記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
口内炎ができると食べ物がしみたり、話しづらかったり、何かと支障が出てしまいますよね。特にがんの治療中にできる口内炎は治療にも影響が出る場合があるため、注意が必要といわれています。そこで今回は口内炎ができる理由や予防法、対処法などについてご紹介します。
がんを治療している最中に口内炎ができる原因には、主に以下のようなものがあります。
抗がん剤治療による副作用にはさまざまなものがあります。中でも抗がん剤治療をしている約4割の患者さん、強い抗がん剤治療(造血幹細胞移植治療など)をしている約8割の患者さんに、口腔内で何らかの副作用がみられるという報告もあります。
そして、口内炎はその代表的な症状のひとつです。抗がん剤の内容やがんの種類、また重症度などによっても異なりますが、ほとんどの抗がん剤によって口内炎ができると考えられています。
通常、口内炎は抗がん剤治療を始めて約7~10日前後で発症し、自然に軽快していくといわれています。しかし、食事や水分が十分にとれていない、歯磨き・うがいができずに衛生環境が良くない、また体力低下や栄養状態が悪い状態などの場合には重症化することがあり、治るまでに時間がかかる場合もあります。
また、抗がん剤治療で口内炎になった人の約半数は口内炎が重症化し、抗がん剤の治療スケジュールの変更など、治療自体に影響が出ているといわれています。
特に口や喉、また食道などの治療で口の周りに放射線があたる治療の場合には、口の中に何らかの副作用がほぼ全員にみられるといわれています。場合によっては副作用がひどくなり、治療を継続できないこともありますが、途中で放射線治療を止めてしまったり間を空けるなどした場合、思うような効果がみられないと考えらえています。
このような副作用の中でも、放射線治療によってみられる副作用で重大とされているのが口内炎です。抗がん剤治療によってできる口内炎よりも重症となり、長引く傾向にあるといわれています。放射線治療を始めて約1~2週間前後で口の粘膜が腫れて赤くなり、その後もさらに症状が悪化していきますが、約3~4週間前後で治療前の状態に戻っていくことが多いです。しかしその過程で傷に細菌などが侵入して他の感染症を起こすと、治るまでさらに時間がかかる場合もあります。
また放射線治療によって唾液が減り、口の中がネバネバした状態になることもあります。この状態は年単位で長期間続く上に完全には回復せず、食事の味を感じづらくなるなど、口の中の不快な状態につながると考えられいます。
口内炎の症状が進むと食事をすることも難しくなる可能性があります。口内炎を予防するためには、さまざまな研究で口の中を清潔に保つなどといった口のケアが重要であるという報告が多数あります。具体的には以下のようなものが挙げられます。
口の中に、発赤や亀裂、また出血や乾燥、舌の表面の変化などはないかなどを鏡を使ってよく観察しましょう。気になるものを見つけた場合や不快な症状がみられたら、医師や看護師へ伝えましょう。
歯磨きは、1日3回の食事後と寝る前の計4回行いましょう。食べ物を口にしていない場合でも、最低1日1回は歯磨きをすることが理想です。ただし、炎症や出血がひどいときなどは、歯磨きを中止しましょう。
また、通常はうがい後の2~3時間で口の中が元の状態に戻るといわれています。そのため、うがいは1日何度も行うとより効果的です。
煙草のヤニで歯や粘膜などが汚れて粘膜の血行不良になると、口内炎などが重症化する可能性が高くなるといわれています。喫煙は控えることが望ましいでしょう。
口内炎ができやすいかどうかは、治療前の口の中の状態や生活習慣がポイントです。たとえば、むし歯や歯肉炎などがみられ衛生状態が良くない人や、糖尿病の合併症などにより免疫機能が低下している人、またビタミン欠乏症などがある人などに口内炎ができやすいといわれています。また、飲酒が習慣化している人や喫煙者も、がんの治療中に口内炎を発症しやすいと考えられています。
そのため、がんの治療を開始する前に口の中の検査や掃除を行うことが大切です。がんの治療前に歯科を受診し、事前に口の環境を整えておくことが望ましいでしょう。歯科では歯周炎やむし歯など、がんの治療を進める上でトラブルになり得る歯がないかをチェックしてもらい、がんの治療が一段落つくまで何事もなく生活できるように応急処置などをしてもらいましょう。
また、口のトラブルの原因となる細菌を可能な限り減らすために、歯石やプラークなどを徹底的に掃除してもらうとより安心です。
口内炎の症状を和らげるためには、うがいや鎮痛剤などが効果的です。のどに違和感があるなど、症状が軽い場合には水道水でうがいをしましょう。水道水がしみる場合には生理食塩水でうがいをしましょう。このような軽度の口内炎の場合には、うがいを頻繁に行い、口の中の保湿をすることである程度症状が落ち着くといわれています。
なお、食べ物などを飲み込むと痛みが生じる場合などには、うがいの際に局所麻酔薬を服用することで痛みを抑えられるといわれています。
また、食事などができないなどで痛みが強い場合には、うがいの際の局所麻酔薬の服用に加えて、医療用麻薬を使う場合もあります。医療用麻薬とは、がんの痛みをコントロールするために医師の指導の下で使われる薬です。医師に相談の下、それぞれの段階に応じた対処を心がけましょう。
口内炎ができた場合の食事は、のどに違和感があるなどの軽度の場合には、食事前に鎮痛剤などを使うことで口から食事できるようになるといわれています。ただし、治療の影響によって味覚の変化による食欲不振や倦怠感などが出ることもあるため、思うように食事が進まない可能性も考えられます。
また、食べ物などを飲み込むと痛みが出る場合でも、口内炎が口にだけできたのであれば、鎮痛剤などを使うことで食べ物を飲み込みやすくしてくれる効果が期待できます。
しかし、顔から首にわたってできる頭頸部がんなどの患者さんは、口内炎の症状がのどに強く出ることでのど全体に痺れが生じる場合があります。そのため、食事もままならず、食べ物が気管に入ることで肺炎を起こす可能性もあります。このような場合には、胃に直接管を入れて栄養や水分を補給したり、点滴を行うことがあります。
ただし痛みが軽度やそれ以上の場合でも、口内炎に刺激となるような食べ物を避ける、食事方法に工夫をするなどすれば、ある程度は食べ物が飲み込みやすくなるかもしれません。たとえば、おかゆやバナナなど、水分が多くてやわらかいものは刺激が少ないため食べやすいといわれています。また、塩分や香辛料などの刺激物は避けたり、熱いものは人肌くらいに冷まして食べるなどの工夫で、食事が進む場合もあります。
がんの治療中に口内炎ができると、治るまでに時間がかかることもあります。まずは歯科に行くなど予防をしっかり行い、その上で日々のセルフケアが大切です。また口内炎ができた場合には、医師と相談の下、鎮痛剤などを使用して少しでも痛みを和らげて治療に専念することが望ましいでしょう。