記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2018/1/29
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
上顎洞炎は耳鼻科の診療領域である副鼻腔炎の一種ですが、歯の治療が原因で発症するケースがあります。この記事では、インプラント治療が歯性上顎洞炎を起こすリスクについて、詳しく解説していきます。
上顎洞炎とは、副鼻腔炎の一種です。頭部、頭蓋骨の内部は空洞になっていて、鼻や目、喉などに繋がっています。この空洞を副鼻腔といいます(副鼻腔炎が慢性化したものを、一般に蓄膿症といいます)。
そして、副鼻腔の中でも、鼻の両脇に相当する部分を「上顎洞」と呼びます。この上顎洞の粘膜に炎症が生じ、膿が溜まっている副鼻腔炎を、「上顎洞炎」と呼び区別することがあります。
上顎洞炎は、鼻の炎症が原因で起こることが多いのですが、歯の炎症が影響で発症することもあるのです。歯の影響を受けて起こっている上顎洞炎のことを、歯性上顎洞炎と呼んでいます。上の歯列と上顎洞は、頭部の構造として位置的に近接しているため、影響を受けやすいことが原因と考えられています。
上顎洞は、通常左右対称になっています。左右両方にわたって炎症が起きているものは鼻由来で、左右どちらか片側にのみ炎症ができていると、歯由来であることが多いといわれています。
上顎洞炎の代表的な症状としては、目の下の腫れや、目の痛み、鼻や歯の痛みやうずき、黄色い鼻汁などが挙げられます。ただし、慢性化した場合は、かえってこれといった自覚症状が現れない傾向があるといわれています。
上顎洞炎の治療法として、薬物治療と外科手術の選択肢があります。特に歯性上顎洞炎の場合は、歯科治療も加わります。
薬物治療では、抗菌薬を用いて炎症の緩和を目指し、痛みがあれば消炎鎮痛薬を処方します。
上顎洞炎の外科手術(根治手術)では、上あごの一部を切開して、骨を削り取るなどして上顎洞に直接アプローチし、炎症を起こした粘膜を取り除きます。多くの場合は入院が必要です。
歯性上顎洞炎の治療では、その根本原因である歯を治療しなければなりません。
インプラントとは、人工の歯根を歯茎に埋めこみ、その人工歯根を土台にして上部構造(差し歯)をつくることで、噛み合わせを改善させ、美観を取り戻す歯科治療です。
このインプラントを、上の奥歯に施すことが、歯性上顎洞炎を引き起こすきっかけにもなりうると考えられています。
もともと、上の奥歯と上顎洞の距離は近いのですが、天然の歯がなくなることによって、歯を支えていた歯槽骨がどんどん減っていきます。すると、上顎洞までの距離がますます近くなっていきます。
そのような状況でインプラント治療を行うと、施術中に誤って、インプラントが部分的に上顎洞まで届いてしまい、粘膜を物理的に傷つけるおそれが出てくるのです。
このように、インプラントが原因で(歯性)上顎洞炎が起こる危険性があるといえるでしょう。上の歯のインプラントは、評判がよく信頼できる歯科医に依頼することをおすすめします。
耳鼻咽喉科の治療領域であるはずの上顎洞炎は、インプラントという歯科治療が直接的または間接的な原因となりえる可能性があるのです。インプラント治療は、そのようなリスクを十分理解したうえで検討しなければいけません。インプラント治療についてのメリットとデメリットを必ず担当医から事前説明してもらいましょう。また、後悔しないためにも、インプラント治療は豊富な実績を持つ信頼できる歯科医にお願いするようにしてください。