記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/2/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
慢性硬膜下血腫は、転倒などで頭を打ってからしばらく経った後に血腫が生じたために歩行障害などの症状がみられる病気です。この病気を治療するために、これまで手術を行うことが一般的でしたが、最近は漢方薬の「五苓散」を使った治療が行われることがあります。どのような場合に五苓散を使うことがあるのか、この記事で解説します。
慢性硬膜下血腫は、転倒などで頭を打ってから1~2カ月後に、硬膜(頭蓋骨の下にある脳を覆っている膜)と脳との間に血液が溜まる血腫が生じ、血腫が脳を圧迫してさまざまな症状が起こる病気です。慢性硬膜下血腫は、高齢の男性に比較的多く見られるものです。血腫の影響による歩行障害や、物忘れが増えることから、認知症の進行が疑われることもあります。
治療は手術のほか、投薬治療も行われます。手術の場合、脳ヘルニアの症状があらわれているケースを除いて予後は良好とされていますが、片麻痺や言語障害といった軽い後遺症が残ることもあると言われています。
慢性硬膜下血腫は、一般的に手術療法が推奨されています。かつてのように頭蓋骨を大きく開けることはなく、局所麻酔下で小さな孔をあけてから、血腫排液・血腫腔内洗浄術や閉鎖式血腫ドレナージという方法で行われるのが主流となっています。
近年では、難治性の症例などに内視鏡を併用した穿頭血腫洗浄術も行われるようになっています。手術後は早期に症状の改善がみられますが、高齢者の場合は回復まで時間がかかると言われています。
手術のほか、保存的療法として点滴で浸透圧利尿剤を投与する薬物療法が行われる場合があります。ただし、長期にわたる入院が必要なことや、高齢者などには電解質異常などの合併症が起こる可能性があるため、慎重に判断された上で行われます。
慢性硬膜下血腫に限らず、高齢者にとって手術は少なからずリスクがあり、身体にも大変な負担をかけることから、手術を選択せずに薬剤による治療を行うことがあります。その中で漢方薬「五苓散」を使った治療が行われることがあります。
五苓散は、体内に溜まった余分な水分を排出させる効能を持つとされ、慢性硬膜下血腫によって頭蓋骨に溜まった余分な血液の排出も促すと考えられています。五苓散はアクアポリンと呼ばれる水の透過性を調整するたんぱく質のうち、脳に存在するアクアポリン4活性を抑制し、水の流れを整えて脳浮腫を改善させ、慢性硬膜下血腫などの脳疾患の症状を緩和させることに役立てられています。1日3回の五苓散服用を2カ月継続した後、慢性硬膜下血腫が消失し、手術をしなくても回復したケースもあります。
慢性硬膜下血腫だけでなく、脳梗塞(血管が詰まって血流が滞るために発症する)や脳腫瘍(腫瘍が正常な脳まで圧迫しする症状)など、原因や病態はそれぞれ異なりますが、すべての脳疾患で脳浮腫がみられます。脳浮腫の改善に有効と言われている五苓散などの漢方薬は、脳神経外科での治療にも使われるようになってきています。脳疾患治療後のリハビリにも漢方薬が有効なこともあります。たとえば、桂枝茯苓丸や通導散は便秘の解消するために処方されることがあります。
慢性硬膜下血腫は、一般的に手術で治療することが多い病気ですが、場合によっては手術をせずに漢方薬での治療を目指すことがあります。たとえば、体内に溜まった余分な水分を排出する効能がある五苓散は、慢性硬膜下血腫によって生じた脳浮腫を解消するために処方されることがあります。