記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/3/23
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
紀元前のエジプトでミイラを包む布に使われていたアスベスト。
天然の鉱物繊維で日本では、「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。
不燃・耐熱・耐久・電気絶縁に優れているうえに、安価なため、高度経済成長期に「夢の素材」として重宝されました。
しかし、まさにその頃、アメリカではアスベスト・ドリームは、終焉を迎えようとしていました。アメリカ海軍の造船労働者は“危険物質”として、アスベストの取り扱いを拒否していたのです。
やがて、遅れてですが、日本でもアスベストの有害性が認知されるようになりました。
アスベストが日本の労働者に残した爪あとは、粉塵被害による、多大な健康被害という現実でした。
アスベストは現在、使用が禁止されていますが、建設業、メンテナンス業、解体作業を行っている人は、今もなお、アスベストの粉塵に接触し、危険にさらされています。
アスベストの曝露が原因と考えられる疾患には、中皮腫(肺の周囲にある膜に影響を及ぼす悪性腫瘍)や、肺がんがあります。
アスベストが原因でなくなった人の多くは、電気技師、建築業者、左官、配管工、造船業や断熱材などの現場で働く人たちです。このグループの死亡率は年々増加しています。
中皮腫は発症するまでに20~50年かかるため、何十年も前に建設現場で働いた労働者が、高齢になってから中皮腫を発症することになるのです。
アスベストは、いまだ建築済みの建物に残存しているため、労働者にとって危険な物質です。そして労働者だけでなく、付近の住民にとっても危険です。
アスベストが使用された建物を解体し、アスベストの繊維が掘削や切断などで拡散すると、致命性の高いほこりが簡単に舞い込み、そして、吸い込んでしまうからです。
窓を開けたり、水を飲んだりしても、アスベストの危険から身を守ることはできません。
アスベストによる健康被害のリスクを抱えている労働者に対し、以下のようなアドバイスがあります。
・可能ならば、アスベストを扱う作業は避けてください。また、アスベストがあるかどうかわからない場合は、作業に取りかからないでください。会社または顧客が、アスベストが存在するかどうか伝えるはずです。
・アスベストは非常に危険ですが、なかでも取り扱いを避けたほうがいいタイプのアスベストがあります。スプレーでコーティングされたアスベスト、板状のアスベスト、パイプやボイラーの上に散布されたアスベストは、絶対に作業しないでください。ライセンスを受けた業者だけしか作業できないからです。
・アスベストを取り扱う場合、アスベスト対策の研修を受け、適切な装備を使用する場合にのみ、工事に参加してください。
・アスベストの粉塵の飛散を最小限に抑えるため、電動工具ではなく手動工具を使ってください。また、湿らせた状態を保つようにしてください。掃除するときは、工事専用の掃除機を使用し、アスベストが入った袋は二重包装し、袋にラベルをつけ、適切に処分してください。
・アスベストを扱う際は、必ず専用マスクを着用してください。通常のマスクでは効果がありません。
アスベストによる健康被害者救済のため、アスベスト新法が衆議院で成立し、2006年に施行されました。
一部の環境先進企業は、アスベストの使用状況を総点検していますが、アスベストへの意識はまだまだ高いとはいえないのが現状です。解体工事でアスベスト対策を行った場合、コストが倍増するからです。コスト削減のためにアスベスト対策を施さない解体作業を行っている業者も存在します。
建築物の解体工事に携わっている労働者は、絶えずアスベスト被害による危険に晒されていると言っても過言ではありません。
ずさんな工事による健康被害を防止するため、アスベスト対策に真剣に向き合うことが求められています。