記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/8/2 記事改定日: 2018/4/26
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
不眠症は、生活習慣の改善で治すことが基本となりますが、なかなか改善しないときは薬での治療が必要になる場合があります。睡眠薬にあまり良いイメージを持っていない人もいるかもしれませんが、睡眠薬は本当に危険なのでしょうか。
この記事では、睡眠薬の効果と副作用、使用上の注意点を紹介していきます。正しく薬を使うための参考にしてください。
不眠症の治し方は大まかに、「薬を使わない非薬物治療法」(睡眠習慣の習得や心理療法)、「投薬治療」の2つに分けられます。
例えば、短期的な不眠症は旅行やストレスによって引き起こされることが多いため、ストレスを取り除いたり、身体を新しいスケジュールに馴染ませると改善する傾向にあります。この場合、市販の睡眠治療薬を短期間服用するのが効果的でしょう。
一方、慢性的な不眠症は生活習慣の変更と医療処置、そして不眠症の原因を明らかにする心理療法が必要になるかもしれません。こういった慢性的な不眠症を治すには、不眠症を引き起こす原因を解決することが最も重要なのです。
つまり、不眠症の原因が糖尿病の場合、糖尿病治療こそが一番の不眠症治療であり、また薬の副作用で不眠症になった場合は、薬の服用量を減らすのが効果的な不眠症の治し方なのです(服用量や薬の変更については必ず医師に相談してください)。
不眠症に対しては、一般的には睡眠薬が処方されます。睡眠薬にはさまざまな種類がありますが、トリアゾラム、エスタゾラム、ロラゼパム、テマゼパム、フルラゼパム、およびクアゼパムなどのベンゾジアゼピン系鎮静剤、およびゾルピデム、エスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系鎮静剤は、睡眠を誘発するのに効果的な薬といわれています。
しかし、これらの睡眠薬の中には長期間服用すると依存症を発症する可能性があるものもあります。また、これらの薬をアルコールや中枢神経に作用する他の薬と一緒に服用することも危険です。
その他の不眠症薬としては、睡眠-覚醒サイクルの調節に作用するスボレキサント(ベルソムラ)や、ラメルテオン(ロゼレム®)があります。ラメルテオンはその他の鎮静剤とは違った働きをする不眠症薬のため、朝の眠気を起こしたり、中毒になったりする可能性は比較的低いとされています。
また、不眠症治療のために抗うつ薬が処方されることもあります。抗うつ薬はうつ病の人に処方される薬で、眠気を誘発する効果がありますが、副作用もあるため慎重に処方する必要があります。
かつての睡眠薬には多くの副作用があり、睡眠薬は危険な薬というイメージが根強く残っています。しかし、現在広く使用されている睡眠薬は安全性が高く、医師からの指示通り正しく飲んでいる限りは重篤な副作用はほとんどありません。
一般的に起こりうる睡眠薬の副作用としては、就寝時に服用して効果が翌朝以降まで続く「持ち越し効果」です。これによって日中の眠気や集中力の低下、意欲の減退、ふらつきなどが生じます。特に高齢者の場合では、ふらつきによって転倒し思わぬ大けがをすることも多々あります。また、服用した前後の記憶がなくなったり、興奮状態に陥るなど精神的な症状が現れることがあります。
しかし、これらの副作用も薬の量や種類を変えると改善することがほとんどであり、重篤な後遺症や健康被害を生じることは極めてまれだといわれています。
病院で処方される睡眠薬以外にも、薬局やドラッグストアなどで「睡眠薬」が販売されているのを見たことある人も多いでしょう。
これらの睡眠薬は、処方薬とは異なり、抗ヒスタミン剤の一種です。アレルギー薬や風邪薬を飲んで強い眠気が生じた経験がある人もいるでしょうが、市販の睡眠薬はこれと同じ効果を持つに過ぎません。
つまり、処方される睡眠薬は脳を休ませる効果を持ちますが、市販の睡眠薬は体を活性化させるヒスタミンの効果を抑え、強制的に眠気を誘発するのです。
そのため、寝つきが悪いなどの軽度な不眠症状には効果がありますが、中途覚醒や早朝覚醒などのタイプの不眠症には効果がなく、翌日の倦怠感が強く残ることもあります。
市販の睡眠薬は不眠症を根本から改善する効果はありませんので、長く服用することはおすすめできません。また、効果は飲む回数を重ねるごとに弱まるともいわれており、思わぬ副作用を生じることもあります。長く続く不眠症では市販の薬に頼らず医師の診察と治療を受けるようにしましょう。
子供は体内時計が未成熟であり、睡眠リズムも乱れやすいものです。特に夜泣きをするような場合には親や兄弟の睡眠の妨げにもなります。しかし、睡眠薬の使用は基本的には控えた方がよいとされています。
睡眠薬は脳内の興奮を司る伝達物質を抑制する効果がありますが、子供の未成熟な脳に睡眠薬が作用すると効きすぎて、翌日まで効果が持続し、日中の眠気や倦怠感などの副作用が生じやすくなります。また、睡眠中に分泌される成長ホルモンを減少させることも知られており、成長期の子供への悪影響が考えられます。
生活リズムを整え、日中の昼寝を少なくするなどの対策を取って、睡眠薬に頼らない良質な睡眠が取れるようにサポートしましょう。
原属として、妊娠中の睡眠薬の服用は避けた方がよいとされています。特に妊娠4~12週は胎児が成長する大切な期間であり、妊婦さんが服用した薬の作用を受けて奇形が生じやすい時期です。この時期は睡眠薬に限らず、なるべく薬の服用を避けた方がよいでしょう。特にハルシオン®などのベンゾジアゼピン系の睡眠薬は奇形を起こしやすいといわれています。
妊娠13週以降では、安心した飲める薬もありますが、睡眠薬の副作用が出やすくなり日常生活に支障を来たすこともあります。また、睡眠薬の成分が胎盤を通して赤ちゃんに渡ることで、赤ちゃんに過眠が生じることもわかっています。
このように、妊娠中の睡眠薬はお母さんにも赤ちゃんにも悪影響を及ぼす危険があるため、できる限り避けた方がよいでしょう。しかし、妊娠前から睡眠薬を常用していた人やうつ病などによって不眠が生じている場合には医師と相談し、妊娠中でも比較的安全とされている軽めの睡眠薬を処方してもらいましょう。
薬を使わない不眠症の治し方としては、次のようなものがあります。
不眠症の人は、リラックスすることが必要です。慢性的な不眠症で寝付きが悪かったり、途中で起きてしまったりするなら、下記の呼吸法で心身をリラックスさせてください。
適度な運動をすると、寝付きだけでなく目覚めも良くなります。1週間に3〜4回、20〜30分の運動を習慣づけることを目指してください。体調に合わせて運動メニューを調整し、就寝時間から遠い時間帯(できれば午前中)に運動しましょう。
瞑想、ヨガ、バイオフィードバックは、緊張を和らげ、良質な睡眠を促す効果があります。就寝前に心の中で穏やかなイメージを思い浮かべたりしましょう。具体的な方法については専門家にお尋ねください。
睡眠習慣や環境を整えることも、不眠症の効果的な治し方のひとつです。良質な眠りのためには、静かで暗い寝室が必要になります。目を閉じても光が入ることがあるので、アイマスクを使うのもおすすめです。他には以下のことに気をつけてみてください。
寝る直前にテレビを見て刺激を受けてしまうと、不眠症が悪化する可能性があります。寝る前に15分ほど静かな会話をしたり、軽い読書をしたり、やさしい音楽を聴いたりすると不眠症が改善しやすくなるでしょう。
就寝の4~6時間前は、大量の食事、喫煙、アルコール、カフェインの摂取を控えるようにしましょう。
寝る前にPCやスマートフォンの画面を見ないようにしましょう。できればベッドサイドに置かないようにしてください。
不眠症は、原因や症状によって適切な治療法が異なってきます。睡眠薬を飲むことに抵抗がある人もいるかもしれませんが、医師の指導のもと正しく使う限り大きな問題になることはないでしょう。睡眠薬の正しい知識を身につけ、用法用量を守って服用してください。
なお、自己判断の睡眠薬の服用はリスクを伴う可能性があることは留意しておきましょう。