害の総称です。

もともと、これらの発達障害は個々の症状にわけて呼んでいたものの、近年、これらの発達障害の症状や特徴は独立したものではなく、関連しているものと考えられるようになりました。このような経緯から、最近ではこれらの障害を広くひとつの発達障害として捉えられるようになり、自閉症スペクトラム障害と呼ばれるようになっています。

自閉症スペクトラム障害の症状には、以下の3つの特徴があると言われています。

相互的な対人関係を構築することが苦手である
コミュニケーションに支障をきたす
興味・行動に偏りがある

ただ、自閉症スペクトラム障害の人にどのような症状があらわれるかは個人差があります。このため、ある人は興味・行動の偏りがものすごく強くあらわれていても、別の人にはその症状がみられないこともあります。

自閉症スペクトラム障害の原因

現在のところ、自閉症スペクトラム障害の正確な原因は明らかになっていません。ただし、生まれつき何らかの脳機能障害を抱えているために症状があらわれるもので、親のしつけや愛情が足りないから自閉症スペクトラム障害になるわけではないことは明らかになっています。

自閉症スペクトラム障害の原因とされる脳機能障害は、遺伝的な要因が関わっている可能性が高いのではないかと言われています。この遺伝的な要因に加えて、さまざまな環境的な要因が重なり合ったために、脳機能障害がみられるのではないか、と考えられています。

たとえば、自閉症スペクトラム障害を抱える子供の弟もしくは妹はこの病気を発症する可能性があると言われています。また、一卵性双生児の場合、2人とも自閉症スペクトラム障害を発症するということもよくみられます。

親の自閉症は子供に遺伝する?

研究によると、自閉症スペクトラム障害は複数の遺伝子の変化によって発症する「多因子遺伝疾患」であると考えられています。単一の遺伝子が原因で発症しているわけではないため、自閉症スペクトラム障害の親の遺伝子をそのまま受け継いだからといって、子供も自閉症を発症するとは限りません。ただ、どのくらいの確率で自閉症スペクトラム障害を発症するかは明らかになっていないため、場合によっては親子ともに自閉症の症状がみられることもあり得ます。

妊娠中の薬の服用が自閉症の原因になることも

先天的な脳機能障害以外にも、自閉症スペクトラム障害の原因となるものがあります。そのひとつとして、妊娠中に抗てんかん薬の「バルプロ酸ナトリウム」を服用したことが挙げられます。

最近の研究で、妊娠中にバルプロ酸ナトリウムを服用すると、お腹の赤ちゃんの大脳皮質の構造に異常をきたし、知能低下や自閉症といった高次脳機能障害がみられることが明らかになりました。

また、妊娠中に抗うつ薬を服用した場合も、赤ちゃんに自閉症スペクトラム障害があらわれるリスクが高くなることもわかっています。

そのほか、妊娠中のアルコール摂取や、妊娠35週より前の早産も、自閉症スペクトラム障害のリスクを高めると言われています。

自閉症の発症に関連する可能性がある病気

脳機能障害や妊娠中の薬の摂取のほかに、以下のような病気が自閉症スペクトラム障害の発症に関連があると言われています。

筋ジストロフィー

徐々に筋力が弱っていく遺伝的な症状

ダウン症候群

学習障害や、さまざまな身体的特徴を引き起こす遺伝的な症状

脳性麻痺

脳や神経系に影響を与え、運動や協調に問題を引き起こす症状

新生児けいれん

まだ非常に幼いうち(通常は1歳前)に発症するてんかんの一種

神経線維腫症

神経に沿って多くの腫瘍ができる遺伝的な病気(主なものとして、神経線維腫症1型および神経線維腫症2型)

稀な遺伝的条件

脆弱X症候群、結節性硬化症、レット症候群など

ワクチン接種は自閉症の原因ではない

かつて、以下に挙げる特定のワクチンや食べ物が自閉症スペクトラム障害の原因になっていると言われていました。

・MMRワクチン
・チオメルサール(一部のワクチンで防腐剤として使用される、水銀を含む化合物)
・育児方法
・グルテンや乳製品のような食べ物

しかし、研究によって、ワクチンや食べ物、育児方法は自閉症スペクトラム障害の症状の原因ではないことが明らかになっています。

おわりに:自閉症の原因は、遺伝や環境要因が大きい

自閉症スペクトラム障害の原因として、遺伝と環境要因が複合的に関連したことや、妊娠中の薬の服用、あるいは特定の疾病などが考えられています。一方、特定のワクチン接種や育児方法によって自閉症を発症するわけではないことも明らかになっています。ですから、もしお子さんに自閉症の兆候がみられても、子育てに問題があったのではないか・・・と自分を責めたりしないでください。

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