記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/9/6 記事改定日: 2019/7/31
記事改定回数:2回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊娠していると、毎回病院の健診で血圧を測っていますよね。血圧は、トラブルを早く見つけるためにとても大切です。また、妊婦は、低血圧になるリスクが高いので、気をつけないといけません。また、妊娠高血圧症候群にも注意が必要です。この記事では、妊娠中の血圧についてまとめました。
妊娠中の血圧は、「至適血圧」「正常値」「正常高値」「妊娠高血圧症候群」に分類されます。
心臓が収縮したときの収縮期血圧が90〜120mmHgで、心臓が拡張したときの拡張期血圧が50〜80mmHgになっていると、母親の体や赤ちゃんに負担をかけないですむといわれています。
収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧85mmHg未満が、妊娠中の血圧の正常値といわれています。
収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満なら妊娠高血圧症候群の一歩手前です。これ以上高くならないように、食事や運動など、毎日の生活で、注意しましょう。
妊娠20週以降、分娩後12週までで、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上になると、妊娠高血圧症候群と診断されます。最高血圧が160mmHg以上か、最低血圧が110mmHg以上のどちらかの場合、重度の妊娠高血圧症候群です。
妊娠中は、母体からお腹の赤ちゃんに血液を送っています。妊娠中は、おなかの中の赤ちゃんや胎盤の発育に必要な血液を含め、母体の循環血液量が、妊娠していない時の約1.5倍になります(血液量が上昇すると血圧は上がります)。
しかし、ヘモグロビンの数は増えないため、相対的な貧血になり、結果として低血圧になりやすくなります。また、妊娠後期には大きくなった子宮が太い血管を圧迫して血流が悪くなり、低血圧の原因となることがあります。
妊娠中に低血圧になる人は多いです。もし低血圧になっても、母体や胎児には直接的には悪影響はありません。ただし、低血圧になると貧血のような症状を感じやすくなり、めまいやふらつきが現れます。転んでお腹を打ったりすると、赤ちゃんにも影響があります。
妊娠初期のつわりが影響して水分や食事を摂れずにいると、貧血になることもあります。そうすると、椅子から立ち上がったときなどにめまいやふらつきを起こす起立性低血圧になりやすくなるので注意が必要です。
妊娠中期から後期は、仰向けでいると、大きくなった子宮が心臓への血液の通り道である下大静脈を圧迫し、血圧が低下することもあります。これは仰臥位低血圧症候群とも呼ばれ、血管が押しつぶされて血液の循環が鈍くなることで心臓での血液の出入りが少なくなり、急激に血圧が低下することで母体やお腹の赤ちゃんに血液がいかなくなることもあるので注意が必要です。母体は意識が遠のき気絶する場合もあるうえ、お腹の赤ちゃんも心拍数が低下し低酸素状態になる可能性があります。
妊娠中に低血圧になると、母体だけでなく、赤ちゃんにも悪影響があります。病院や家庭での血圧測定は、血圧異常の早期発見につながるので、万が一に備えて定期的にチェックし、母子手帳を見て自分の血圧の状態を把握しておきましょう。
また、妊娠していると、血行不良や水分不足、栄養不足になりやすくなります。少しずつでかまわないので、きちんと水分や栄養を補給するようにしましょう。適度な運動で血行を改善し、睡眠をたっぷりとることも大切です。
妊娠高血圧症候群は、全妊婦の約5%に起こる病態で、何らかの原因で高血圧になることを言います。発症の原因は詳しくわかっていませんが、高齢出産や肥満の妊婦、妊娠以前から高血圧症の人に起こりやすいといわれており、遺伝性もあることが分かっています。
妊娠高血圧症候群の症状は高血圧だけでなく、急激なむくみに伴う体重増加や検査で蛋白尿が指摘されます。重症になるとけいれんを起こす子癇発作や脳出血、早期胎盤剥離などの生命に関わる重大な病気が引き起こされることもありますから注意しましょう。
妊娠高血圧症候群の治療は、症状の重症度と妊娠週数によって異なります。妊娠34週以降に降圧薬によってもコントロールできないほど重症の場合には、緊急的に帝王切開を行い妊婦と赤ちゃんの安全を守ります。また、それ以前の週数では、降圧薬や子癇発作を防ぐ薬を投与する治療が行われ、軽症例では塩分をひかえた食事療法のみが行われることもありますが、中等度から重症の場合には暗い部屋の中で安静療法が行われることがあります。
妊娠高血圧症候群は発症するとあっという間に重症化し、母子ともに生命の危険に晒されることのある恐ろしい病気です。ですから、早期発見、早期治療が非常に重要になります。妊婦健診で必ず血圧や尿たんぱくをチェックするのは、妊娠高血圧症候群の危険がないかを調べるためです。特に異常がなくても、決められた妊婦健診は必ず受診するようにしましょう。
また、高血圧の原因は塩分の摂りすぎや野菜不足なども関係しています。特に妊娠中は妊婦が食べたものから赤ちゃんに栄養がいくため、規則正しく健康的な食生活を心がけましょう。また、ストレスの多い生活や睡眠不足、過労などは妊婦の体に過度な負担を強いることになりますから、心身ともにリラックスした状態で過ごすことが大切です。
妊娠高血圧症候群のチェックは妊婦健診のときだけでなく、自宅でも行うのが理想的です。初期の頃には大きな症状はありませんが、毎日自宅での血圧を測ることで、血圧が徐々に上がる兆候が確認できます。自宅での血圧が収縮期で140前後になったときや、普段低血圧の人でも、いつもより収縮期血圧が20以上高くなったら病院を受診した方がよいといわれています。また、他にもむくみがひどくなったり、暴飲暴食をしていないのに一日で1キロ以上の体重増加があった時は妊娠高血圧症候群の可能性がありますので速やかに病院へ連絡して指示を仰ぎましょう。
いざ、血圧や体重の変化が起きた時、一目瞭然にわかるためにも、毎日血圧と体重をチェックして母子手帳などに記入しておくことをおすすめします。
血圧を安定させるためには、できるだけ安静にし、ストレス・睡眠不足・疲れを解消するなど、規則正しい生活を心がけることが大切です。定期的な妊婦健診を心がけ、普段の生活を見直し、低血圧や高血圧を防ぎましょう。