無痛性甲状腺炎の症状と治療方法とは?妊娠はできるの?

2017/12/18 記事改定日: 2018/8/8
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

甲状腺の疾患ではバセドウ病が有名ですが、そのバセドウ病と間違えやすい疾患に「無痛性甲状腺炎」というものがあります。今回はそんな無痛性甲状腺炎の症状や原因、治療法、妊娠との関係性などを解説していきます。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

無痛性甲状腺炎とは

無痛性甲状腺炎は、何らかの原因で甲状腺の細胞が破壊されてしまい、甲状腺に貯えられていた甲状腺ホルモンが血液の中に大量に漏れ出ることで一時的に甲状腺ホルモンが増加する疾患です。細胞が破壊されても甲状腺自体には痛みが発生しないことから、無痛性甲状腺炎と呼ばれます。

甲状腺ホルモンが増加した時には甲状腺機能が亢進することから、バセドウ病とほとんど同じ症状が出ます。ただしバセドウ病は違い、甲状腺ホルモンが増加するのは一時的なため、破壊された甲状腺が回復するまでの間は甲状腺ホルモンが減少することで、むくみや便秘、体重増加などバセドウ病とは逆の甲状腺機能低下症の症状があらわれます。

無痛性甲状腺炎の原因

無痛性甲状腺炎を発症する原因は解明されていませんが、もともと橋本病とも呼ばれる慢性甲状腺炎を患っている人が、頻繁な昆布摂取などでヨードを摂り過ぎたり、出産後のストレスなどによって発症しやすくなると言われています。バセドウ病の寛解期や治りかけの時期を迎えた人にも起こりやすいとされ、バセドウ病の再発と勘違いするケースもあるとされます。ほかにリチウム剤やインターフェロン、抗てんかん薬などの薬剤が発症の引き金になることもあります。

ただ、それらが引き金となって発症することはわかっても、それによって甲状腺の細胞がなぜ破壊されて甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出てくるのか、その詳しい仕組みについてはわかっていません。

無痛性甲状腺炎の症状

無痛性甲状腺炎の特徴は、甲状腺ホルモンが一時的に血液中に漏れ出ている時には、ほてりや動悸、体重減少といった甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の症状があらわれ、破壊された甲状腺が回復しない間には甲状腺ホルモンの減少によって、寒気やむくみ、便秘、体重増加といった甲状腺機能低下症の症状が現れるという点です。一つの病気で正反対の症状が一定期間に両方出てくるという点で身体的にも精神的にも負担が大きい病気と言えます。

なお、バセドウ病と同じ症状が出てもその期間が短いことと、症状そのものは軽くバセドウ病では特徴的な症状である眼球突出は見られないとされます。

無痛性甲状腺炎の治療法

無痛性甲状腺炎は、1か月ほど経つと甲状腺ホルモンが改善してくると症状が出なくなってきますので、その場合は特に治療をしなくても自然治癒していきます。ただ、動悸などがひどい場合には症状を抑えるためにベータ遮断薬による対症療法が行われます。ベータ遮断薬は本来、高血圧や頻脈性不整脈、心不全や狭心症の薬ですが、甲状腺ホルモンが過剰な状態では、甲状腺機能の亢進によって高血圧などが起こりやすくなるリスクが高まることから、それらの症状を予防するために処方されます。

また、無痛性甲状腺炎を繰り返すことで甲状腺機能低下症が続くようになってしまった場合、甲状腺ホルモン剤の服用を継続することになります。

無痛性甲状腺炎でも妊娠はできる?

無痛性甲状腺炎によって甲状腺機能が低下した状態が続くと、不妊症を発症するリスクが高くなります。
甲状腺ホルモンの分泌が低下することで、脳下垂体から多くのTSH(甲状腺刺激ホルモン)が分泌されるようになります。その結果、同じく脳下垂体から分泌される他のホルモンも反応性に多く分泌されるようになりますが、その中には排卵や着床を抑制する働きのあるプロラクチンというホルモンが含まれています。

このため、甲状腺機能低下状態が続くと不妊症になりやすくなるのです。
また、流産や早産になりやすいとの報告もあり、早期胎盤剥離などの重篤な合併症を発症する確率が高くなるとのデータもあります。
さらに、母体の甲状腺ホルモンは胎児の発育に必要であると考えられており、分泌が低下した状態では神経・知能・神経系に障害を残しやすくなるといわれています。
妊娠を希望する女性は妊娠前から適正な甲状腺ホルモンを維持できるように治療を行うことをおすすめします。

おわりに:短期間に、正反対の症状が現れる無痛性甲状腺炎。気づいたときは早めに治療を

寒気やほてり、体重減少や増加など、正反対の症状が現れる無痛性甲状腺炎。心当たりのある症状があれば、病院で検査をすることをおすすめします。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

ストレス(364) 体重(45) 動悸(48) 便秘(130) ほてり(6) むくみ(71) 橋本病(14) ヨード(10) ベータ遮断薬(3) バセドウ病(17) 甲状腺ホルモン剤(2) 無痛性甲状腺炎(2)