糖尿病で壊疽(えそ)が起きたら切断が必要?治療はできるの?

2017/12/22 記事改定日: 2018/3/8
記事改定回数:1回

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

糖尿病患者さんは発症するリスクが高い足の壊疽(えそ)。
壊疽とは皮膚や皮下の組織が死滅して黒色や暗褐色に変色した状態を指しますが、壊疽が起こってしまったら切断するしか方法はないのでしょうか?
この記事で、足の壊疽が起こる原因と治療法をお伝えします。

糖尿病になると足の壊疽が起こるのはナゼ?

糖尿病患者の動脈内では酸化LDLが血管の内皮下に沈着して血管が狭窄し、血液の流れが悪くなるという血管障害が起きていることが多いです。
さらに血液中の糖分が多い状態が続いて血液の粘度が高くなっていることで、細い血管の血液が流れにくくなっています。特に足先には細い毛細血管があるため、毛細血管の血の流れが悪くなって神経細胞へ栄養を送る血流が十分でないと、神経に障害が発生して糖尿病神経障害を起こします。
糖尿病神経障害になると、神経の働きが悪くなることで感覚が鈍くなるため痛みを感じにくくなります。そうすると足に傷ができても気付かないまま過ごしてしまったり、やけどをしていても気付かないと言うことが起こり、足の小さな傷から感染が広がって壊疽を起こす危険性が高くなるのです。

足病変は些細なことから始まることがほとんど

外的要因による足の潰瘍の発症原因は、約7割が「靴ずれ」で、やけど(19%)、外傷(7%)、感染症(3%)が続きます。
また、「小さなキズだから平気」と思っていても放置していると足の切断にまでつながる可能性が少なくありません。靴ずれを放置していたらそこから化膿して潰瘍が進み、血管が詰まって(閉塞性動脈硬化症)、わずか2週間ほどで足の切断を余儀なくされたという例があるほどです。

痛み、かゆみ、熱さや冷たさなどを感じなくなる

足の感覚が鈍くなると、痛み、かゆみ、熱さや冷たさなどに気づきにくくなります。
たとえば、がびょうや針などの尖ったものが足に刺さっても気づかない、ストーブなどに足を近づけすぎてやけどしているのに「熱い」と感じず異変に気づけないなどの事態が起こることも、糖尿病による神経障害の怖いところです。

糖尿病による足壊疽の治療法とは?

足の壊死が起きた場合の代表的な治療としては、壊死した組織を外科的に除去する「デブリードマン」という方法があります。
感染がある場合は抗生物質を投与しながら患部を繰り返し洗浄して新しい組織ができるのを待ちます。感染がない場合には抗生物質は投与せずに洗浄をして経過をみることが多いです。

壊疽の進み具合によっては切断手術となることも

糖尿病足病変になると、足の先や、ひどい時にはひざから下全てが壊死を起こしてしまうことがあります。また、壊疽が重度で感染した細菌が全身に回るなどの命の危険がある時には足の切断をしなければなりません。
残念ながら足を切断した事例は少なくなく、日本国内だけで1年間に1万人以上の人が足の切断手術を受けています。しかも、これは足の切断の中でもひざ下、ひざ上、股関節から下の足を切る大切断の人だけの人数なので、足の指だけの切断など小さな切断術も含めれば、さらに多くの人が切断手術を受けていることになると考えられます。

手術が成功しても、切断による影響は少なくない

足を切断する手術が成功しても、足の一部がなくなるとそれまでと同じように歩いたり走ったりすることは難しくなります。動くことが難しくなってくると動く範囲が徐々に狭くなり、ついには寝たきりになってしまう可能性もあります。
一度寝たきりになってしまうと、そこから体の機能を回復させることは難しいので、体の機能全体が弱って最悪の場合は死を招く危険性があります。
足の切断術は、それほど大きな影響を与える可能性があるものなのです。

切断を避けられる可能性を持つ、新たな治療法について

今までは壊疽を起こした場合には切断手術しか対処法がありませんでした。
しかし、近年では「インターベンション治療」という新しい治療法が登場したことによって切断以外の選択肢が増えています。

インターベンション治療とは、血管が細くなっている部位までカテーテルという管を通し、細くなっている部位で風船(バルーン)もしくは金属製のステントを膨らませて、細くなっている血管を広げるという方法です。
この治療で血管が詰まる前に細くなっている部位を広げることができれば、足の壊死を防ぐことができますし、切断をするしかないと診断された場合でも、状態によってはインターベンション治療によって切断を免れる可能性があります。
また、インターベンション治療はメスや麻酔を使うことがないので、患者への負担が少ない優れた治療法としても注目を集めています。

おわりに:壊疽の予防には日頃のケアと早期治療が重要

日本では毎年およそ1万人近くの人が足の切断を余儀なくされている足の壊疽。
最近ではインターベンション治療によって以前では切断するしかないと診断された人でも、切断を免れるケースがでてきました。しかし、進行度によってはインターベンション治療が行えないこともあるので、日頃からの足のケアを念入りに行い、少しでも異変があればすぐに病院で治療を受けるようにしてください。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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