記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
ファロー四徴症とは、心臓の奇形によって血液が正しく流れないようになってしまい、チアノーゼが起こってしまう病気です。根本的な治癒のためには、心臓手術が必要になります。この記事では、ファロー四徴症の手術方法について解説しています。
ファロー四徴症は心臓の弁と中核の欠損が組み合わさった病気です。いろいろなタイプがありますが、最も重症なものは、肺動脈弁が完全に閉鎖しており、肺動脈へは大動脈からの動脈管と呼ばれる血管を通って血液が流れてしまうようになります。
この場合は、全身から戻ってきた酸素の少ない静脈血が、肺から心臓に送られた酸素の多い動脈血に混ざってしまい、酸素が欠乏してチアノーゼを引き起こします。
ファロー四徴症の治療では、チアノーゼがきつい場合は酸素吸入を行い、血液中の酸素量を増やします。また、心不全の時は心臓が働くように強心剤を使ったり、特殊な薬剤を使ってチアノーゼの発作を抑えるなどの治療を行います。しかし、これらはいずれも対症療法にすぎず、本質的な治療のためには外科手術を行うほかありません。
ファロー四徴症に行う手術には、姑息手術と根治手術があります。
姑息手術とは、段階的に正常な状態へもっていくための手術や、一時的に症状を軽くするための手術です。肺へ流れる血液の量が少なすぎる場合や、逆に多すぎる場合に行われます。
肺へ流れる血液の量が少なすぎる場合は、大動脈の枝の鎖骨下動脈(腕につながっていく動脈)を途中で切り、これを曲げて肺動脈につなげる「大動脈肺動脈短絡手術」が最もよく行われます。鎖骨下動脈を切っても、他の細い血管を通って腕に十分な血液が流れるため、手に問題は起こらないとされています。
しかし、最近では鎖骨下動脈を切らずに人工血管で肺動脈との間にバイパスを作る方法も多く行われています。これらの手術で肺への血流量を増やすと、動脈血の量が増えてチアノーゼの軽減が目指せるのです。
肺に流れる血液量が多すぎる場合は、肺動脈を軽く縛って狭窄を作る「肺動脈バンディング手術」が選択されることがあります。しかしこちらは根治手術ができるようになったため、近年はあまり行われなくなってきました。
根治手術とは、正常な形に心臓を治していく手術のことです。手術の内容は、心臓の奇形の状態によって異なります。ほとんどの奇形は一度で根治手術ができますが、状態によっては二回、三回に分けて手術しなくてはならない場合もあります。
単純な奇形の手術では、欠損孔が小さければ直接縫合閉鎖したり、孔が大きい場合は合成繊維の布を当てて閉じていきます。複雑な奇形の場合は、血流が正常になるよう組織を削ったり、合成繊維の布で血液の通路を作るなどします。肺動脈狭窄に対しては狭窄解除術を行います。
フォンタン手術は、今まで手術法がなかった単心室症、僧帽弁閉鎖症、三尖弁閉鎖症などの治療が可能になった画期的な手術法です。使える心室がひとつしかない心臓の奇形に対して行います。単心室症は心室がひとつしかない奇形で、僧帽弁閉鎖症は左心房と左心室の間にある僧帽弁が閉じてしまっている奇形です。三尖弁閉鎖症は、右心房と右心室の間にある三尖弁が生まれつき閉じている状態のことをいいます。
フォンタン手術では、身体から戻ってきた静脈血は右心室を通さず、そのまま肺動脈に流します。心室がひとつしかない単心室症の場合は、心室は肺動脈から戻ってきた血液を全身に送り出すために使われます。
生後、はじめからフォンタン手術を行うことはまれで、いくつかの段階的な手術を経てから行われます。また、心機能や肺の循環が良好でなければいけないという条件があり、すべての人に適応するわけではありません。
子供がファロー四徴症と診断されると、絶望的な気持ちになるかもしれません。しかし、心臓手術の技術は進歩しており、かつては治療できなかった状態であっても治療が可能になってきています。まずは主治医ときちんと相談し、治療方針を検討していきましょう。