記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/2/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
便失禁とは、無意識、または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状です。この記事では、便失禁の治療法として最近注目されている仙骨刺激療法について解説します。
便失禁診療ガイドラインにおいて、便失禁は「無意識、または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状」と定義されています。
便失禁はその症状によって2種類に分類することができます。1つは切迫性便失禁で、便失禁者の16%がこのタイプであると言われています。下痢など、急激に便意を催した時に我慢できずに漏らしてしまうことで、外肛門括約筋や陰部神経の損傷や機能の低下によって肛門括約筋をうまく締められなかったり、直腸に便をためたり、便を我慢したりする力が弱くなることが原因として考えられます。
もう1つは漏出性便失禁で、便失禁者の49%がこのタイプと言われています。自分では気づかないうちに便が漏れており、下着が汚れているのを見たときに初めて便失禁に気づきます。内括約筋機能や骨盤内神経の低下や損傷、直腸肛門感覚の低下が原因とされており、特に高齢者に多いタイプの便失禁です。
便失禁患者の35%には、切迫性便失禁と漏出性便失禁の両方の症状があると言われています。
便失禁の原因は1つとは限らず、さまざまな原因が複合的に絡み合っているとされています。
便失禁の原因の中で最も多いのが、内肛門括約筋の機能低下です。内肛門括約筋は、無意識のうちに肛門を閉める筋肉で、加齢などによって機能が衰えると便失禁が起こると言われています。また、内肛門括約筋だけでなく、外肛門括約筋(自分の意識で閉めることができる筋肉)の機能が低下し、閉める力が弱くなった場合も便失禁の原因となります。
肛門括約筋の機能が低下してしまう原因はさまざまで、自然分娩による出産後の合併症や、大腸や痔の手術の合併症、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患といった腸の病気が原因になることもあれば、脊髄損傷や脳梗塞、糖尿病といった神経の病気が原因になることもあります。
仙骨神経刺激療法(SNM)とは、直腸や肛門の感覚、運動に関係する仙骨神経に電気刺激を与えることによって、便失禁や便秘などの排便障害といった骨盤底機能障害を改善する治療法です。有効率は70%程度とされています。
手術は2段階に分かれています。第1段階では、仙骨神経の近くに細いリードを埋め込んだ後、2週間ほど刺激を与えて様子をみます。そして、この期間で効果がみられた場合は、第2段階としてペースメーカーのような装置を腰臀部の皮膚の下に埋め込みます。効果がみられなかった場合はリードを取り外します。
手術後も定期的に通院して評価を行い、刺激の強さを調整することが必要です。また、3~5年程度で装置のバッテリーが切れてしまうため、その都度入院、手術をして交換します。
便失禁の原因は1つだけに限らず、複合的に絡み合っていることが特徴です。さまざまな治療法がありますが、仙骨刺激療法は新たな治療法として注目されています。手術や通院が必要になりますが、QOLの改善にもつながる、有効な治療法と言えます。