記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/7/21
記事監修医師
前田 裕斗 先生
乳がんの治療法として抗がん剤治療が行われることがありますが、どのような副作用が起こる可能性があるのでしょうか?また、副作用を乗り切るためのコツなどはあるのでしょうか?
抗がん剤は、増殖する性質のあるがん細胞を破壊する働きがあります。
そのため、他の細胞と比べると細胞の成長スピードが速い毛髪や爪は、抗がん剤による影響を受けやすく、点滴の抗がん剤の使用開始から2、3週間後に脱毛するといわれています。
現在では、吐き気予防薬・イメンド®・ステロイドなどの薬剤を抗がん剤治療の前に使用することができるため、強い吐き気に悩まされる人は従来と比べて少なくなったとされています。吐き気が原因で食事ができず、入院する患者も現在ではほとんどみられません。
骨髄の造血細胞は分裂作用が活発なため、抗がん剤の影響を受けやすく、投与開始から1~2週間後は白血球の量が著しく減少するとされています。
白血球の中でも細菌とたたかう好中球が著しく減少した状態で、37.5℃以上発熱している場合は、「発熱性好中球減少症」として入院が必要になり、軽度であっても抗生物質の内服が必要となります。一度発熱性好中球減少症を発症した方や、白血球減少リスクの高い抗がん剤治療を続けて行う場合は、白血球を増やす注射をうつこともあります。
口腔粘膜は増殖作用が活発なため、抗がん剤によるダメージを受けやすいとされています。対処法としては、病院でのうがいの指導や軟膏の処方などが行われます。
タキサン系の薬剤を使用すると、関節痛・筋肉痛・しびれなどの症状が起こることがあります。これに対しては、消炎鎮痛剤や漢方薬などが処方されます。
タキサン系の薬剤(特にドセタキセル)は長期間使用すると、むくみが起こることがあります。これに対しては、利尿剤などが処方されます。
便秘・下痢・倦怠感・味覚異常・肝臓機能障害などが起こることもあり、それぞれの症状に対しては適した内服薬などが処方されます。またあまりに副作用が強い場合は、抗がん剤の治療を延期したり、使用する量を減らしたりすることがあります。
乳がんが乳管内にとどまっている「非浸潤がん」の場合は、手術や放射線療法などの局所治療のみで治すことができることが多いといわれています。しかし、がん細胞が周囲の組織に広がっている「浸潤がん」の場合は血液やリンパを介して他の臓器に転移している可能性があり、がん細胞を全て根絶させることが難しいため、進行の抑制や症状緩和の目的で抗がん剤を使用する必要があります。
また、画像検査で確認できないほどの小さな転移は微小転移と呼ばれており、それが数ヶ月~数年後に大きくなった状態を「再発」といいます。手術後に抗がん剤を使用する場合は、このような微小転移を根絶する目的で使われます。
抗がん剤の使用する上で大切なのは、「適切な量」を「期間を空けすぎずに」投与することです。少ない量を、期間を空けて投与することは、単に体に毒を入れるだけで効果が見込めない治療をすることにつながりかねません。そのため、副作用を薬剤などで緩和しながらも、適切な量で、期間を空けすぎずに抗がん剤治療を続ける必要があるのです。
抗がん剤は以上のような目的で使用されますが、全身の正常な細胞にも影響を及ぼすことでさまざまな副作用(吐血、吐き気、脱毛、白血球減少など)が起こるため、抗がん剤治療を行う際には、使用する目的や副作用の程度などを確認しながら行う必要があります。
化学療法や分子標的薬などの抗がん剤を使用している間は、風邪をひきやすい・治りにくい状態になっているため、風邪予防の対策(手洗い・うがい・人ごみを避ける)をしっかりと行うようにしましょう。
がんの治療を行った後に、体調の波(何日後にどんな症状が起こるか、症状の継続期間など)をあらかじめ知っておくと、予定の調整や心の準備などがしやすくなるので、体調の変化や副作用の症状などをメモや日記帳に記録しておきましょう。副作用については、どんなときに症状が出やすいのかも書いておくといいでしょう。
辛いときには適度に力を抜いたり、周囲の人に甘えてみることも大切です。
家事や仕事などで困ったことがあるときは手伝ってもらう、外に出て人と話す、気分転換できる時間を持つなども治療をする上で重要な心の支えとなります。
体調が優れなかったり、外で帽子や下着などを試着しづらい、重い荷物を持つのがしんどいなど、外に出て買い物をすることが難しい場合は、ネットスーパーやネット通販を利用するのもおすすめです。人目を気にせずに商品を選ぶことができ、運ぶ手間も省けるので活用してみるのもいいでしょう。
乳がんの抗がん剤治療は、症状の悪化や再発、転移を防ぐ意味で重要ですが、副作用として脱毛や口内炎、関節痛、むくみなどに悩まされることがあります。症状が辛いときには周囲の人に甘えるなど、一人で抱えて無理をしすぎないことが重要です。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。