記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/10/26 記事改定日: 2019/6/11
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
卵胞がうまく発育しないために、排卵が起こりにくくなってしまう「多嚢胞性卵巣症候群」。妊活中の女性を悩ませることもある病気ですが、なにが原因で発症するのでしょうか?対策や治療法と併せて解説していきます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は、明確にはわかっていません。ただ、いまのところは内分泌異常や糖代謝異常によって引き起こされるという説が有力視されています。
女性の体内では通常、脳下垂体からの指令を受けて分泌された「黄体化ホルモン」と「卵胞刺激ホルモン」という2つのホルモンが、卵巣に作用して卵胞の発育を促します。
多嚢胞性卵巣症候群の人は黄体化ホルモンが過剰に分泌されるため、ホルモンバランスが崩れやすいです。この影響で卵胞がうまく育たなくなってしまい、排卵が阻害されることで発症すると考えられています。
糖代謝異常からくる男性ホルモンの増加が、多嚢胞性卵巣症候群を引き起こすといわれています。
多嚢胞性卵巣症候群を患っている人の多くは、遺伝や生活習慣などの原因でインスリン(血糖値を下げるホルモン)が効きにくくなっており、インスリンが過剰に分泌されています。
通常、女性の体内では男性ホルモンが産出されても、性ホルモン結合グロブリンと結合することで活性力を抑えていますが、インスリンは性ホルモン結合グロブリンの数を減らす働きがあるので、卵巣内では男性ホルモンが増えてしまうのです。
多嚢胞性卵巣症候群には、生活習慣が関連しているといわれています。「糖代謝異常」の項でインスリンの過剰分泌の話をしましたが、これには肥満や食生活の乱れが大きく関わっていると考えられています。事実、多嚢胞性卵巣症候群の患者さんには一定程度肥満傾向の方がみられます。
また、ストレスも多嚢胞性卵巣症候群の要因のひとつと考えられています。ストレスはホルモンバランスを乱す原因としても知られており、また過度のストレスは男性ホルモンの過剰分泌を促す恐れがあるからです。
多嚢胞性卵巣症候群の発症要因として、食生活の乱れやストレスが挙げられることから、まずは生活習慣を見直しが必要といえるでしょう。
生活習慣を改善しても症状に変化がない場合や、日常生活に支障をきたしている場合、妊娠を希望する場合などが理由で、医師が専門の治療が必要と判断した場合は、薬や手術での治療が検討されます。
多嚢胞性卵巣症候群は、上で述べたような原因によって引き起こされます。このため、症状を改善するには、栄養バランスを考えて適正カロリーを守った食生活・適度な運動習慣などで肥満を予防してインスリンの働きを改善すること、十分な休息や睡眠時間を確保してストレスが溜まりにくい生活を心がけることが大切です。
また、日頃から基礎体温を記録して自身の性周期を把握し、性周期の乱れや排卵がないことが考えられる場合にはできるだけ早く婦人科で相談するようにしましょう。
病院では排卵を促す治療が行われることになりますが、主な治療法には、「経口薬の処方」「注射」「手術」があります。
すぐの妊娠希望がない場合はまず低用量ピルで人工的に月経周期を作ってホルモン分泌を整えていきます。一方すぐの妊娠希望がある場合はクロミフェンという排卵誘発剤を処方し、排卵を促します。
反応が得られないときは漢方薬や、時に糖尿病薬も併用しながら治療を行っていきます。これらの薬で効果が得られないなら、HMG製剤などの排卵誘発剤の注射や、卵巣に複数の穴をあけて排卵を促す腹腔鏡手術を実施するのが一般的です。
多嚢胞性卵巣症候群の原因は、現段階でははっきりとはわかっていません。体質や遺伝によるという説もあるようですが、一方で生活習慣の乱れもひとつの要因として考えられています。少しでも症状改善に近づくよう、食事療法や運動療法などできることから始めていきましょう。