記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/12 記事改定日: 2020/9/16
記事改定回数:2回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ほてりや動悸、いらいらや疲労感などさまざまな症状をもたらす「甲状腺機能亢進症」は、女性の発症率が高い病気として知られています。今回の記事ではこの甲状腺機能亢進症の原因や症状、治療法、日常生活での注意点を中心にお伝えしていきます。
甲状腺機能亢進症とは、頸部にある甲状腺という内分泌臓器の働きが活発になり、ホルモンがたくさん作られるようになることで発症します。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまうことにより、上記のような種々の症状が現れます。
甲状腺機能亢進症の中で典型的なものはバセドウ病で、これは感染症などに対する防御のために産生される抗体が自分の体の臓器を誤って攻撃してしまう膠原病の一種です。こういった膠原病は男性に対して女性の患者数が多いことが特徴ですが、バセドウ病も若い女性に多い疾患です。
バセドウ病の症状では眼球が突出したり、甲状腺が大きくなって皮膚の上からでも分かるようになるなどの表面的な特徴を伴うことも多いといわれています。
また、甲状腺そのものに炎症が起こり、普段より硬くなったり弾性を有したりする場合もあります。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に産生されていることによって起こるので、治療では甲状腺の働きを抑制し、過剰に産生されるホルモンの量を減らすことが重要です。
薬物療法では、抗甲状腺薬を飲んで甲状腺ホルモンの産生を抑制して症状を軽くしていきます。ただ、症状を抑える効果は一過性のものであり、継続的に薬を飲み続けなくてはなりません。
また根本治療ではないため薬剤を中止すると再発するリスクが非常に高いというデメリットがあります。
甲状腺機能亢進症は薬物療法が第一選択となりますが、甲状腺ホルモンの分泌を抑える「抗甲状腺薬」が使用されます。抗甲状腺薬には、チアマゾールとプロピルチオウラシルと呼ばれる2つのタイプがあり、一般的にはチアマゾールが使用されます。
しかし、チアマゾールの成分は母乳に混ざることが分かっており、母乳育児をする方にはプロピルチオウラシルが使用されます。
これらの抗甲状腺薬はいずれも発疹やかゆみなどの副作用を引き起こします。また、チアマゾールはまれに無顆粒球症と呼ばれる血液細胞の異常を引き起こす副作用が生じることもあるため注意が必要です。
また、抗甲状腺薬は、毎日規則正しく忘れずに服用すること・定期的に甲状腺ホルモン値の状態を調べる検査を受けることが大切です。飲み忘れがあると急激に甲状腺ホルモンの分泌が増加する「甲状腺クリーゼ」を引き起こして命に関わることもありますので注意しましょう。
ほかの治療法として、甲状腺がヨウ素を取り込みやすいという特性を利用し、放射線を出す物質をくっつけたヨウ素を取り込みます。その放射線によって甲状腺を部分的に破壊する治療、ラジオアイソトープ療法もあります。
ラジオアイソトープ療法は手術をせずに甲状腺機能亢進症を根本的な治療ができる方法です。しかし、治療を行うと甲状腺の機能が低下しすぎて甲状腺ホルモン剤の内服が欠かせなくなることもあります。また、破壊された甲状腺の細胞から甲状腺ホルモンが漏れ出して、一時的に症状が悪化することがあります。
薬物療法やラジオアイソトープ療法などの体に負担が少ない治療を行っても、症状が改善しない場合には手術によって甲状腺を摘出する治療が行われます。
甲状腺機能亢進症での甲状腺摘出手術は、甲状腺の全てを切除するのではなく、一部を残す「亜全摘」という方法が取られます。術後一年ほどは逆に甲状腺ホルモンが減少することで甲状腺機能低下症の症状が現れますが、多くの場合は術後一年を経過すると甲状腺の機能は正常化します。
甲状腺のホルモンを産生する臓器自体を摘出するため、高い治療効果が得られますが、首に傷跡が残り、様々な神経が通る甲状腺を摘出する際に神経にダメージが加わると、声がかすれるなどの後遺症が出ることもあります。
甲状腺機能亢進症の治療は、甲状腺ホルモン量を少しずつ減らしていきます。そのため、体調を見ながら、やや長期の視点で治療を進めなくてはなりません。その際、日常生活を送るうえでの注意点がいくつかあります。
活動的な状態から身体を遠ざけるためにも、とにかく安静を心がけ、ストレスを避けて気楽に過ごすことが重要です。
そもそも、甲状腺ホルモンは身体を活動的にするホルモンです。身体は蓄えられたエネルギーを消費しながら、熱を産生し活動しなくてはならないときに、甲状腺に信号を送って甲状腺ホルモンを出しますが、甲状腺機能亢進症ではそのメカニズムが壊れてホルモン過剰となっているので、追加の信号を甲状腺に入れないようにすることが重要です。
バセドウ病などの膠原病には喫煙によって症状が進行してしまうリスクがありますので、甲状腺機能亢進症と診断されたら禁煙を視野に入れる必要があります。
甲状腺機能亢進症では、特に食事を制限する必要はありません。しかし、ラジオアイソトープ検査や治療を受ける場合には、その1~2週間前にはヨウ素を多く含む食事を制限しなければなりません。
これは、ヨウ素は甲状腺ホルモンを生成する材料の一つであり、ラジオアイソトープは甲状腺に放射性物質の要素を取り込ませることで検査や治療を行うため、甲状腺に食事から取り込まれる余分なヨウ素を蓄積させないためです。
ヨウ素が多い食材としては、昆布や海藻類、昆布エキスが含まれた調味料などが挙げられますので、注意しましょう。
抗甲状腺薬の服薬やラジオアイソトープ療法、手術療法など、甲状腺機能亢進症の治療法にはさまざまなものがあります。ただ、治療法によってメリットやデメリットはそれぞれ異なり、自分に合っている治療法も異なります。専門医と相談しながら、自分に合う治療法を選択し、日常生活の中でも症状を悪化させない工夫をしましょう。