記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/8/16
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊娠糖尿病は、妊娠でよく見られる合併症であり、治療せず放置しておくと、赤ちゃんに重大な合併症を引き起こす可能性があります。妊娠糖尿病のリスクを軽減するためには、血糖値を管理する必要があります。今回は妊娠糖尿病の血糖値管理の方法を概説します。
特定のホルモン(コルチゾール、エストロゲン、ヒト胎盤性ラクトゲンを含む)の数値が上がると体の血糖管理能力が低下することがあり、この状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。妊娠中はこうしたホルモンの分泌が増加することでインスリン抵抗性が上昇することが知られています。
通常、インスリンを分泌する器官である膵臓は、インスリン分泌量を増加することによって、インスリン抵抗性を補うことが可能です。しかし、膵臓がインスリン分泌量を十分に増やせず、ホルモン上昇の影響を克服できない場合、血糖値が上昇し、妊娠糖尿病を引き起こす場合があります。
妊娠糖尿病になる人とならない人がいる理由は現在はっきりとわかっていませんが、以下の場合にはリスクが増大する可能性があるといわれています。
・太り過ぎ
・腹部脂肪レベルが高い
・35歳以上の女性
・家族歴がある
・妊娠糖尿病の病歴がある
・糖尿病境界型の診断を受けたことがある
・あまり運動しない
妊娠糖尿病による母体や胎児に対するリスクは、血糖値を注意深く管理することによってかなり軽減できることができると考えられています。妊娠糖尿病と診断された場合、次のことを心がけてください。
空腹時の血糖値を知るために朝一番にチェックしましょう。各食事の後にもチェックして、血糖値が健康な範囲におさまっているかを確認します。刺したときの痛みがほとんどない血糖値測定キットの購入を、医師からすすめられる場合もあるでしょう。この検査は、さまざまな食べ物を身体がどのように処理しているのか知るための判断材料となる検査です。血糖値の変化を見ながら、健康的な食べ物を選択するようにしましょう。
栄養士は、食事内容を見直し、新しい食事計画を立てるのを手伝ってくれます。多くの女性は、産後もずっとバランスのとれた食事である「妊娠糖尿病」の食事療法を続けているといわれています。
血糖値が上昇する原因となる食べ物を知るため、食事の後、血糖値と一緒に、食べた物をすべて記録しましょう。
血糖値を下げるために、食事の後に散歩に行ったり、階段を使うようにしましょう。
妊娠糖尿病は食事と運動で十分コントロールできるケースが多いです。
医師が適切な治療と定期的な経過観察をすることで、妊娠糖尿病はコントロールできるといわれています。赤ちゃんに影響が出るケースもほとんどありません。しかし、過剰な糖が母親の血液中を循環し、胎盤を通って胎児循環に入ると、深刻な状態に発展する可能性があるので注意が必要です。
妊娠糖尿病をコントロールしていないと、以下のような状態に陥る場合があります。
・巨大児の可能性がある
・帝王切開の可能性が上がる
・子癇前症および死産のリスクが上がる
糖尿病をコントロールしないと、黄疸、呼吸困難および低血糖値など、生後の赤ちゃんの潜在的な問題につながる可能性があります。赤ちゃんは、その後の人生で、肥満および2型糖尿病のリスクが高くなることがあります。しかし、これらの潜在的な悪影響は、血糖値をコントロールすることでリスクを軽減することができます。以下にその方法を解説します。
グルコースおよびHbA1C(糖化ヘモグロビン)レベルの推移や、問題ある数値かどうかを調べるために、産後1ヶ月健診や毎年の健診の後に、医師にもう一度診てもらうようにしましょう。
血糖値をコントロールするための食事法について、アドバイスしてもらえます。
血糖値を上昇させる要因であり、2型糖尿病の発症に寄与する、砂糖と精製された炭水化物を避けるようにしましょう。
母乳育児は、妊娠糖尿病後に2型糖尿病を発症するリスクを低下させることがわかっています。これは、母乳育児が糖代謝とインスリン感受性を改善し、今後の糖尿病発症リスクを軽減させると考えられているためです。
赤ちゃんがいる状態では難しいかもしれませんが、妊娠中に増えた体重を減らし体重を管理するため、医師に相談しながら運動をできるだけ行うようにしましょう。
妊娠糖尿病と診断されたら、発症の原因や発病リスク、自分自身と赤ちゃんの健康維持のためにできることを正しく理解するようにしましょう。また、妊娠糖尿病は、血糖値の管理と治療によってコントロール可能な病気であり、安全で健康的な妊娠ができることも頭に置いておきましょう。運動や健康的な食事を心がけ、糖尿病のリスクをできる限り抑えるようにしてください。