記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
椎間板ヘルニアとは、背骨と背骨の間でクッションの役割をする椎間板が何らかの原因で飛び出してしまい、脊椎の神経を圧迫してしまうことで痛みや痺れを感じる症状の病気です。
椎間板ヘルニアの治療には、腰への負担を軽減するためのリハビリテーションが非常に重要です。この記事では、椎間板ヘルニアのリハビリテーションの目的から、改善のための運動まで解説していきます。
椎間板ヘルニアでリハビリテーションをする目的は、主に骨盤や脊椎への負担を軽減することです。腰回りの体幹筋や骨盤筋など、運動不足や加齢で衰えがちなインナーマッスルを鍛え、症状の改善、再発防止を目指します。
保存療法は、物理療法と運動療法の二種類があります。いずれも、手術などで原因を取り除くのではなく、生活習慣の改善や運動・ストレッチなどで症状の改善を目指す療法です。
物理療法 | 運動療法 |
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物理療法では、電気や熱を利用して血行を良くし、硬くなってしまった筋肉を柔らかくします。
運動療法では、ストレッチで筋肉をほぐし、体幹をはじめとしたインナーマッスルを鍛えるためのトレーニングを行います。
椎間板ヘルニアの手術は、除圧をすることで脊髄への脊髄や神経根への圧迫を解除します。手術後には保存療法と同様、ストレッチや筋トレなどのリハビリテーションが必要です。
椎間板ヘルニアのリハビリは、腰に過度な負担がかからないよう、段階を踏んで徐々に行います。横になった状態でも行えるトレーニングから、立ち上がって日常生活が送れるようになった後に行う筋力トレーニングまで、少しずつ腰や腰回りの筋肉の可動域を広げ、負荷を増やしながら時間をかけて行います。
まず初めに、腰に負担をかけないよう横になった状態でストレッチや可動域を広げる訓練を行います。
順番 | 名称 | 概要 | 部位 |
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1 | 体幹ストレッチ | 硬くなった筋肉を柔らかくする |
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2 | 寝返り訓練 | 腰をひねって負担を与えないよう、
身体全体で寝返りを打つ訓練を行う |
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3 | 腹式呼吸 | 息を深く吸い、その後お腹をへこませるように力を入れながら
ゆっくりと息を吐くのを繰り返す |
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4 | 身体をねじる訓練 | 時間をかけながら、ゆっくりと身体全体をねじる
※身体を反らす運動は厳禁 |
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特に注意が必要なのは、身体全体を使って行う寝返り訓練や身体をねじる訓練です。この訓練はいずれも腰に直接負荷のかかりやすい訓練です。しかし、痛みを感じる状態で腰に過剰に負荷をかけると神経を傷つけ、下半身マヒなどの重篤な疾患につながる危険性があります。訓練は必ず、痛みの起こらない範囲で行い、痛みを感じたらすぐに中止しましょう。
身体をねじることができるようになり、上半身を起こすことができるようになったら立ち上がり、歩行や日常生活を行う訓練をします。
順番 | 名称 | 概要 | 部位 |
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5 | 立ち上がる訓練 | 腰痛バンドやさらしなどを利用しながら、
ゆっくりと立ち上がる |
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6 | 歩く訓練 | 手すりなどにつかまりながら
ゆっくりと歩く |
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7 | 軽い運動 | ストレッチ、体操など |
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8 | 筋トレ・有酸素運動 | 筋力を鍛えるトレーニング
ウォーキングなどの有酸素運動 |
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立ち上がることができるようになったら、つかまり立ちから徐々に歩く訓練を行いましょう。特にこの時期は、トレーニングを焦りやすいのでこれまで以上に痛みに慎重になる必要があります。立ち上がる訓練や歩く訓練では腰痛バンドやさらし、手すりなど、サポートしてくれるものを用意しての訓練が望ましいです。
また、筋力トレーニングでは腹筋・背筋はもちろん、インナーマッスルである体幹を鍛えることも重要なポイントです。リハビリテーション終了後も体幹を鍛えることで、椎間板ヘルニアの症状を改善し、再発防止することができます。
運動の種類 | 概要 |
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腹筋を鍛える運動 |
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背筋を鍛える運動 |
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脚の筋肉を鍛える運動 |
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適度なウォーキング |
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椎間板ヘルニアの症状改善や再発防止に有効な運動は、腰回りの筋肉、特に体幹部分のインナーマッスルを鍛える筋力トレーニングや有酸素運動です。
特に、寝たままで行える腹式呼吸や腹筋運動、適度なウォーキングなどは日常生活に取り入れやすい運動です。寝る前や起きてすぐに腹式呼吸や腹筋を行い、散歩がてらウォーキングを行うことも良い訓練になります。
お風呂上がりなどの血行が良く、筋肉が柔らかくなっているときに、マッケンジー運動やブリッジ運動、ハムストリングや股関節を鍛える運動を行うとよいでしょう。全身が柔らかくなっている状態でゆっくりと時間をかけてトレーニングを行えば、筋肉や筋、神経への負担を少なくできます。
椎間板ヘルニアのリハビリは、神経や筋肉を傷つけないよう慎重に行います。特に、横になっていた状態から立ち上がる状態に移行するときには負荷が大きくなりますので、十分に注意しましょう。
また、症状がかなり改善されてきたら筋力トレーニングを行いましょう。体幹をはじめとしたインナーマッスル、腹筋や背筋を鍛えることで、筋肉がコルセットの役割を果たし、椎間板ヘルニアの再発防止に働きます。
しかし、これらを自己判断で行ってしまうことは悪化に伴う下半身の神経損傷の可能性があり、非常に危険です。リハビリテーションの段階を進む際には必ず、医師や理学療法士の判断に従って行いましょう。