記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/3/15 記事改定日: 2018/8/3
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
乳房再建術とは、乳がんの手術で失ったり、形が変わってしまった乳房を以前の形に近づけるための手術です。乳房は女性らしさの象徴ともいえるものであり、失ってしまうことはQOLを大きく損なう原因にもなりかねません。
この記事では、乳房再建術の種類について説明しています。どのような手術でどのようなメリット・デメリットがあるのか、事前に理解しておきましょう。
乳房再建術とは、乳がんによって切除した乳房をインプラントや自身の体の組織を用いて再建する形成外科的な治療です。
女性にとって乳房は性的なアイデンティティを維持するためにも重要なパーツであり、治療によって乳房を喪失する悲しみは測り知れません。また、夏場などは衣服を着用していても乳房のバランスの悪さなどが目立ち、人目を気にするあまり引きこもり状態となる人も多いです。
このような乳がん術後患者のために行われるのが乳房再建術です。
大きく分けてインプラント(人工乳房)と自家組織の移植の2種類があります。
インプラントによる手術は、組織片の移植に比べて、短時間でできます。
手術は、インプラントを一時的に埋め込み、胸の皮膚を徐々にのばすことから始めていきます。埋め込んだインプラントを膨らませるために、3~6ヶ月かけて何度か通院して生理食塩水をインプラントに追加注入します。
エキスパンダーがちょうどよいサイズにまでふくらんだところで、シリコン製のインプラントと交換し乳房再建が完了したあと、乳頭と乳輪の再建が行われます。
インプラントを使用した乳房再建術では、インプラントという異物を体内に植え込むため、そこに細菌感染を生じることがあります。その結果、高熱や痛み、腫れなどが引き起こされ、いったんインプラントを取り出して感染が生じた組織を取り除く治療を行い、感染による症状が落ち着いてから再建術のやり直しが必要となります。また、感染を起こさなくても異物への生理的な反応としてインプラント周囲の皮膚や粘膜が硬くなって「しこり」ができ、痛みを伴うこともあります。
乳房の切除が片側だけの場合、再建術も片側の乳房に対してだけ行われますが、形や張りに左右差ができることもあります。また、乳房は加齢によって垂れ下がった状態になりますが、インプラントではそのような変化が生じないため、左右のバランスを合わせるためにインプラントを挿入していない方の乳房を吊り上げたりボリュームを出す手術が必要になることも少なくありません。
自家組織を使う方法では、自分の背中やお腹などから組織を一部切除して移植し、乳房を再建していきます。自家組織を使った再建術は乳房の形やさわり心地が自然に仕上がるところがメリットです。
自家組織を使用する再建術は自然な形や柔らかさなどが得られるという点で優れていますが、背中やお腹の組織を採取するための手術も同時に必要となります。
このため、インプラントなどを使用した再建術よりも体への負担が大きく、術後の痛みや感染症のリスクも高くなります。
当然ながら、入院期間も長くなり、お腹や背中に傷跡が残ることとなります。特にお腹から組織を採取する場合は臍下に30㎝程の傷が残ります。やせ型の人では腹壁の強度が低下して腹壁瘢痕ヘルニアなどの合併症を生じる可能性もあるため、妊娠の予定がある人には行われない再建術です。
また、移植した組織が上手く乳房に生着できない場合には、皮膚や脂肪組織への血流が低下して乳房全体が壊死することがあります。
乳房再建の方法には一次再建と二次再建があり、それぞれ次のような特徴があります。
乳房切除と同時に再建術を行う方法です。主に自家組織を使用する再建で行われる方法ですが、インプラントを使用する場合には、皮膚の拡張器を挿入して数か月かけて徐々に皮膚を引き伸ばし、最終的にインプラントと入れ替えます。
手術を行う回数が少ないため、体への負担が少ないですが、乳房切除前に再建する乳房の形などを決める必要があるため、患者自身が術前に決めなければならないことが多く、精神的な負担を感じる人も多いといわれています。
乳房切除後に改めて再建術を行う方法です。主にインプラントを使用する再建で行われますが、一回目の手術ではインプラントを挿入する部位の皮膚を広げる拡張器を挿入して徐々に皮膚を引き伸ばして、インプラントと入れ替える手術を行います。また、自家組織を使用する再建術では、初回は乳房切除術と同時に行い、その後左右のバランスを取るための手術が行われることがあります。
二次再建では、乳房切除と再建術までにある程度の期間があるため、希望する乳房の形を落ち着いて検討することができ、再建術に特化した形成外科などで再建のみを行うことも可能です。しかし、手術が複数回にわたるため、体への負担や経済的負担が多いのがデメリットです。
乳房再建術には、自家組織を使った術式とインプラントを使った術式の2種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。また、乳房再建をする時期にも一次再建と二次再建があり、それぞれ適した患者が違ってきます。
手術前に必ずインフォームドコンセントをしてもらい、メリットとデメリットを十分理解したうえで医師と相談しながら意思決定をしましょう。