記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/9/1 記事改定日: 2018/3/27
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腰痛の原因を考えたとき、きっと多くの方は、筋肉の疲れや姿勢の悪さなど肉体的な要因を思い浮かべるかと思います。しかし近年、ストレスによる心因性の腰痛が増加傾向にあるのです。では、ストレスがどうやって腰に影響を与えるのか、脳のメカニズムなどをわかりやすく解説していきます。
腰痛のおよそ85%は原因不明の「非特異性腰痛」です。非特異性腰痛の原因の多くは、悪い姿勢を続けたことやいきなり腰をひねったことでの腰自体の不具合によるものとされていますが、近年の研究によって、非特異性腰痛の中には精神的なストレスが関連して起こる「心因性腰痛」が存在することがわかってきました。
心のダメージであるストレスを要因として、体のさまざまな臓器や器官に病気の症状が現れるのは、よくあることです。ストレスが腰痛となって現れるのも同じことですが、では、ストレスはどういうメカニズムで体に影響を及ぼすのでしょうか?
ひとつは、「ストレスが自律神経の働きを乱すため」です。心理的ストレスは、脳機能の不具合を誘発し、体にストレス反応として現れることがあります。代表的なストレス反応は、睡眠障害や下痢、胃痛、動悸、頭痛などですが、実は腰痛や肩こりもその一つです。例えば動悸は、ストレスによって冠動脈が痙攣することで起こるとも言われていますが、これと同様に腰痛も、ストレスによって自律神経が乱れ、筋肉の血流が悪くなったり、痛みに対して過敏になることで引き起こされる可能性が指摘されています。
そして近年、新たに指摘されているのが、「ドーパミンシステムの異常」です。ドーパミンというのは脳内物質のひとつですが、これは人間が感じる痛みを抑制し、軽減してくれる働きを担っています。
しかし、ストレスが原因でドーパミンの分泌が減ることがわかっています。それによって人は少しの痛みを大きく感じ始めます。そして、それがストレスになることでさらにドーパミンの分泌が減り、結果として大きな腰痛をつくりだし、さらに慢性化させてしまうのです。まさに、ストレスがつくりだした悪循環といえるでしょう。
先述の通り、自律神経の乱れやドーパミンシステムの異常など、脳機能の不具合で腰痛が引き起こされると考えられていますが、脳機能の不具合とは別のメカニズムで腰痛が起きやすくなることも指摘されています。ある研究によれば、「ストレスを感じている状態で荷物を持ち上げる作業をすると、その影響で姿勢バランスが乱れ、椎間板(椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たす軟骨)への負担が高まり、ぎっくり腰の発症リスクが上がる」ということが判明したそうです。
ストレスによる心因性腰痛の場合、以下のような症状が特徴です。ご自身に当てはまるものはないか、チェックしてみましょう。
痛みを感じる場所が日によって移動することがあります。
イライラしているときには痛みが強くなり、気分が良いときには痛みを感じにくい、また、ときにはズキズキ痛むが、ときにはチクチク痛むなど、心の置き所やタイミング次第で痛み方が変わります。
一般的な腰痛の場合、この姿勢(動き)のときは痛いが、この姿勢(動き)のときは大丈夫など、痛みを感じる姿勢や動作がある程度決まってきます。ストレスによる腰痛の場合、それが決まっていません。
数ヵ月以上、ときには1年以上も腰痛の状態が続き、どの薬や治療法を試しても、手術をしてみても、痛みが消えません。そればかりか、症状がやわらぐことがあっても、たびたび再発を繰り返します。
最初に、X線(レントゲン)検査で、骨に異常がないかを確認しておきます。このような画像による検査で異常がない場合は、ストレスによる心因性腰痛の疑いがあります。
また、心因性腰痛には決まった症状がないため、ここから重要となるのが「問診」です。痛みを感じる場所や、痛み方、動き方や姿勢による痛みの変化、痛みを感じるようになったきっかけなどの他、家庭や職場で何かストレスを抱えていないか、医療に対する不信感を持っていないか、痛みに対する悩みやこだわりの深さ、現在までの病歴といったことが聞かれます。
「恐怖回避思考」をご存知でしょうか?恐怖回避思考とは、腰痛になったことで過剰に不安感を持ち、必要以上に腰をかばってしまうことを言います。この思考は痛みを悪化させ、腰痛体質を長引かせる原因とされており、下記のような考え方や習慣の癖がある人は、特に注意が必要です。
・腰痛がずっと治らない気がする
・痛み止めを飲まないと腰痛は絶対に治らない
・腰痛がひどくなるから、腰を反らすのが怖い
・腰痛を理由に欠勤したり、遊びの予定を断ったりする
心因性腰痛を改善するには、上記の恐怖回避思考を克服し、体と心の双方から治療を進めていくことが重要です。日本では一部の医療機関でしかまだ実施されていませんが、心因性腰痛には「リエゾン療法」という治療法が有効とされています。整形外科と精神科が連携して、腰の痛みを改善する「運動療法」と、腰痛に対する行動や考え方の偏りを修正する「認知行動療法」を行っていく治療です。
セルフケアで心因性腰痛を改善するには、まず、根本的なストレスを解消・発散することが大切です。好きなものを食べたり、趣味に没頭したり、誰かに悩みを聞いてもらったりしましょう。
また、嫌だったことを日記にして書くのもおすすめです。日付や状況、自分の気持ち、自分がとった行動、振り返りなどを詳細にかき、数日おきに定期的に振り返ってみてください。感情を抑えつけすぎる、といった行動の癖を分析・修正して、丁寧に振り返ることが大切です。
そして腰の機能維持のために、軽いウォーキングなど定期的な運動習慣をつけることも重要です。背筋や腹筋をつけ、腰痛体質から抜け出しましょう。
「ずっと腰痛が続いているけれど、腰痛のきっかけがわからない」「慢性的なストレスを感じている」というときは、ストレスが原因の腰痛である可能性があります。ただ、がんなどの深刻な病気が原因で腰痛が起こっているケースもあるので、腰痛を感じたらまずは整形外科で検査を受けることが大切です。結果に異常がないのであれば、心因性腰痛を疑っていきましょう。