記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2017/12/15
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)とは、虫歯などの歯のトラブルが原因で起こる副鼻腔炎のことです。歯性上顎洞炎の治療は、原因や症状によって変わってきますが、どのような違いがあるのでしょうか。歯性上顎洞炎について詳しく解説していきます。
鼻からつながる洞穴のような構造を副鼻腔と呼び、前頭洞、篩骨洞、蝶形骨洞、上顎洞の4種類があります。
副鼻腔の内部は空気で満たされ、副鼻腔の壁は粘膜で覆われており、入ってきた微生物やほこりを除去する働きを持っています。
副鼻腔の中で目の下、つまり上顎骨の内部にあるものを上顎洞と呼びます。ここになんらかの原因で炎症が起きる事を上顎洞炎といい、慢性化して常に膿が溜まった状態になったものがいわゆる蓄膿症です。
その中でも虫歯や歯周病、つまり歯の病気が原因で上顎洞炎を生じたものが歯性上顎洞炎と呼ばれます。急性期では上顎洞に膿がたまり痛みや腫れなどの強い症状がでます。慢性期では自覚症状に乏しい事もありますが鼻水、鼻づまりなどが生じます。
急性期では以下の症状が出現します。
・原因歯の症状
歯が痛む、ぐらつく、周りの歯肉や粘膜の痛みや腫れ
・鼻水
膿のまじった鼻水が出る、歯性上顎洞炎の場合では口の中の常在菌のため、黄色がかった鼻水が多くなることが特徴
・後鼻漏
鼻水がのどの方に流れ、のどや気管支に炎症が起こることがある
・鼻づまり
粘膜が腫れることで空気の通り道が狭くなり、鼻づまりが起こる
・痛み
ほおから目の下にかけて痛みや前頭部や目の奥が痛み、奥歯の知覚過敏や噛むときの痛み
・腫れ
目の下が赤みやほおの腫れ
・嗅覚障害
粘膜の腫れにより匂いを感じにくくなる
慢性期では上記の症状が弱まるか自覚症状が無くなる場合もあります。鼻水は白く粘りの強いものに変わります。
・虫歯
虫歯から歯の根の先に細菌が感染して、そこから上顎洞に感染が広がって生じます。歯性上顎洞炎の原因として最も頻度が高いものです。
・歯周炎
重度な歯周炎の場合には根の先の方に向かって感染が広がっていくので、上顎洞と歯の位置関係が近い場合に上顎洞炎が起こる事があります。
・インプラント周囲炎
インプラントの経過不良症例ではインプラント周囲の炎症から上顎洞炎を起こす事があります。
・異物
治療中の器械の破折、根をつめる時に使う充填材が歯の根からはみ出て上顎洞に入り込む事があり、このために上顎洞炎を起こす事があります。
また歯性上顎洞炎の誘因のひとつとして、元々の形態、つまり歯と上顎洞の位置関係が大きく影響します。上顎洞の底が深く歯に近い場合や、上顎骨の幅が狭くは歯から上顎洞までの距離が短い場合には感染が広がりやすく、上顎洞炎を起こしやすい傾向にあります。
歯性上顎洞炎では上顎洞と原因歯の双方への治療が必要となります。
・抗菌剤の投与
・ネブライザー
ネブライザーと呼ばれる機械で超音波で薬剤を噴霧状にして鼻、上顎洞の中を洗浄します
・上顎洞穿刺
全身状態、アレルギーなどにより抗菌剤の投与ができない場合に行われる事があります。局所麻酔の上針を刺し、上顎洞を直接洗浄し膿を洗い流します。
・原因歯の治療
原因になっている歯の周囲に膿が溜まっている場合には、切開し膿を洗い流します。虫歯から根の先に感染が広がっているものでは根の治療(根管治療)を行います。場合によっては抜歯することもあります。
・薬の長期投与
マクロライド系の抗菌薬を1~数か月かけて投与します。
・ネブライザー
・原因歯の治療
歯の修復やブリッジや入れ歯などの治療、また抜歯によって生じた上顎洞の穴が閉鎖しない場合には穴を閉じる手術を行います。
歯性上顎洞炎は鼻水や鼻詰まりなどの鼻の症状が起こる病気ですが、原因が歯に関することになるため、症状の進行度合や原因になる歯の状態によって治療方法がまったく違ってきます。歯のトラブルと鼻の症状の両方の問題を抱えている場合は、必ず担当医に伝えるようにしましょう。