記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/13 記事改定日: 2018/7/2
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
長時間同じ姿勢で座りつづけることで発症する「エコノミー症候群」。飛行機の中で発症リスクが高いとされていますが、デスクワークなど座りっぱなしの仕事でも発症する可能性があります。
この記事では、日常的にも起こる可能性があるエコノミー症候群の予防法を紹介しています。
エコノミー症候群は急性肺血栓塞栓症とも言われる病気です。血栓とは血の塊のことで、血流が滞ると出来るものです。血栓ができたのに気が付かず、立ち上がると血流は再び勢いを取り戻して静脈を通じて足などにある細い血管を詰まらせたり、心臓に向かってそこから肺動脈の血管を詰まらせます。細い血管に詰まった場合には「深部静脈血栓症」、肺動脈に詰まったときには「肺動脈血栓塞栓症」と区別されます。
「エコノミー」と呼ばれるのは、飛行機のエコノミークラスに由来します。エコノミーでは座席は狭く足を自由に伸ばせず、長時間その姿勢でいるために、血流が滞ってしまい血栓が出来やすいことからこの名がつけられました。
もちろん血栓は飛行機に乗ったときに限らず、座ったり、寝たきりの状態でも出来てしまうことがあるので、普段の生活でも注意をしなければいけません。もしも発症をすれば死に至る危険性もあるので、薬などで予防していくことが大切です。
エコノミー症候群を発症し、足などの細い血管につまる「深部静脈血栓症」になった場合、そこから先の血液が溜まって赤くむくんでしまいます。そのままの状態が続けば、しびれやかゆみなどの症状も出てきます。
一方、肺動脈が詰まってしまう「肺動脈血栓塞栓症」になった場合、胸に激しい痛みや咳、息切れが生じて、そのままの状態が続けば意識障害や呼吸困難となります。
ただ、血栓が静脈を流れるのは、血栓ができてすぐとは限りません。飛行機に乗って数週間が経ってから意識を失うこともあります。肺動脈は呼吸によって取り込んだ酸素と二酸化炭素を交換するために必要な部分です。もしここの血流が止まった状態が長く続くと、酸素を取り込むことができなくなり脳や心臓は動けなくなり、死に至ります。
エコノミー症候群を発症するのは、長時間座ったままであったり、同じ姿勢で居続けることで血流が滞り、血液が凝固して血栓ができることが原因です。血流が滞る状況としては、飛行機の座席だけでなくパソコンを前にずっと座り続けているデスクワークでも同じです。
飛行機と違ってデスクから離れようと思えば離れる事ができますが、仕事に集中していると時間を忘れて作業をしていることも珍しくありません。それに仕事中は飲食をする事ができない職場もあります。血液の粘度は体内の水分量によって変わってきますから、水分が少ない状態だと血栓ができやすくなります。
人によって体の状態が違うので、血栓ができるまでの時間には明確な定義はありませんが、数時間でも可能性はありますから、誰もが発症するリスクがあると考えたほうが良いでしょう。
エコノミー症候群になる可能性をできるだけ低くするためには、血栓ができないように血流を滞らせないようにすることがポイントとなります。血栓が出来る要因は「長時間座り続ける」「水分不足」なので、それを防げばよいのです。
水を飲んだ後は一定時間ごとに椅子から立ち上がって歩きまわることで、血液がまた流れ出して固まるのを防ぎしょう。目安としては1時間ごとに休息を取って、足を動かすようにしてください。また、座っている時の血流を良くしたいのであれば、血管に圧力をかける着圧グッズを履いておくのも効果的です。
なお、水分補給はこまめにするべきですが、コーヒーや烏龍茶などの利尿作用がある飲み物だと、水分補給をするどころか失うことになります。水や体に馴染む経口補水液を飲むようにしましょう。
エコノミークラス症候群は適度な運動やストレッチなどを行うことで予防することができます。
最も効果的な運動は歩行によって脚に溜まった血液の流れを促すことです。しかし、飛行機や電車の中では思うように歩くことはできません。座ったままできる体操としては、足首の曲げ伸ばしや足の指を開閉するような体操が効果的です。
また、ふくらはぎを下から上へ押し出すようにマッサージしたり、足首を足の甲側に引き伸ばしてふくらはぎを適度な痛みがあるまでストレッチするのもよいでしょう。
しかし、これらの予防運動やストレッチは、脚の静脈内に血栓ができた状態で行うと肺に血栓を飛ばしてしまう原因になることもあります。脚のむくみに左右差があったり、片方のふくらはぎのみが痛むなど、血栓症のサインがある場合には行わない方がよいでしょう。
エコノミークラス症候群は、適度な脚の運動やストレッチを行うことが最も効果的な予防法です。しかし、脚をけがしている時や狭い空間で運動ができない場合には、「弾性ストッキング」を使用することがおすすめです。
弾性ストッキングは、医療機関で手術後の患者や寝たきり患者にも使用されているもので、脚の筋肉を適度に引き締めることで、脚の静脈の血液を押し出して血栓の形成を予防する効果が期待できます。
長時間の座位が予想されるような時には、弾性ストッキングはドラッグストアや薬局などでも購入することができますので、自身のサイズに合ったものを選んで使用してみましょう。
長時間デスクに座り続けているだけでなく、さらに水分補給も不足しがちな方は、エコノミー症候群を発症する恐れがあります。こまめに席を立って歩き回ったり、水を飲んだりして、弾性ストッキングを着用するなどして予防に努めましょう。