記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/2/22 記事改定日: 2018/4/17
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
小さいお子さんが受ける必要のある予防接種の一種に、「日本脳炎ワクチン」があります。今回の記事では日本脳炎のリスクや、ワクチンの重要性や接種時期などについてお伝えしていきます。
日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウイルスに対して確実な免疫を付ける為に行います。生きたウイルスなどは含まれていない不活化ワクチンなので、1回の接種では十分な免疫がつきにくく、数回に分けて予防接種が必要になります。
第1期は生後6ヶ月から7歳6ヶ月未満の子供が対象で、全3回受けます。2回目から概ね1年空けて追加接種をします。第2期は9~13歳未満の子供が対象で、追加免疫を付ける為に、1回接種する必要があります。
予防接種での免疫が持続する期間には個人差があります。予防接種の効果と生活環境の改善で日本脳炎の患者は少なくなってきていますが、子供の頃に受けた予防接種の効果が成長とともに低下し、大人になって日本脳炎に罹ることもあります。接種対象外でも必要に応じて任意接種として、個別に受けることが可能です。
日本脳炎ワクチンは定期接種に含まれるため、その期間内であれば、無料で受けることができます。ただし、期間を過ぎてしまうと自己負担となり、1回につき5,000~8,000円程度の費用がかかるので注意が必要です。
しかし近年、特例措置により、不足した回数分を定期接種として受けることができるようになりました(日本脳炎ワクチンの積極的勧奨を控えた影響による)。生年月日が1995年4月2日~2007年4月1日の20歳未満の人を対象としています。
ワクチンには「生ワクチン」と「不活化ワクチン」と大きくわけて2つの種類があり、日本脳炎ワクチンは不活化ワクチンです。
生ワクチンは1度の予防接種でも、体の中に長い間免疫ができると考えられている一方、不活化ワクチンは1度の予防接種では十分な免疫ができないとされいます。
そのため不活化ワクチンは、何度か予防接種を受ける必要があるといわれており、免疫が持続する期間は生ワクチンと比べると短期間となります。
実際に日本脳炎や風疹などでは、子供の頃に作られた免疫が成長して弱くなってくることがわかってきています。2009年の調査によると、日本脳炎の場合、30~34歳の人の約40%が免疫を持っていますが、残りの約60%の人は免疫を持っていないといわれています。十分な免疫を得るためには、4~5年ごとの予防接種が推奨されています。
そのため、自己負担にはなりますが、重症化を防ぐためにも予防接種を受けることもひとつの選択肢と考えられています。
接種後2日以内に発熱や注射部位に発赤や腫れ、痛みが出る場合がありますが、基本的には心配は要りません。ただし、症状が2日以上続く場合は病院を受診しましょう。ごく稀に神経疾患の症状がある場合もあります。
またかなり稀ですが、旧ワクチン接種後では数日~2週間程後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症する事がありました。初期症状として頭痛や痙攣、運動障害などの症状があらわれるというものです。これは、ワクチンの製造過程で微量ながらマウスの脳組織成分が混入したために発生したものです。しかし現在の組織培養法による新しいワクチンでは、試験管内で培養した人や動物の組織や細胞でウイルスを増殖させているので、マウスの脳成分による問題はなくなりました。
日本脳炎は日本脳炎ウイルスによって起こる感染症で、人から直接ではなく豚などの体内で増えたウイルスを蚊が血を吸って媒介します。コガタアカイエカを始め、その他の数種類の蚊から刺される事によって感染します。
潜伏期間は、およそ7~10日間です。主な症状は突然の高熱や頭痛、嘔吐などで、重度の場合は意識障害や痙攣などの症状があらわれる急性脳炎になります。小児では腹痛や下痢を伴う事も多く、痙攣も多くみられます。
日本脳炎に罹った時の死亡率は20~40%と高く、命を取り留めても神経の合併症が残る場合が多いです。一方で罹っても気がつかないで済んでしまう場合があり、脳炎の他に無菌性髄膜炎や夏風邪に似た症状で終わる場合もあります。
予防接種法が1994年に改正され、全種類の予防接種は「義務」から「勧奨(努力義務)」へと位置づけが変化しました。日本脳炎の治療法はなく、脳炎症状がみられた場合に必要となる治療は血圧・呼吸を保つといった全身管理です。そのため「日本脳炎ウイルスに感染しないこと」が大切といえます。
また現在も日本脳炎ウイルスは豚に感染しているため、小児科医の間でもワクチンの接種を必要とする声が多いといわれています。
ある年度の調査によると、近年の10年間においてワクチンの接種率が80%程度、小児の患者数2名であったことから、仮にワクチン接種を中止した場合には発症率が5倍、10年間で10名が日本脳炎を発症すると考えられています。
2000年~2010年度に蚊などから自然に感染したケースは平均して7.9%であり、西日本を中心として未だに高いという結果もあります。したがって、日本には日本脳炎のリスクがあると考えられています。このことからも、ワクチンの接種は必要といえるでしょう。
まず、蚊に刺されないようにする事が大切です。ウイルスを媒介する蚊は、暑い日中よりも日没以降の方が活発に行動し始める傾向があります。日没後の外出を控えるか、野外に出る時は虫除け剤のスプレーやシールなどの使用をお勧めします。潜んでいそうな場所では、長袖や長ズボンの使用で肌の露出を抑える事も効果的です。
お住まいが上階でも、蚊はエレベーターや人に付いたまま上ってくる事があるので、玄関や窓を開けっ放しにしておくと家の中に蚊が入ってくる可能性は十分にあります。扉や窓に網戸や網戸カーテンを付けるなどの工夫をしましょう。また、雑草が茂った場所や湿った場所は蚊が好みます。夏の間は特に刈るようにして住処を作らない事も大切です。
日本脳炎にかかってしまうと、重篤な合併症が残ったり、最悪の場合は命を落としてしまうこともあります。予防のために日本脳炎ワクチンをしっかり接種し、また日常的にも蚊に接触しないよう注意を払うことが大切です。