記事監修医師
東京都内大学病院眼科勤務医
渡辺 先生
2018/1/22 記事改定日: 2018/8/2
記事改定回数:1回
記事監修医師
東京都内大学病院眼科勤務医
渡辺 先生
糖尿病網膜症とは、糖尿病で網膜の血管に異常が起こることで発症する糖尿病合併症です。重度まで進行すると失明にいたるおそれもある合併症ですが、糖尿病網膜症はどのように治療していくのでしょうか。
この記事では、糖尿病網膜症の治療方法である「抗VEGF薬治療」「光凝固」と「硝子体手術」について解説しています。
糖尿病が原因となって目の中の網膜が障害を受け、視力が低下してしまう病気を糖尿病網膜症と言います。
網膜は、目の中に入ってきた光を脳の視神経に伝達する組織で、カメラでいうところの「フィルム」の働きをしています。糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経症とならんで糖尿病の三代合併症といわれています。進行すると失明にいたることもある深刻な合併症ですが、定期的な検診や治療によって進行を抑えることができるとされている病気です。
糖尿病網膜症は、糖尿病に合併してあらわれる病気です。血液中の糖分をうまく吸収できなくなり、血液中の糖分が多い状態が続くと血管に障害を与えるようになります。
網膜の血管は細いのでこの影響を受けやすく、血管が詰まったり、出血したりするようになります。
そして血管が詰まって栄養分などが届けられなくなると、新しい血管(新生血管)が作られるようになりますが、新生血管はもろく、漏れを起こしやすい血管のため、視界がかすんだり、視力低下などの目のトラブルを引き起こす可能性があります。そしてさらに病状が進行すると、緑内障や網膜剥離を起こしてしまうこともあるのです。
糖尿病網膜症では、新生血管が生じることで黄斑にむくみが生じることがあります。その結果、視界の中心部がかすんで見えたり、物が歪んで見えるなどの症状が引き起こされます。
このように黄斑にむくみを生じているタイプの糖尿病網膜症の場合には、新生血管の発生を抑える抗VEGF薬を直接眼球内に注入する治療が行われます。
VEGFとは、血管内皮増殖因子と呼ばれるもので、血管の発生や増殖に関与する物質です。抗VEGF薬はこの物質の働きを抑える効果があるため、眼球内に注入すれば新生血管の発生や増殖を抑えて黄斑のむくみ改善が期待できるのです。
眼球内への注入は、その後の症状を見ながら追加して行うのが一般的です。
単純網膜症でも視力の低下がみられたり、前増殖網膜症の段階になると、レーザーで網膜を焼く光凝固術という治療が検討されます。失われた視力が回復するわけではありませんが、網膜症の進行を阻止し、新生血管の発生を防ぐことができます。ただし視力の中心にむくみが発症すると治療は難しくなるといわれています。
さらに症状が進行し、大出血が起こったり、網膜の表面に増殖膜ができている場合には硝子体手術が必要です。
医療技術の発展で、現在では高確率で網膜剥離も治せるようになりましたが、剥離した状態を長く放置してしまうと、その後手術を行っても視力回復が不十分なことがあります。高度な技術と特殊な機器が必要な手術になるため、すべての医療機関で行えるものではありません。早期発見と早期治療を心がけ、早めに治療を開始できるようにしましょう。
糖尿病網膜症の治療にかかる費用は、どのような治療を行ったかによって異なります。健康保険が適応になるため、自己負担額は年齢によって異なりますが、一般的な三割負担の人の自己負担額はそれぞれの費用はおおよそ次の通りです。
糖尿病網膜症は完治させることは難しい病気ですが、進行を遅らせ、症状の悪化を防ぐことは可能です。
初期は糖尿病自体の治療と血糖コントロールすることが治療の中心になり、中期になると新生血管の発生を防ぐためにレーザーで網膜を焼く光凝固術が必要になってきます。さらに末期になると網膜剥離の硝子体手術が必要になります。
早期発見、早期治療ができればその分治療もしやすく、治療効果もあがります。糖尿病になった場合は、血糖コントロールを徹底し、定期検査を怠らないようにしましょう。