記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2017/12/11 記事改定日: 2019/3/11
記事改定回数:1回
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
舌がんとはいわゆる舌にできるがんであり、一般的には切除術で舌の病変部を切ることになります。ただ、近年は切除がいらない治療法も確立されているといわれています。
この記事では、舌がんの治療法について解説しているので参考にしてください。
舌がんは、有郭乳頭(舌背部後方にある8~10個の突起)より前方部(舌の前3分の2)と舌の縁、下面に発生するがんです。口の中にできるがん(口腔がん)としては最も頻度が高く、5割~6割を占め、毎年およそ3000人が発症しているといわれています。
舌は会話や味覚、嚥下など、日常生活の基本動作と関連の深い臓器です。そのため舌がんは、QOL(生活の質)の維持についても配慮した治療が求められます。
発症の原因は不明ですが、アルコールやタバコ、香辛料などの刺激物、虫歯や歯並び、入れ歯など慢性的な刺激が、舌がんを誘発すると考えられています。舌がんは50歳から70歳代の男性の発症が多いものの、20歳から30歳代でも発病することがあります。
典型的な症状は、硬いしこり、舌の一部が赤くなる、出血、突起物などです。初期のうちは痛みの程度は軽いことが多く、症状はアフタ性口内炎と似ています。
病状が進行すると病変が潰瘍になり、持続した痛みや出血を伴ったり、強い口臭を放ったりします。
舌がんは、自分で鏡を見ることによって発見できるため、患者の約3分の2は、早い段階で病変に気づいて受診するといわれる一方で、表面でなく奥深くにできた舌がんは自分では見えにくく症状も出にくいため、受診したときにはすでに進行した状態であることも少なくありません。
なお舌がんの中には、早い時期から頸部リンパ節に転移して急速に進行するタイプのものもあります。これは、舌が筋肉の塊であり、血液とリンパの流れがよいため、がんが血流やリンパの流れに乗って頸部へと飛びやすいからです。
転移頻度は高く、舌がんの治療後に出現することもあります。
初期の舌がんであれば、小さな放射線源を患部に挿入して行う放射線療法(小線源療法)により舌の切除を防げる場合があります。
がんの大きさが4cm以下でリンパ節への転移がない場合が適応であり、この段階であれば手術でも放射線でも治癒率はほとんど変わらないと考えられています。
なお、1cm未満の舌がんであれば、部分切除手術を行っても舌運動などの機能障害はほとんど起こらないとされています。
舌がんの治療法は、9割近くを占める「手術療法」と「放射線治療」に大別されます。抗がん剤による「化学療法」もこれらの治療との組み合わせで行われることがあります。
「舌部分切除」、「舌半側切除」、「舌亜全摘出術」、「舌全摘出術」があり、切除する範囲は画像検査によって判断します。
全身麻酔をかけられない事情があったり、舌にメスを入れたくない、機能障害を防ぎたいというケースで用いられます。
放射線治療では、口腔内の病変以外の部位も放射線を浴びるため、粘膜炎や味覚障害、口内乾燥症など、様々な副作用を伴います。
放射線治療には体の外から放射線をあてる「外部照射」と、体の内側から、がんやその周辺に放射線をあてる「小線源治療」があります。
舌がんの小線源治療は、低い線量を照射する方法と、高い線量を照射する方法と、2つの方法があります。
前者は放射線源を直接がんの病巣に刺し入れる方法で、後者はチューブ(線源誘導管)を入れ、その中に放射線源を通して照射する方法です。前者は、放射線源として何を用いるかで、「セシウム針」「イリジウムピン線源」、「金粒子」に分かれます。
ただし小線源治療の副作用として、挿入部分を中心にできる局所的な放射線性の粘膜炎が挙げられます。この粘膜炎は、治療開始後1週間から10日程度で現れ始め、痛みを伴い、2週間ほどでピークを迎えたのち、約2か月間をかけて自然に消退するといわれています。
頚部リンパ節転移がある場合の舌がんでは、基本的に手術によるがんと頚部リンパ節の切除が行われます。
がんの切除範囲は、手術前の画像検査などによってがんの広がりなどによって決められます。また、頚部リンパ節を切除する治療は「頚部リンパ節郭清」と呼ばれ、リンパ節とその周辺の組織の切除が行われます。
舌がんは小線源療法を選択することで切除を回避できる可能性があります。そのためには、早期発見が重要です。口内炎と勘違いしやすいものの、疑わしい病変を認めたら、ただちに受診して検査を受ける必要があります。
なお小線源治療には切除術と比較してメリットとデメリットがあるため、医師の説明をしっかりと受けたうえで選択するようにしましょう。