記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2017/12/15 記事改定日: 2019/3/22
記事改定回数:1回
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
歯にできることのある腫瘍に、「エナメル上皮腫」。このエナメル上皮腫にはどういう特徴があるのでしょうか?
ここではエナメル上皮腫の症状や治療法や再発のリスクについて解説していきます。
エナメル上皮腫とは、歯の発生の過程でできる腫瘍のひとつです。
歯の表面にはエナメル質と呼ばれる固い組織がありますが、これとよく似ていることから、命名されました。10~30代によくみられ、女性よりは男性の方が多く出る傾向があります。
エナメル上皮腫は基本的には良性の腫瘍ですが、まれに悪性になることもあります。
上顎よりも下顎に出やすく、前歯よりも圧倒的に奥歯の方にできやすいといわれています。下顎の犬歯から親知らずのあたりにできることが多く、左右による差はありません。
エナメル上皮腫で痛みを感じることは少なく、腫瘍の成長がゆっくりであるため症状が進行しないと自覚症状が出にくいです。
しかし、ある程度腫瘍が大きくなってくると、顎が大きくなったり、出っ張ったような感覚が起こります。
さらに腫瘍が大きくなると、その部分の骨が吸収されてしまい
こともあります。
エナメル上皮腫で顎が腫れても痛みはありませんが、歯茎から出血したり、歯並びが悪くなったりと見た目から症状が進行していることが分かります。
顎が出っ張ることで顔の形が変わってしまうこともありますが、初期では変化が小さいため自分では気づかないことが多いようです。
エナメル上皮腫の診断は、レントゲンやCTによる画像診断を行います。レントゲン上では境界がはっきりした腫瘍が確認され、透過画像として見ることができます。
歯科で撮影したレントゲンによって、偶然発見されることも多いです。
ただし、エナメル上皮腫はレントゲンだけでは他の腫瘍との区別がつかないために、病理検査といって、腫瘍の一部を切り取って顕微鏡で見ることで確定診断がされます。
顎の骨ではエナメル上皮腫の他にも腫瘍が起きることがあるので、その他の病気との区別をするためにも病理検査は必要です。
エナメル上皮腫の治療法には、保存的外科療法と根治的外科療法の2種類があります。
エナメル上皮腫の保存的外科療法は、腫瘍のある部分に窓を開けて、圧力を低下させて腫瘍が小さくなってから取り除く治療方法です。
子供など若い人に適用される治療法ですが、再発の可能性が高いというデメリットがあります。
根治的外科療法は、腫瘍の周りの顎の骨を切除する治療法です。症状の度合いに応じて、切除する骨の量は変わります。
成人以降の人に行われることが多く再発のリスクが低いので、再発したくない人、きちんと治したいという人に向いた治療法です。
エナメル上皮腫は手術によって切除することができますが、腫瘍やその周辺組織の摘出が十分でない場合には再発することがあります。
また、エナメル上皮腫は良性腫瘍ですが、再発を繰り返すことで悪性化することもあり、顔面の骨に浸潤するなど重篤な状態を引き起こすことも少なくありません。
再発した場合でも早期に再手術などを行うことで更なる再発や悪性化のリスクを軽減することができますので、手術後も定期的に検査を受けることが大切です。
特に下顎にできることの多いエナメル上皮腫。痛みが出ることは少ないですが、放置していると歯並びの悪化につながったり、悪性腫瘍に変化したりする可能性もあるので、定期的な歯科健診を受け、早期発見・治療を心がけましょう。