記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/1/10 記事改定日: 2018/7/23
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腸重積とは、腸が重なってしまう病気であり、回腸(小腸の一部)が大腸に入り込んでしまうことで起こります。子供や赤ちゃんに多い病気ではありますが大人にも起こる可能性があり、子供と大人で症状や原因が違うといわれています。この記事で詳しく解説していくので、参考にしてください。
腸重積とは腸が重なってしまうことで、大腸と小腸(回腸)のつなぎ目の部分で起こります。
通常は回腸から大腸へは回盲部でつながっていますが、ここでなんらかの異常によって回腸が大腸の中に入りこんでしまうと小腸と大腸が折り重なってしまい血液の流れが悪くなります。血流が完全に途絶えてしまうと酸素や栄養が行き渡らなくなり、組織が壊死を起こします。
腸重積を起こす原因ははっきりとはわかっていませんが風邪などのウイルス感染や、腸の中のリンパ組織が腫れて大きくなり、その部位が大腸の中に入り込んで起こると考えられています。他には腫瘍や腸の一部が袋状に飛び出るメッケル憩室、ポリープ、悪性リンパ腫などが原因となって起こることもあります。生後4か月~1歳までの小さな子供によく発症し、女の子よりも男の子のほうが起こりやすいという特徴があります。
子供が腸重積を起こしたときは激しい腹痛が起こるため、いつもとは違った泣き方をします。ぐずぐずと泣くのではなく火がついたように急に泣き出す特徴があり、これが腹痛が起こる15~20分おきに毎回現れます。その他に嘔吐したり、ミルクや母乳を飲まなかったり、お腹にソーセージのような塊を触れることがあります。いちごジャムのようなどろっとした粘り気のある血便が出ることも特徴です。
子供の場合にはこのようにいくつかのわかりやすい症状がでるのに対して、大人が腸重積を起こした時の特別な症状はほとんどありません。なんとなく慢性的な腹痛があったり、便秘が起こる程度です。そのため、腸重積を起こしていても気付かないままに過ごしてしまうことがよくあるといわれています。
このような症状の違いは腸重積が起こる原因の違いだと考えられています。子供の腸重積の原因ははっきりとしていませんが、大人の場合は90%が腫瘍とされ、基礎疾患の有無が大きな違いになります。
予防接種の中でも、ロタウイルスワクチンは腸重積を引き起こす可能性が指摘されています。
ロタウイルスとは、乳幼児の多く見られる腸炎を引き起こすウイルスで、重症化すると重度の脱水症状を来たすため、生後6週頃から2~3回に渡って接種する生ワクチンです。ロタウイルスワクチンは任意接種ですが、今では多くの乳幼児が接種しています。
このロタウイルスワクチンは、腸重積の発症率を上げるというデータがあります。しかし、ワクチン接種自体が一回目の接種を生後15週までと制限しており、より腸重積の起こりにくい低月齢の時期に行われます。このため、腸重積に対する過剰な心配は必要ありませんが、発症する可能性がゼロではないため、接種後は子供の便の状態などをいつもより慎重に観察するようにしましょう。
子供と大人では腸重積を起こす原因が違うため治療方法にも違いがでてきます。
子供の場合は、発症してから24時間以内であれば腸を元の状態に戻すことが可能です。バリウムや空気を肛門から注入して、腸に圧を加えて重なった部分を修復します。この方法で腸が元の状態に戻らなかったときや、発症してから時間が経ってしまっているときには開腹手術をして、腸重積を起こしている部位を直接治療します。
これに対して大人の治療は、腸を切除するなどの外科的な手術を行うことがほとんどです。これは、腸重積を起こしている原因が悪性腫瘍やポリープなど「原因になる病気」があるためであり、元の原因を取り除かなければ改善できないからです。
大人の場合には腸重積を発症しても、自覚症状が少ないことから長期間にわたって放置してしまうことも多いといわれています。放置して進行すると治療も大がかりになってしまいます。
腸重積がどのようなメカニズムで発症するのかは明確には解明されていません。
このため、発症の予防を行うのは難しいのが現状です。しかし、腸重積は発症したとしても早期に治療を開始すれば大事に至ることはありません。子供は自分で症状を訴えることができないので、いつもと違ったお腹の痛がり方や血の混じった便が見られるときにはなるべく早めに病院を受診するよう気を配っておきましょう。
また、大人の場合でも長引く腹痛や腹部の違和感、便の変化などが見られる場合には放置せずに必ず病院を受診するようにしましょう。
子供と大人で腸重積の原因は違いますが、どちらも治療が遅れると大がかりな手術が必要になる可能性があります。子供ははっきりした症状が現れるので病院を受診するタイミングに気づきやすいですが、大人ははっきりとした症状が現れない傾向があるので注意が必要です。また、大人の腸重積は病気が原因になっていることが大半です。手遅れにならないようにするためにも、早めの受診と定期的な検査を心がけましょう。