記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
発展途上国に旅行や海外出張をする際、注意したいのが「旅行者下痢症」です。では、旅行者下痢症を予防するには、現地でどんなことに気をつけたらいいのでしょうか?
旅行者下痢症とは、海外旅行中、もしくは帰国後に下痢などのお腹の異常を発症する病気です。具体的な症状としては、下痢、吐き気、嘔吐、腹部のけいれん、血便、筋肉痛などがあげられます。症状が軽度の場合は、1週間以内には回復しますが、重度になると、1ヶ月以上症状が続く場合もあります。
旅行者下痢症の主な原因としては、細菌やウイルスによる感染症と、感染症以外のものに大別されます。感染症以外の場合は、水、食事(特に油や香辛料)、環境変化によるストレスなどがあげられます。一方、感染症の場合には、原因となる菌やウイルスとして、コレラ、赤痢、腸チフス、毒素原性大腸菌などがあげられます。
海外での食事が、旅行者下痢症の原因になる場合も多いです。特に体に合わない水を飲むことで下痢を引き起こす場合があります。海外の水は、日本のものと比べてミネラル分を多く含みます。ミネラル、その中でも特にマグネシウムが、胃腸を刺激するために下痢になってしまう場合があります。また、料理についても、海外では強い香辛料を大量に使う場合があります。香辛料が胃腸を刺激することで下痢を引き起こす場合があります。
また、海外旅行では、ホテルでリラックスできなかったり、ツアーの雰囲気が合わなかったりなど、環境変化によるストレスがあります。すると肉体疲労や精神疲労が蓄積し、胃腸が弱まり、下痢になってしまう場合があります。環境変化が原因の旅行者下痢症は一般的には症状が軽い場合が多く、食欲があれば1~2日で自然に治ります。
旅行者下痢症の予防には、まずは水や料理に気を付ける必要があります。東南アジア、中東、アフリカなどでは水や料理から細菌などに感染する場合も多いです。食事の前には石鹸で手洗いをしっかり行いましょう。もし手が洗えない場合は、消毒ができるウェットティッシュなどで手をよく拭きます。
水を飲む場合には、生水は避け、ペットボトルや缶入りのミネラルウォーターにしましょう。どうしても生水を飲まなくてはならない場合には、必ず沸騰させてから飲むようにしてください。生野菜やカットフルーツ、氷も水によって汚染されている場合があるので、注意してください。
また、生の料理や、加熱が不十分な肉、魚、卵料理は食べないようにしましょう。スパイスの強い料理にも気を付けてください。スパイスが胃腸を刺激して下痢を引き起こす場合があります。
一方、水や料理以外にも、旅行者下痢症を予防する上で注意すべきことがあります。それは歯磨きです。歯磨きの時は現地の水道ではなく、ミネラルウォーターを使うほうが安全です。また、ホテルで料理する場合には、包丁や食器が汚染されていないか注意が必要です。使うときはしっかりと安全な水で洗浄しましょう。
そして、睡眠不足を避けて、体調管理をしっかり行ってください。なお、もし下痢になってしまった場合には、整腸剤を飲まないようにしてください。細菌の排出が遅れてしまい、病気が長引く場合があります。症状が重度の場合は早めに医療機関を受診しましょう。
旅行者下痢症を予防するには、特に海外の水に注意が必要です。食事でも歯磨きのときも生水は避け、ミネラルウォーターを使いましょう。また、料理も強い香辛料を使っているものはなるべく避けましょう。そして旅行ではついつい夜更かししてしまいますが、しっかりと睡眠をとって体調管理を行うことが大切です。