記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/11/20 記事改定日: 2020/7/29
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
卵巣にできる腫瘍の一種に、「卵巣奇形腫」というものがあります。今回はこの卵巣奇形腫について、発症時に現れる症状や治療法などを解説していきます。
卵巣奇形腫とは、卵巣に腫瘍ができる病気のうちの一つで、卵巣腫瘍の中でも約15~20%を占めるとされ、「成熟嚢胞性奇形腫」「未熟奇形腫」の2種類に大きく分けられ、いずれもはっきりとした発生原因はまだ明らかになっていません。
成熟嚢胞性奇形腫は腫瘍の中に髪の毛・表皮・歯・骨といった成熟した体の様々な組織ができるもので、基本的には良性腫瘍です。約80%を20~30代女性が占めているとされ、若年の方にも多いと言われています。
未熟奇形腫は腫瘍の中に未熟な神経系組織ができてしまうもので、成熟嚢胞性奇形腫と比べ珍しく、悪性腫瘍の性質を持ちます。
卵巣奇形腫では初期症状がほとんどありませんが、大きくなると下腹部にしこりを感じることもあります。腫瘍がさらに大きくなると周辺が圧迫されはじめ、卵巣の周りの臓器に影響が出てくるようになり、腹痛・腰痛・頻尿・便秘といった症状が現れるようになります。
なお、卵巣奇形腫が良性の場合でも、卵巣茎捻転・卵巣の破裂などの症状に繋がることもあります。
また、ごく稀にですが、免疫システム異常を起こして「抗NMDA受容体脳炎」を合併することもあり、幻聴や痙攣、意識障害が現れることもあります。
卵巣奇形腫のほとんどは良性のため、サイズが小さければ経過観察となることもしばしばあります。ただし、以下の状態のときは手術が検討されることもあります。
また、卵巣奇形腫は再発することがあるため、腫瘍摘出後も経過観察が必要です。再発した場合も再度手術での摘出となり、悪性の奇形腫では他のがんと同じように術後に化学療法が必要となります。
卵巣奇形腫の手術には、以下の2つの方法があります。
術式としては卵巣嚢腫核出術(卵巣表面に切開を加え腫瘍のみを摘出する)と付属器切除術(卵巣と卵管を丸ごと摘出する)の2つがあり、基本的に良性であれば前者が、悪性であれば後者が標準となります(閉経後などでは良性でも付属器切除をすすめられることもあります)。
卵巣奇形腫の疑いがある場合は、まず超音波検査や腹部CT・腫瘍マーカー血液検査などで腫瘍のサイズ・状態を調べ、患者さんの希望も含めて治療方針を考えていきます。
卵巣奇形腫は、早期段階で自覚症状が出ることはあまりありません。お腹の張り、下腹部、腰痛の痛みや、卵巣周囲の臓器を圧迫することによる便秘や頻尿などの症状は、腫瘍が大きくなっていくにつれて起こるものです。これらの症状が現れた場合は軽く考えずにできるだけ早く病院を受診するようにしましょう。
卵巣奇形腫の多くは良性腫瘍であるため早急に手術をしなければならないわけではありませんが、できるだけ早い段階で見つけられるようにするためにも、定期的に婦人科健診を受けるようにしましょう。
卵巣奇形腫は多くの場合良性のものですが、捻れたり破裂することで下腹部の激痛を引き起こしたり、卵巣壊死を招いたりするリスクがあります。自覚症状がほとんどない厄介な病変なので、定期的な婦人科検診を欠かさず受けるようにしましょう。