記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/6/15
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腎臓はとても優秀な臓器です。腎臓の中にはフィルターとして作用する何百万もの小さな血管があります。腎臓はこのフィルターで、血液から老廃物を取り除きますが、糖尿病で腎臓にダメージが蓄積すると、このフィルターが働かなくなってしまうことがあります。この記事では、糖尿病が引き起こす腎症について解説します。
私たちの体がタンパク質を消化すると、同時に老廃物が作り出されます。腎臓には、何百万もの小さな血管(毛細血管)があり、その血管から尿へフィルターを通して老廃物を排出しています。赤血球などの有用なタンパク質は、サイズが大きいためフィルターの穴を通過できずに血液に留まりますが、より小さくて不要なタンパク質はフィルターを通って一度尿細管という道を通ります(必要に応じて再吸収されます)。
糖尿病はこの「ろ過システム」を破壊します。高血糖によって腎臓が酷使され続けると、有用なタンパク質が漏れはじめ、尿中に放出されてしまいます。糖尿病性腎症では尿中に通常出てくるはずのないアルブミンというタンパク質が検出され始めます。この「微量アルブミン尿」は糖尿病性腎症が進行していることを示唆します。
糖尿病患者の誰もが腎症を発症するわけではありません。腎症の発症要因として、
・遺伝要素
・血糖コントロールがどれくらいなされているか
・高血圧
などがあります。糖尿病と血圧を適切にコントロールできれば、腎症を発症するリスクは低くなります。
腎臓は機能しない毛細血管を補おうと働くため、かなりの部分が障害されるまで症状が起こりません。また、腎症の症状は特異的ではなく自力での発見は難しいです。症状としては、
・浮腫(むくみ)
・睡眠障害
・食欲不振
・胃の不調
・疲れやすい、集中困難
などがあります。定期的に医師の診断を受け、血圧、尿検査、血液検査、および糖尿病の他臓器の合併症の進行度を確認しましょう。
糖尿病性腎症は、血糖値を目標範囲内に保つことによって予防できるとされています。ある研究では、厳密な血糖管理によって、微量アルブミン尿のリスクが3分の1に減少したという結果が出ています。他の研究でも、厳密なコントロールが微小アルブミン尿症への進行を抑える可能性があることが示唆されています。
腎症の治療において重要なのは、血糖値と血圧を厳密にコントロールすることです。血圧の変化は病気の進行に大きな影響を与えます。例え血圧の上昇が軽度なものであったとしても、すぐに腎症が悪化してしまう場合があるのです。血圧を下げるための方法として下記が挙げられます。
・体重を減らす
・塩分の摂取を減らす
・アルコールやたばこを避ける
・規則的な運動をする
特定の薬で、血圧を下げることもできます。血圧を下げる薬の種類は多数ありますが、すべてが糖尿病の人に適しているわけではありません。血糖値を上昇させるものもあれば、低血糖症の症状を和らげるものもあります。通常、ACE阻害剤あるいはARBと呼ばれる血圧薬の服用が糖尿病患者には推奨されます。
マクロアルブミン尿症の他の治療として、低タンパク食があります。タンパク質を摂ることは、腎臓を酷使します。低タンパク食を摂ることで、尿中へのタンパク質損失を減少させ、血液中のタンパク質値を高めることができます。ただし、医師への相談なしに、低タンパク食を始めることは絶対に避けましょう。
糖尿病性腎症は進行するまで症状が乏しいため、しっかりとした自己管理と定期的な検査で進行を未然に防ぐことが大切です。