記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/13 記事改定日: 2019/4/9
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
エキノコックスは、キツネや犬に寄生する寄生虫であり、動物と人の間で感染する病気です。この記事ではエキノコックスの原因について解説しています。
予防や早期治療のためにきちんと理解し、対策をとりましょう。
エキノコックス症は、人間と動物に共通する感染症です。キツネや犬がエキノコックス(多包条虫)とよばれる寄生虫に感染し、その糞便と一緒に排泄された虫卵が経口で人の体内に侵入し幼虫として成長すると、肝臓などの臓器に重い障害を引き起こします。
エキノコックスの幼虫の成長は非常に遅いため、感染しても5~10年は無症状のことも有馬すが、その状態でも嚢胞が大きくなるにつれ肝臓内の胆管や血管が塞がれ肝機能障害が進んでいきます。末期には重度の肝機能不全になると共に、嚢胞の一部が破れ、エキノコックスの幼虫が血流に乗って肺や脳、骨髄などさまざまな臓器に転移します。
治療を怠ると死亡率は90%以上に達するといわれています。
日本では北海道で毎年10~20名程度の症例があり、道内特有の病気と考えられがちですが、埼玉県や愛知県で捕獲された犬からも虫卵が確認されており、本州や九州、沖縄でもエキノコックス症患者が報告されています。
なお北海道で飼育されている犬の1%以上、野生のキツネの40%以上がエキノコックスに感染しているといわれています。
エキノコックスは、主に野ギツネと野ネズミに寄生しています。成虫はキツネの腸に寄生して卵を生み、その卵がキツネの糞と一緒に排出され、野ネズミが木の芽などに付着した卵を食べると野ネズミの体内で卵が孵化し、幼虫が肝臓に寄生し増え始めます。この野ネズミをキツネが食べると、キツネの小腸の中で幼虫が成虫になります。
このように、自然界では、エキノコックスはキツネと野ネズミの間で受け渡されながら生活しています。なお、犬もキツネと同じく、エキノコックスの幼虫が寄生した野ネズミを食べることで感染します。
人間は、卵に汚染された野菜、山菜や水を口にしたりすることで感染し、野ネズミと同様、エキノコックスの幼虫が肝臓に寄生します。またキツネに触ったり、犬を飼っている人も、毛皮についた卵に触れた手指から経口感染するおそれがあります。
感染当初は自覚症状がありませんが、肝臓に幼虫が寄生すると増殖とともにスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。その結果、潜伏期間を経て肝臓が腫れ、上腹部の痛みや倦怠感が生じるようになります。胆管にも影響が及ぶと黄疸が生じ、肝機能の低下により浮腫が生じ腹水が溜まります。また、エキノコックスは脳や肺に転移することがあり、肺に感染すると呼吸困難や咳症状、脳転移が起きると痙攣や意識障害が生じます。
根治的治療法としては手術で病巣を切除する方法しかありません。
早期に手術を受けた場合の予後は良好ですが、エキノコックス症が進行するほど病巣も広がっていくため、進行した病巣の完全切除が困難なことがあります。
したがって、血液検査による早期発見・治療がきわめて重要です。北海道内の各市町村では血清検査(ELISA法)の定期的受診を推奨しています。
エキノコックスは野生動物の糞を介して感染することが多いため、むやみに野生の動物などに接触しないよう注意し、動物園やペットなどであっても動物に触れた後は必ず手を洗うようにしましょう。
また、野生動物が生息する場の川の水や山菜などからも感染することがあるため、衛生状態のはっきりしない川や井戸の水は飲まない、山菜などはしっかり火を通してから食べる、などの対策を取りましょう。
そして、近年問題となっているのはジビエ料理を介しての感染です。SNSなどを通して若い世代を中心にジビエ料理が流行していますが、中までしっかり火が通っていないジビエ料理はエキノコックスに感染する危険がありますので注意しましょう。
罹患しても早期治療を受ければ完治は可能ですが、なによりも予防に重点を置く必要があります。具体的には、感染源となるキツネやイヌなどの保虫宿主に接触しないようにし、虫卵に汚染されている可能性のある水や食物の生食を避けることが大事です。