シェーグレン症候群の診断基準が1つではない理由とは?

2018/7/20

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

シェーグレン症候群の診断には、複数の診断基準が使われます。これは、シェーグレン症候群に特異的な症状がなく、他の疾患と同様の症状を示すことも多いためです。以下で詳しく解説していきましょう。

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シェーグレン症候群ってどんな病気?

シェーグレン症候群は、2015年1月に指定難病に認められた自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、異物を排除する機構である免疫機能が何らかの原因で異常をきたし、自分自身の組織や細胞を攻撃してしまう疾患のことをいいます。

では、シェーグレン症候群とは実際にどのような病気なのでしょうか?
特徴別・分類別にそれぞれご紹介します。

シェーグレン症候群の特徴

シェーグレン症候群には、以下のような特徴があります。

項目 概要
年齢・性別
  • 40〜60歳の女性に好発し、50歳代が発症のピーク
  • 男女比は男性:女性=1:14で女性に多い
  • 関節リウマチ患者の約20%で合併発症する
発症部位
  • 涙腺・唾液腺
  • 全身性の臓器病変
原因
  • はっきりとした原因は解明されていない
  • 遺伝的要因・ウイルスなど環境要因
  • 発症の男女比・年齢層から、女性ホルモンが関係していると考えられている

シェーグレン症候群は、50歳代の女性に最も多く発病する疾患です。これにより、女性ホルモンが何らかの形で関与していると考えられています。その他、遺伝的要因・環境要因などの要因が考えられていますが、明確な原因は解明されていません。

シェーグレン症候群の分類

シェーグレン症候群は、原発性と二次性に大きく分類されます。

原発性シェーグレン症候群
分類 概要
腺型
  • 症状は主に涙腺・唾液腺に限定される
  • 患者のほとんどは日常生活を送れている
  • 原発性のうち、約45%を占める
腺外型
  • 全身性の臓器病変を引き起こす
  • 全身臓器へのリンパ球湿潤
  • 多くの自己抗体の産生・活性化
  • 原発性のうち、約55%を占める
二次性シェーグレン症候群
原因 種類
膠原病に合併して発症する
  • 関節リウマチ(約20%がシェーグレン症候群を発症)
  • 全身性エリテマトーデス
  • 強皮症・多発性筋炎・皮膚筋炎・混合性結合組織病

原発性シェーグレン症候群は、他の疾患が先行せず、シェーグレン症候群のみで発症したものです。二次性シェーグレン症候群は、他の疾患が先行して発症し、合併症としてシェーグレン症候群が発症したものです。

原発性のうち、症状が唾液腺・涙腺のみに限定される腺型の症状の方ではほとんどが日常生活に重大な支障をきたさずに生活しています。しかし、腺外型と呼ばれる全身に症状が現れるタイプでは悪性リンパ腫の発現が懸念されます。

また、二次性シェーグレン症候群では、関節リウマチを発症している方の約20%がシェーグレン症候群を合併発症することから、関節リウマチを発症している方は特に注意が必要です。

シェーグレン症候群の診断基準とは?

日本でのシェーグレン症候群の診断基準は、1999年に厚生省が定めた「シェーグレン症候群の診断基準」を採用しています。次に挙げたいずれかの項目のうち、2つ以上に陽性の判定が出た場合、シェーグレン症候群と診断されます。

検査 概要
口腔検査 次のいずれかの陽性所見を認めること

  • 唾液腺造影でstage I(直径1mm以下の小点状陰影)以上の異常所見
  • 唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL 以下、またはサクソンテスト2分間2g以下)があり、かつ唾液
    腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
眼科検査 次のいずれかの陽性所見を認めること

  • Schirmer試験で5mm/5min以下で、かつローズベンガルテスト(van Bijsterveld スコア)で陽性
  • Schirmer試験で5mm/5min以下で、かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性
生検病理組織検査 次のいずれかの陽性所見を認めること

  • 口唇腺組織でリンパ球浸潤が1/4m㎡当たり1focus以上
  • 涙腺組織でリンパ球浸潤が1/4m㎡当たり1focus以上
血液検査 次のいずれかの陽性所見を認めること

  • 抗SS-A抗体陽性
  • 抗SS-B抗体陽性

厚生労働省ホームページを編集して作成】

シェーグレン症候群の診断基準が複数ある理由

シェーグレン症候群では、特異的に見られる病態や、特異的に検出される項目がありません。そこで、シェーグレン症候群の診断には複数の診断基準を必要とします。

上記の4項目の検査項目は、いずれもシェーグレン症候群の代表的な兆候です。しかし、各項目のみでは他の疾患でも陽性の所見が見られる症状であり、1項目のみでシェーグレン症候群を特定することはできません。

シェーグレン症候群の海外での分類基準

海外でのシェーグレン症候群の分類基準には以下のものがあります。

名称 略称 年度 感度 特異度
アメリカ・ヨーロッパ合同研究班 AECG 2002 89.4 84.3
シェーグレン国際共同臨床臨床連携 SICCA 2012 79.1 84.8
アメリカリウマチ学会・ヨーロッパリウマチ学会 ACR-EULAR 2016 95.4 72.1

感度とは、諸検査によって該当の疾患が発見できるかどうかの度合いを示します。
特異度とは、諸検査によって該当の疾患に罹患していない人が正しく弾かれる度合いを示します。

厚生労働省の診断基準では、感度82.1、特異度90.9と、疾患の発見度合いではやや劣りますが、疾患に該当しない人を除外することができる度合いについては高い相関性を示しています。そのため、日本では主に厚生労働省の診断基準と、疾患の発見度合いの高いACR-EULARの分類基準が広く使用されています。

Ann Rheum Dis. 2017の論文を編集して作成】

おわりに:シェーグレン症候群には特異的な病態がない

シェーグレン症候群は、病状や症状が多岐に渡ることから、特異的な症状や検査によって検出される項目がありません。よって、診断基準は複数の検査項目を組み合わせて定められています。

また、感度の高いACR-EULARの分類基準と、特異度の高い厚生労働省の診断基準を場合によって使い分けることで、臨床診断においてより適切な治療方針の決定をすることができます。

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