記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/11/7 記事改定日: 2019/4/5
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
現在、若い女性の発症率が高まりつつある不妊の原因のひとつに「多嚢胞性卵巣症候群(PCO)」があります。以降で、多嚢胞性卵巣症候群の具体的な症状や原因、治療法などを解説していきます。
女性は、基本的に初潮から閉経までの期間、月経1周期ごとに1つずつ成熟した卵子を排卵する事により妊娠が可能となります。しかし多嚢胞性卵巣症候群(PCO)の場合は、正常な自然排卵に障害が出ることで不妊の一因となる事があります。
多嚢胞性卵巣症候群の人の卵巣内では、卵子の素となる未成熟の卵胞が蓄積され、卵巣のエコー画像を見ると1cm程度の未成熟の卵胞がネックレスの様に並ぶネックレスサインが見られます。
未成熟の卵胞の蓄積が進めば進むほど正常な自然排卵が起こりづらくなります。
多嚢胞性卵巣症候群の発症率は、従来妊娠可能な年齢の女性100人に1人と言われていましたが、近年の発症率は20〜30人に1人と増加傾向にあり、特に若い世代の女性に多く発症している病態です。
多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣に未成熟の卵胞が蓄積されることにより、月経周期が35日以上の周期になる稀発月経や月経自体が来ない無月経、排卵が行われず基礎体温に変化が少ない無排卵月経などの月経異常を発症します。また、正常な排卵が行われていないので妊娠し難くなります。
また、多嚢胞性卵巣症候群は卵巣が正常に機能していないだけでなく、男性ホルモンのアンドロゲンも増加するため、指や足、背中、口唇周辺が毛深くなる多毛症、ニキビの増加、声の低音化、乳房の縮小などの男性化症状、体重が増加する肥満症などの症状を発症し、この肥満症によって脳や心臓の血管疾患の発症リスクも高くなります。
また、多嚢胞性卵巣症候群は、心血管疾患の発症リスクを数倍に高めてしまう耐糖能異常の発症リスクも高くしてしまいます。
多嚢胞性卵巣症候群は妊孕性に影響を与えるだけでなく、全身に様々な影響を与えます。できるだけ早期に治療を開始することが望ましく、そのためにも早期発見が重要になります。
以下のような症状や身体の変化がある場合は多嚢胞性卵巣症候群の可能性があります。当てはまる項目が多い人は、なるべく早めに婦人科を受診して検査を受けるようにしましょう。
多嚢胞性卵巣症候群は、発症原因が明確に解明されていない病態ですが、遺伝や内分泌異常、糖代謝異常、生活習慣などが発症原因と考えられています。
まず内分泌異常ですが、多嚢胞性卵巣症候群の患者さんの体内では、脳下垂体から分泌される黄体ホルモンと卵黄刺激ホルモンに加え、膵臓から分泌されるペプチドホルモンのインスリンが卵巣に過剰に作用しています。この影響でアンドロゲン(男性ホルモンの一種)の分泌量が過多になり、また卵胞刺激ホルモンと比べ黄体ホルモンが過多となりホルモンバランスが乱れるようになります。このことが多嚢胞性卵巣症候群を引き起こすのではないかと考えられています。
そして糖代謝異常ですが、多嚢胞性卵巣症候群の患者さんはインスリン抵抗性を示すケースが多く、これにより過剰にインスリンを分泌するようになります。この過剰なインスリンは非活性のアンドロゲンを活性化させるため、アンドロゲンの総量が過剰となり、多嚢胞性卵巣症候群を発症させると考えられています。
多嚢胞性卵巣症候群は、正確な発症原因が解明されていないので根本的な治療法が確立されていませんが、妊娠を希望する患者さんに対してはクロミフェンなどの排卵誘発剤による薬物治療が行われます。
しかし、薬物療法で効果が得られない人に対しては、インスリンの過剰分泌を抑制するメトホルミンの併用や、黄体ホルモンと卵黄刺激ホルモンを含むhMG製剤、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを含むhCG製剤を用いるhMG-hCG療法が行われています。
また、薬物療法以外に、卵巣の表面に電気メスやレーザーなどで小さな穴を複数開ける腹腔鏡下卵巣多孔術が行われることもあります。
なお、妊娠を希望しない患者さんに対しては、月経初期から中期にエストロゲン製剤、月経後期にプロゲステロン製剤を投与するカウフマン療法や避妊薬の服用が行われます。また、月経不順や月経痛、更年期障害に有効とされる漢方薬の温経湯が処方されるケースもあります。
稀発月経や無月経などの月経トラブルだけでなく、体毛が濃くなるといった男性化の兆候もみられた場合、多嚢胞性卵巣症候群の可能性があります。将来的に妊娠にも影響を及ぼす恐れがあるので、「もしかして?」と思ったら早めに専門の医療機関を受診してください。