記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/7/19
記事監修医師
前田 裕斗 先生
不妊治療は、近年インターネットやSNSでもよく見かけるほど、もはや珍しい言葉ではなくなりました。しかし、妊娠・出産という非常にデリケートな分野であることから、特に高度不妊治療と呼ばれる体外受精についてはあまり知られていません。
そこで、体外受精はどんな流れで行われるの?手術はするの?痛みは?など、なかなか人に聞けない体外受精の疑問について、詳しく解説します!
体外受精は、以下の流れで進められます。
という流れで行われます。その後、きちんと着床し妊娠が成立したかどうかを血中ホルモン濃度で測定します。これを妊娠判定と呼んでおり、通常、妊娠判定の後も経過を観察し、FHB(胎児の心臓の拍動)が確認できたら不妊治療は卒業となります。
体外受精の流れは、大きく3つのステップに分けることができます。
これらステップのそれぞれ、採卵・胚培養・肺移植について、それぞれ次の項目で詳しく説明いたします。
採卵とは、卵巣内で育った卵を腟またはお腹からごく細い針を通して吸引し、採取することです。採卵には一人当たり短くても15〜30分程度の施術時間がかかるため、朝早くに採卵を行うクリニックが多いです。
また、採卵の前には卵を育てておく必要があります。育てる方法によって薬を飲んだり、注射したりする期間はまちまちですが、多くは月経開始後3日目頃に受診し、医師と相談の上で採卵までのスケジュールを組んでいきます。
採卵は、針を刺して卵子を採取するため、どうしても痛みが生じます。ただし痛みには個人差があり、麻酔なしでも耐えられる程度の痛みと感じる方から、麻酔なしでは耐えられないと感じる方までさまざまです。
痛みに弱い方や不安な方は、針を刺す部位だけに麻酔をかける局所麻酔や、眠ったまま採卵を終えられる全身麻酔を受けることもできます。ぜひ、我慢せずに医師に相談しましょう。
一般的に、採卵の個数が1〜5個程度と少ない場合は、針を刺す回数が少ないため、麻酔なしまたは施術部位だけにかける局所麻酔で行うことが多いです。逆に、10個以上など個数が多い場合は、そのぶん刺す回数も増えるため、全身麻酔を推奨している施設が多いです。
しかし、個数が少ないからといって必ず局所麻酔で済ませなくてはならないわけではありません。痛みがつらい、怖いなどの場合は、個数が少なくても全身麻酔を受けることもできます。不安な場合は、すぐに主治医に相談しましょう。
患者さんから卵子と精子をお預かりして受精させた後は、移植に適した状態まで受精卵、すなわち胚を育てる「胚培養」というプロセスをたどります。これは、受精した胚が子宮に着床して育つ可能性が高い、つまり着床率が高いかどうかを判断する目的と、移植前に患者さんの体の環境を整えておく目的の2つの意味があります。
着床率を上げるためには、グレードの高い受精卵を選ぶ必要があります。受精卵のグレードは、以下のように設定されています。
胚の種類 | グレード | 主な移植対象 |
---|---|---|
初期胚 | 細胞の数:2〜12
グレード:1〜5 |
細胞の数:7〜9
グレード:1〜3 |
胚盤胞 | 成長段階:1〜6
グレード:AA〜CC |
成長段階:3〜6
グレード:AA〜CC |
初期胚は、受精後2日〜3日後の胚で、細胞の数が数えられる状態です。よって、初期胚のグレードは、細胞の数とフラグメンテーションという細胞の断片の多さによって決定します。フラグメンテーションが少ない方がよりグレードが高く、一般的に細胞数が7〜9個、グレード1〜3の初期胚が十分に妊娠・出産の見込める胚移植の対象となります。
胚盤胞は、受精後5〜7日の胚で、細胞の数が顕微鏡下でも数えられない程度に増え、胎児になる部分と胎盤になる部分とがはっきりと分かれてきた状態です。グレードのアルファベット2つは、前が胎児になる部分の細胞の多さ、後ろが胎盤になる部分の細胞の多さを表しています。どちらも細胞がしっかり詰まっているAAに近い方がグレードが高く、したがって着床率が高いというデータがあります。
初期胚と胚盤胞では、胚盤胞を移植した方が着床率が高くなっています。詳細な理由はまだ解明されていませんが、胚盤胞の段階まで成長を止めずに育っている胚は生命力が強くたくましいと考えられること、胚盤胞まで育てた方がグレードを詳細に判断でき、胚を選別しやすいこと、などが関係していると考えられています。
胚移植には、初期胚移植と胚盤胞移植の2つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、以下のようになっています。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
初期胚移植 |
|
|
胚盤胞移植 |
|
|
初期胚移植では、早く体内に戻すことで培養液の中で育ちにくい胚も体内で育てることができ、失わずに済みます。反面、初期胚は自然妊娠の状態では卵管にあるべき状態の胚であるため、移植後に卵管に子宮から卵管へ逆行し、卵管で着床してしまう子宮外妊娠を引き起こす危険性があります。
胚盤胞移植では、妊娠率の高い胚を選別することができ、また、自然妊娠の状態でも子宮にあるべき状態の胚を戻せることから、着床率が高くなります。反面、培養液の中で育てている期間が初期胚と比べて長くなるため、体内環境でないと育ちにくい胚を失いやすく、移植まで至らない可能性があります。
桑実胚という、初期胚と胚盤胞の間に当たる胚を移植する方法もあります。桑実胚とは、通常、受精後4日目程度の胚で、増えた細胞同士がくっつきあって桑の実のように見えている状態の胚のことを指します。
桑実胚の状態での移植は、これまであまり行われてきませんでした。したがって、グレードをつける方法や着床率についてデータがあまり揃っていないこともあって、実施している病院は少ないです。
排卵誘発剤によって卵巣を過剰に刺激した状態では、副作用として卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という状態になる可能性があります。OHSSとは過剰な女性ホルモン分泌によって卵巣が腫れ、腹水や胸水が溜まってしまう現象であり、むくみ、腹部膨満感、呼吸困難などの症状が現れます。
OHSSの状態でも妊娠が不可能というわけでありませんが、着床率は下がります。また、OHSSの状態で妊娠してしまうとOHSSが悪化して母体が危険に陥る可能性があるため、OHSSの状態での妊娠は推奨されていませんし、避けるのが賢明です。
また、受精卵の着床のためには、子宮内膜という子宮の壁が厚く、ふかふかになる必要があります。子宮内膜が薄すぎると、やはり着床率が下がってしまいます。採卵の後は1〜2周期お休みし、子宮内膜が十分に厚くなったのを確認してから胚移植を行うのが良いでしょう。
患者さんから採取した卵子と精子を受精させ、胚を培養するには専門の技術と経験はもちろんのこと、時間も手間も必要です。そのため、診察に多くの時間を割く必要のある医師が受精や培養を行うのではなく、胚培養士という専門職の医療技術者が受精から培養までを担当している病院がほとんどです。
胚培養士の主な仕事は、患者さんから採取した卵子と精子が受精しやすいように環境を整え、移植可能な状態まで胚を培養することです。また、凍結胚移植を行う場合は、受精の可能性の高い胚を凍結保存したり、移植の際に融解したりすることも行います。
体外受精とは、広くは卵子と精子を母体の外で受精させることですが、不妊治療において体外受精と言う場合、顕微授精と区別して使用されることが多いです。
体外受精では、培養液の中で自然に受精させるため、受精は卵子と精子の力にかかっています。一方、顕微授精では胚培養士が精子を1つ選び、顕微鏡下で直接卵子の中に精子を注入して受精させます。
どちらを選ぶかは医師と患者さんの相談で決められますが、一般的には精子が十分に確保できる場合はまず体外受精から行うことが多いです。
胚培養の項目で、妊娠前に体の環境を整えておくことが大切であることをご説明しました。そこで、新鮮胚移植を行わない場合には胚を凍結しておき、1〜2周期経ってから胚移植を行う凍結胚移植という方法があることもご紹介します。
凍結胚移植と新鮮胚移植のスケジュールは、以下のようになっています。
胚盤胞移植では、新鮮胚移植よりも凍結胚移植の方が着床率は高いというデータがあるため、患者さんの強い希望がある場合を除いて新鮮胚移植は行わない病院がほとんどです。
また、採卵の個数が多い場合も、OHSSが起こる危険性が高くなるため、新鮮胚移植は推奨されません。胚盤胞まで育てた胚を凍結しておき、卵巣や子宮の状態が良くなってから、胚移植を行います。
凍結胚移植と新鮮胚移植には、それぞれメリットとデメリットがあります。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
凍結胚移植 |
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新鮮胚移植 |
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凍結胚移植を行うことで、着床率の高い胚を選別することや、胚盤胞の着床率を上げることができるメリットがあります。しかし反面、凍結・融解のコストがかかることや、凍結・融解で胚に与えるダメージがゼロではないことがデメリットです。
新鮮胚移植は、採卵後すぐに移植をすることで凍結・融解の際に胚に与えるダメージや、コストがかからないことがメリットです。反面、採卵で排卵誘発や卵巣刺激を行ったあとの子宮内膜は必ずしも着床に適した状態とは限らず、着床率が凍結胚移植と比べて下がること、また、OHSSの危険性が高い方にはすぐに妊娠するのは危険であることがデメリットです。
体外受精の費用は、治療の大部分が保険の適用でない自由診療となるため、病院ごとや採卵個数・治療内容で大きく差がありますので一概にいくらである、と言うことはできません。そのため、一例としてモデルケースをご紹介します。
また、国や地方自治体からの補助金や助成金制度もあり、うまく活用することで高額になりがちな不妊治療の治療費用を抑えられる場合があります。上手に活用しましょう。
あくまで一例ですが、体外受精にかかる費用のモデルケースをご紹介します。非常にざっくりとした段階ごとの値段で算出していますので、もっと詳細に設定している病院ではかなり費用が変わってきます。
一般的に、体外受精の方が顕微授精よりも費用は安くなります。また、成功報酬制と言って移植可能な胚が凍結できなかった場合は費用を安くしている病院もあります。気になる場合は、病院のホームページなどをよく確認したり、診察の際に医師に相談したりしましょう。
採卵…100,000円
精子調整…10,000円
体外受精…20,000円
培養(3日目まで)…60,000円
移植…20,000円
合計…210,000円
採卵…100,000円
精子調整…10,000円
顕微受精…50,000円
培養(5日目まで)…90,000円
凍結…40,000円
凍結保存料…40,000円
融解…20,000円
孵化補助…20,000円
移植…20,000円
合計…390,000円
不妊治療のうち、この記事でご紹介してきた体外受精や顕微授精はARTと呼ばれる高度不妊治療であり、厚生労働省から「特定不妊治療助成制度」として、治療費の一部を助成する制度があります。これは47都道府県のどこでも受けられる助成ですので、お住まいの都道府県に申請書を提出して補助を受けます。
また、厚生労働省の実施している助成制度とは別に、市区町村が助成制度を設けている場合もあります。これは全ての市区町村で行われているものではないため、お住まいの市区町村のホームページなどで確認しましょう。
特定不妊治療助成の申請は、治療後に行います。また、以下の規定があります。
年齢に関する規定が多いのは、着床率だけでなく、挙児率に関係しています。また、平成30年4月以降は事実婚の夫婦であっても助成の対象となり、より申請しやすくなりました。
体外受精では、採卵から培養、そして移植まで、さまざまな段階と人の手が加わる治療です。注射や投薬、子宮内膜の確認などで医師に接する機会も多くなります。
また、胚培養という不妊治療の中核を担う胚培養士に説明や質問の機会を設けている病院もあります。悩みや不安があれば、医師や胚培養士にすぐ相談し、不安を解消してから治療に臨みましょう。