記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
立ち上がろうとして急に倒れそうになる立ちくらみ。
その立ちくらみは、もしかすると起立性低血圧が原因になっているかもしれません。
起立性低血圧がどのような病気なのかを、この記事でご紹介します。
起立性低血圧は、上体を起こしたり立ち上がったりしたときに血圧が急降下して起こる低血圧のことです。医学的な起立性低血圧の定義は、「起立してから3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか、または収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下、あるいは拡張期血圧の10 mmHg以上の低下が認められる場合」とされています。
起立性低血圧の原因は急性か慢性かによって異なります。
急性の原因として多いとされるのは<循環血液量減少、薬物、長期臥床、副腎機能不全>です。
通常立っているときは重力の影響を受け水分が足のほうに溜まっていきますが、血液も同じように重力の影響を受けるため、下半身に留まりやすく心臓に戻りにくい状態になっています。血液が足に留まったままでいると心臓に戻る血液の量が減少して頭部に送り込まれる血液が少なくなるため、軽い頭痛やめまいを感じるようになるのです。
一方、慢性の起立性低血圧の代表的な原因は<加齢に伴う血圧調節の変化、薬物、自律神経機能障害>です。
起立したときに血圧が下がる起立性低血圧症は自律神経系の働きの鈍いことが原因ではないかという考えもあります。自律神経がうまく対応できないと「寝ている体勢から上体を起こしたとき」や「座っている状態から立ったとき」にうまく血液を脳に送り込めず、脳が一時的に虚血状態になってしまうからです。
座っている状態の血圧よりも起立時の血圧が20mmHg以上下がるときは、起立性低血圧症の可能性が高いです。常時血圧が低くなおかつ起立性低血圧症という人もいます。
めまいや立ちくらみをはじめ、だるい、元気がないという症状から心療内科で診察されることが多いですが、低血圧症は自律神経が上手く働かないことによって起こっている可能性があります。一度専門機関を受診しておくと良いでしょう。
低血圧症の症状は様々で現われ方は人によって異なります。
首筋から肩にかけての部分がこって痛むという「衣紋掛け痛み(コートハンガー・ペイン)」と呼ばれる症状や、立っているときの耳鳴り、特に起立時にはめまい、立ちくらみ、緊張性頭痛、ひどいときには失神を起こすこともあります。また、自律神経の働きが活発になりにくいことから朝起きるのが辛いという特徴があります。
これらの症状は自律神経の動きが活発でない傾向がある若い女性やお年寄り、子供に多くあらわれます。
子供の場合は体の成長に対して自律神経の成長が追いつかないことが原因で、そのような子どもは朝起きられなかったり、朝礼で倒れたりしてしまいます。しかし、一見すると健康そうで、きちんと起きられてることもあるため、本人にとっては実際に辛い症状が「さぼっている」「学校に行きたくないだけ」などと誤解されることも多いです。
そのため、登校する気はあったのに登校するのがますますイヤになって、本当の登校拒否につながってしまうことも少なからずあります。
病院で行う治療としては、静脈系に血液がたまるのを避ける対策としてナトリウム摂取量を増やすように指導されることがあります。
また、治療薬として自立神経活性化が期待できる「ビタミン剤」、ノルアドレナリン(自律神経ホルモン)の分解を阻止する「リズミック」、末梢血管収縮作用のある「メトリジン」、ノルアドレナリン(自律神経ホルモン)の補給のために「ドプス」などを投与されます。
※治療薬の処方は医師や患者の病態によって異なるので、治療の際はかかりつけ医の指示に従って薬剤を服用してください。
この項目では、日常生活の中で取り組める起立性低血圧の予防・対処法を紹介します。ただし、起立性低血圧が起こる原因や体質には個人差があるため、実践する前に医師のアドバイスをもらうことをおすすめします。
血圧の下がりやすい状況(起床直後、食後、風呂上がり、排便時、飲酒時、夏場、運動後など)を把握して、症状が出たら無理をせずに横になって休みましょう。
高血圧症を念頭においた場合は減塩や水分を摂り過ぎないことが推奨されていますが、起立性低血圧の人の場合は塩分摂取量を増やして血管内容量を増加させることで、症状を低減できる可能性があります。
ただし、塩分を好きなだけ摂って良いというわけではないので、医師のアドバイスに従って摂りすぎには注意しましょう。
また、血圧を適度に上昇させる食品(赤ワインやコーダーチーズ、パルメザンイチーズ、コーヒーなど)を食事に取り入れてみる方法にも症状の緩和が期待できます。
寝るときには頭を高めにし上半身を斜めにして寝る(夜間頭部挙上法)と、起床時の起立性低血圧症の症状が緩和されると言われています。
定期的な運動は血管緊張を促す作用があるので、無理の無い範囲で適度な運動を取り入れると良いでしょう。
起立性低血圧の症状は多岐に渡りますが、立ちくらみやめまいなどの比較的軽い症状の場合は「体質だから・・・」「これくらいで病院に行くのは大げさな気がする・・・」などと考えてしまったり、本人にとっては辛い症状でも周囲から理解されなかったりと、治療せずに放置してしまうケースが少なくありません。
しかし、起立性低血圧は治療できる病気です。
起立性低血圧の症状がたびたび起こる場合は遠慮せずに病院を受診してみましょう。