東京都医師会理事 目々澤肇先生インタビュー(後編)

2017/11/1

2011年に東京都医師会理事に就任以来、医療情報のICT化に尽力されてきた目々澤肇先生。2018年4月から運用される「東京総合医療ネットワーク」のお話に次いで、後編では、医療関係者や患者にとって有効な医療系アプリやツールの現状、その課題や展望についてを伺います。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

専門医師に指示、意見を仰げる、D2D(医師間)専用SNSが大人気

―地域包括ケアでいうと、在宅医療に伴って医療職-介護職間の連絡ツールも現場ではだいぶ使われてきていますね。

私もある特別養護老人ホームで配置医を務めていますので、メディカルケアステーションという連絡ツールを使っています。入居者さんの状態について介護職の方から相談がチャットのように入ってきて便利ですが、その後は電話で指示をしたり直接訪問するといった対応になりますから、ツール上でやり取りが完結するものではないですね。電子カルテとは異なり、取り扱う情報の内容や権限も異なるので、医療ネットワークとは別に管理運用するのがよいのではないかと私は思います。例えば小児難病のように決まった病院にかかりながら地域で生活していく場合などには、そうした医療介護連携ツールに病院の主治医や看護師なども必要に応じて参加するなどがあってもいいかもしれません。
これらは「非公開型SNS」と呼ばれ、医療分野での利用を意識したセキュリティが担保されています。

それ以外にも、医療機関の外で患者さんの医療情報を扱うツールというのは実用化が進んでいます。

―どういうものが使われているのですか?

例えば、Join(ジョイン)はiOS版、アンドロイド版が出ている、医療関係者間コミュニケーションアプリで、医療機器プログラムとして厚生労働省の医療用機器としての認証も得ています。院内システムと連携させるとそこからMRIやCT画像が送れ、アプリ内で表示および書き込み編集ができるので、救急現場でたいへん役立っています。例えば、脳卒中診療に当たる当直医は、これで患者情報を匿名化したMRI画像を上級医師に送ってみてもらい、t-PA治療の可否判断を仰ぐのに用いたりしています。私も、自分の患者さんのホルター心電図の記録などをグループチャットに上げて、不整脈に造詣の深い先生のご意見を伺ったりしていて、他の先生方の知見を容易に有効活用できるようになっています。

個人所有の端末活用も含め、現実的な運用で普及を促進

―医療用に特化したツールが開発され、活用されているのですね。

実は、こういうものができる前はLINEやfacebookなどといった公開型のSNSを使っていたこともありました。それ以前の医療界は電話やファックスでのやり取りしかありませんでしたから、グループを作って共有できたり時間を気にせず連絡したりできる点で利便性が高く、使われるようになったのだと思います。ただし、公共のSNSだと認証が甘く、本当に本人かは分かりません。秘匿性や専門性を考えると、やはり医療に特化した非公開型のSNSを用いることが望ましいでしょう。
認証というのは非常に大切で、例えば東京総合医療ネットワークでは、将来のコンセプトとしてクラウド型電子カルテを介した診療所からのアクセスには医師免許証(HPKIカード:日医認証局)用いる予定です。

―たしかに、それであれば安心ですね。

もう一つ大きな問題があって、個人情報保護法の改正を機に2017年5月、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が改訂されたのですが、その第5版で、個人の管理下にある端末の業務利用、BYOD(Bring Your Own Device)が原則禁止とされてしまったのです。つまり、みなさんが普段使われているプライベートのスマートフォンなどでこれらのツールにアクセスしてはいけないということになります。これはどうでしょう、現実的には難しくはないでしょうか。

実際に、東京の多職種連携のシステムの7割は個人端末で使われており、それを医療機関や介護事業者からの支給に切り替えることは不可能に近いでしょう。新規にシステムの導入を考えたときにも、端末まで支給するのは大きな障壁です。せっかく使われ始めたものが頓挫してしまうかもしれず、必要な時に使えねば本末転倒です。端末の紛失、盗難など安全管理のためだとしても、複数台数を持つメリットはあまり考えられませんし、患者さんが受けられる利便性と秤にかければ、このリスクには目をつぶるべきではないかと私は考えます。東京都医師会としてもその考えで、BYODの堅持を訴えていこうとしています。現状に合わせ、公衆無線LANへの接続禁止などのルールを定めていけば十分、BYODでやっていけるのではと思っています。

患者主導の健康情報管理で、いつでもどこでも最高の医療を受けられる社会へ

―医療のICT化や専用SNSの進化に伴い、今後への展望は何かありますか?

個人の医療情報、PHR(Personal Health Record)は国が電子カルテのデータを元にビッグデータとして管理して、個人に下ろしていこうとしていると思われますが、私はそれよりも、一人ひとりがご自分の通院記録や処方せん、検査データなどを個人の手元で管理するのがよいのではと思います。
OsiriX(オザイリクス)という無料アプリを使えば現在でもMRI画像データもMacから取り込むことによってiOS機器で保存、閲覧ができるためこのエンジンを使ったアプリ制作も期待できますし、最近は光学文字認識のOCR技術も進んでいるので紙でもらった検査データもスマホで撮影して処理すればテキストとしてデータベースにおさめた管理も可能です。

一般の方にとって扱いやすいのは、MeDaCa(メダカ)というサービスです。いわば医療版のライフログで、スマホアプリやwebで患者さんがご自分の医療・健康データを管理・活用できるものです。これにデータをまとめておけば、初めて行った医療機関でもそれを示すことで、体質や健康状態が正しく伝わります。例えば大学病院ならば採血してその日のうちに検査結果も分かるかもしれませんが、私のような開業医ですと検査会社に出すので結果は翌日または数日後にしかわかりません。その時に、患者さんの手元にある過去のデータを見せてもらえればその日の診察にも役立ちますし、血液検査の項目もより的確に選択できるでしょう。

こうした医療関連のツールやアプリは、現場を知る医師が開発に当たってアドバイスする必要があります。私もよく声をかけていただくので、自分なりの考えをお伝えして反映していただいたりしています。東京都医師会としての仕事に加え、こうしたことでも今後ますます、患者さんの利便性創出のために声を発していきたいですね。

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