多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)の治療法まとめ

2018/2/19

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)は、腎臓に嚢胞ができたために腎機能が低下する、遺伝性の疾患です。この記事では、多発性囊胞腎の治療法について詳しくご紹介します。

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多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)とは?

多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)は、腎臓に嚢胞ができて腎機能が低下する遺伝性の疾患です。両方の腎臓に嚢胞(水分が溜まった袋)がたくさんでき、腎臓が大きくなることで腎機能が低下します。遺伝性疾患であるため、腎臓だけでなく、他の臓器(肝臓・胆管・膵臓・脾臓・卵巣など)にも嚢胞ができるという特徴があります。多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)を発症すると、全身の血管にも異常が見つかるようになり、高血圧・脳動脈瘤・心臓の弁異常があらわれる頻度も高くなります。
多発性嚢胞腎を発症すると、初期症状はほとんどありませんが、腎機能の障害が進行するにつれて貧血の症状があらわれます。その後、疲れやすい、動悸がする、息が切れるといった症状が出てきます。

多発性嚢胞腎にはどんな治療法があるの?

多発性嚢胞腎の治療法は、大きく分けて3つ(腎機能の低下を防ぐための治療、肝嚢胞を摘出する治療、慢性腎臓病として共通の治療)に分類できます。腎機能が低下すると血液中のカリウムやリンの値が高くなるため、血液が酸性に傾いたり、貧血になったり、骨がもろくなったりする症状があらわれるようになります。
多発性嚢胞腎には、根本的な治療方法がありません。そのため、腎機能障害に対しては腎機能保護を目的とした保存的治療が行われます。腎臓の機能が低下すると、慢性腎臓病と同じような症状が出ることから、慢性腎臓病と共通する治療も行われます。

 

腎機能の低下を防ぐための治療法について

腎機能の低下を防ぐための治療法として代表的なものが、嚢胞の増大を抑えて腎機能の低下を遅くすることができるトルバプタン(サムスカ®)を服用する治療です。この薬剤は、抗利尿ホルモン受容体阻害薬とも呼ばれるもので、体が脱水に傾いた際に、脳から出される抗利尿ホルモンの働きをブロックして尿量を増やします。ただし、トルバプタンは多発性嚢胞腎を根治する薬剤ではなく、病気の進行を遅らせる薬剤で、継続して服用しなければならない点に留意する必要があります。
さらに、腎機能の低下を防ぐために高血圧の治療も行われます。血圧を下げることで、合併症のリスクがある心臓病や脳卒中の予防にもつながります。また、腎機能が正常な段階で治療を始めれば、その後の腎嚢胞の拡大や腎機能の低下を抑えることができます。

のう胞を摘出する治療法について

腎機能が低下して腎不全の症状が進行すると、腎嚢胞が大きくなってお腹が妊婦のようにせり出してくることがあります。このような状態になると、腎囊胞が胃腸系の臓器を圧迫して栄養失調となる恐れがあります。この場合、腎嚢胞に栄養を送っている血管に詰め物をして血流を遮断する腎動脈塞栓術が行われたり、穴を開けてサイズを小さくする治療が行われたりします。
また、肝嚢胞に対する治療法には、肝臓移植、肝動脈塞栓術、肝嚢胞開窓術などがあります。肝不全となった場合は、肝臓移植しか治療方法はありません。肝嚢胞が巨大化して周りの臓器を圧迫している場合には、肝動脈に詰め物をして血流を遮断し、嚢胞に送られる栄養を絶ちます。さらに、肝嚢胞開窓術では大きくなった嚢胞を潰して圧迫症状を改善し、巨大化を抑制します。

おわりに:多発性囊胞腎を完治させる方法はまだなく、現時点では腎機能の保護を主眼とする治療が行われる

多発性囊胞腎を完治させる方法はまだ見つかっていません。このため、現時点では腎機能の低下を防ぐための治療、肝嚢胞を摘出する治療、慢性腎臓病として共通の治療のいずれかが行われます。また、腎機能低下を防ぐ一環として、高血圧の治療が行われることもあります。最後に、脳動脈瘤や心臓の異常が無いかどうかの検査を行うことも非常に大切です。

厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】

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