記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2018/1/31
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
歯根嚢胞とは、歯根(歯の根っこ部分。歯槽骨に埋まっている部分のこと)の先に膿が溜まってしまう病気です。なり始めのころが症状がないことも多いですが、進行すると歯以外のところにトラブルが起こる可能性があります。この記事では、歯根嚢胞を放置することの危険性について解説しています。
歯根嚢胞とは、歯茎の中にあって歯の土台にあたる歯根の先端部分に、膿が溜まることをいいます。
歯科的にはありふれた症状ですが、初期段階では自覚症状がないので、発症していることを知らずに過ごしている場合が少なくありません。治療をするときは、局部麻酔を施した上で、歯茎を切開したり、あごの骨の一部を削るなど、大がかりな手術が必要になることもあります。
膿は細菌が身体に侵入しないよう、血液中の白血球が戦った結果、白血球や細菌の死骸が集まったものです。その膿が歯根の先端に溜まると、歯根嚢胞になります。放置していると、数ミリほどから数センチの大きさに進行していくこともあります
歯根嚢胞は、虫歯で繁殖した細菌が、歯根にまで入り込んで侵食するなどが原因で起こります。
ほかにも歯の神経を歯科医院で治療した経験がある人や、事故またはスポーツなどの衝撃で歯にヒビが入ったり割れたりしたことがある人も、外部から歯根へ細菌が入り込みやすくなっており、歯根嚢胞ができやすくなるといわれています。
根尖性歯周炎から歯根嚢胞に発展することがあります。歯根膜炎とは、歯根の先端の歯茎が炎症を起こしている状態であり、歯が歯茎から浮いてるような感覚があったり、歯茎を外から押すと痛みを感じるなどの症状があります。歯茎の炎症が嚢胞になっていく場合がありますので、根尖性歯周炎を歯根嚢胞の前触れとして捉え、早期に治療を開始する場合もあるようです。
歯根嚢胞が進行すると、歯茎が赤く腫れたり、歯茎の表面に白っぽい膨らみが現れたり、歯茎と歯の隙間から膿が出ていたりします。また、食べ物を噛んだり、風邪などで身体の抵抗力が弱ったときなどに、歯茎に痛みが走ることもあります。
そして嚢胞が大きくなると、細菌が歯茎からあごの骨へ広がり、骨を溶かしてしまうおそれがあります。また、歯根の細菌が副鼻腔に入り込むと、副鼻腔炎(蓄膿症)の症状にも発展し、頭痛などを引き起こす危険もあります。こうなると耳鼻咽喉科の治療もあわせて行う必要があります。
また、慢性化した歯根嚢胞を放置していると、細菌が全身にまわって、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)を引き起こす危険があるといわれています。手や足の表面にもたくさんの嚢胞ができるのが特徴で、嚢胞が治ったあとに皮膚が剥けて、また嚢胞ができ、それが繰り返されます。掌蹠膿疱症は皮膚科による長期間の診療や治療となります。
歯根嚢胞は、口の中の細菌や、虫歯を起こしている細菌が、歯茎の中にまで入り込んで、ひどくなった歯茎の炎症が膿となって溜まっている症状です。放置しておくと、歯科以外の診療も受けなければならないケースもあるほどです。
また、歯根嚢胞の手術は歯茎を切開したり、必要に応じてあごの骨を削ったりと、大変なものとなります。予防のためには、虫歯をなるべく放置せず、歯茎の状態も定期的に歯科医で診てもらうよう心がけましょう。