記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
肺がんや乳がんなど、がんの種類によってはリスクが高くなるがんの「骨転移」。もし骨転移が起こると、どれくらいの痛みが現れるのでしょうか。また、どのように治療を進めていくのでしょうか。
「骨転移(こつてんい)」(転移性骨腫瘍)は、がん細胞がもともとあった場所から血液の流れにのって骨に移り、そこで分裂・増殖するものです。
骨は非常に硬い組織なので、がん細胞はその骨組織を破壊するために正常な骨にある骨芽細胞に働きかけて破骨細胞を増やします。この破骨細胞が骨を溶かすことで、骨の中にある物質が溶けだしてさらにがん細胞を刺激するという悪循環を起こします。
骨転移は、骨にもともとある細胞が腫瘍化する病気(原発性骨腫瘍)とは区別され対処も異なるものです。特に肺がん、乳がん、前立腺がんなどでよくみられますが、どの部分のがんでも起こり得ます。代表的な症状は「痛み」「骨折」「神経障害」の3つで、ちょっとした違和感から始まり、徐々に痛みに変わり、悪化していきます。
痛みが悪化していることに気づいた時点で専門医にみてもらえば、多くの場合対処は可能です。
骨転移では骨自体に痛みはありませんが、腫瘍が外にまでひろがり骨膜や周りの神経を刺激することで「痛み」が出ます。ただし痛みがないこともあります。骨転移による痛みは、普通の一過性のある痛みと違い持続的に少しずつ悪化するのが特徴です。
この痛みを放っておくと、骨が溶けて骨皮質が薄くなることで体重や筋肉の動きに耐えられなくなり「骨折」(病的骨折)する場合があります。また、骨の周りには重要な神経が走っていることが多くあり、転移した場所に応じて「神経障害」を生じることがあります。特に脊椎にがんができてその中を走る脊髄を損傷すると、下肢の麻痺などの重大な神経障害を起こすことがあります。
そのほか、形成される骨より溶ける分が多くなることで血中のカルシウム濃度が上がり、「高カルシウム血症」を起こして意識障害や口の渇きなどの症状が出ることもあります。
がん治療では抗がん剤治療、ホルモン療法などの全身治療が行われますが、骨転移が明らかであれば、痛みや骨折を少なくするため「薬物療法」としてビスホスホネート製剤やデノスマブによる治療を行います(副作用として「顎骨壊死(がっこつえし)」、デノスマブでは低カルシウム血症を起こすことがあります)。
痛みがある場合には鎮痛薬も投与しますが、痛みの範囲が限られている場合には「放射線療法」を行うことで痛みをやわらげるとともに骨折を予防する場合もあります。放射線療法には、一般的な「外照射」、病変のある部位への「定位照射」のほか、前立腺がんの骨転移には「α線による治療」、放射性物質を注射することで骨に集った薬剤が放射線を放出する「β線による治療」があります。
そのほか、整形外科的な「手術療法」を、骨折を起こす前の予防あるいは起こった骨折に対して生活の質を保つために行う場合もあります。
がんによる骨転移は、人によっては痛みがないこともありますが、多くの場合痛みが増すにつれ状態も悪化し、骨折したり、神経障害などを起こすようになります。異変に気づいたら早めに医師に相談し、早期治療を開始することが重要です。