記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/8/6 記事改定日: 2020/7/1
記事改定回数:2回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
妊娠中や産後すぐに起こる障害「脳性麻痺」は、子供の疾患と思われがちですが、実際には大人になっても症状があらわれます。脳性麻痺の子供が成長して大人になると、どのような症状が発生するのでしょうか?脳性麻痺によって引き起こされる二次障害の原因・予防法について解説していきます。
脳性麻痺とは、出産前後のトラブルによって十分な酸素が供給されなかったことなどにより、脳の一部にダメージが加わって手足の麻痺、感覚障害、知的障害などの後遺症を残す病気のことです。
症状の現れ方は脳のダメージの程度によって大きく異なり、生まれたばかりの頃から運動発達の遅れが目立つケースもあります。
一方で、脳へのダメージが軽度な場合には、乳幼児期時代は健康な子とほぼ変わらない成長を遂げるものの、成長するにつれて転びやすさが目立ったり、学習面での困難さなどから知的な発達の遅れが目立ったりようになるケースもあります。
また、脳に受けたダメージは時間が経っても改善することはないため、脳性麻痺を発症した場合は大人になっても症状がなくなることはありません。年齢を重ねるごとに症状が悪化していくことも多々あります。
脳性麻痺の患者さんが成長すると新たな症状があらわれることがあり、これを脳性麻痺の二次障害と呼んでいます。
二次障害が医学界で注目されるようになったのは最近のことです。今までは、「脳性麻痺そのものは進行しない」ということに加え、「脳性麻痺者は短命であることが多い」ということから、脳性麻痺でありながら中年、老年を迎えた患者さんについての研究はあまり進んでいませんでした。
脳性麻痺の直接の原因である脳の損傷は、年齢を重ねても進行することはありません。しかし、麻痺の起こった体で長い間日常生活を送ることは、脳性麻痺の患者さんにとって大きな負担となります。そして、年月が経過すると蓄積された損傷が二次障害となってあらわれ、障害がより重くなる傾向があります。
脳性麻痺の二次障害には、主に以下のような症状があります。
頸椎症性脊髄症は、肩こりや首の痛みだけでなく、四肢にしびれや運動障害・歩行障害を引き起こします。
これは健康な人でも加齢によって起こりうる疾患ですが、脳性麻痺の患者さん、特にアテトーゼ型の患者さんでは不随意運動によって、意思とは関係なく体が動きます。そのため、頸椎の神経を損傷しやすく、この症状を発症しやすくなります。
脳性麻痺を発症していた子供は大人になるにつれ、運動機能や筋肉・骨の傷みやしびれ、こわばりなどの症状が早期に、または重篤な形で発症することがあります。
また、若い間は筋肉の発達によって手足のつっぱりやこわばりが抑えられていても、加齢による筋力低下によって異常な緊張を抑えきれず、身体機能の低下を招く場合があります。
それでは、大人になって二次障害が起こる原因について、二次障害の部位別にご説明します。
頸椎に二次障害が起こる場合、アテトーゼ型に多く合併して起こります。アテトーゼ型の患者さんは不随意運動によってずっと首を振る動作をしているため、頸椎にダメージが蓄積しやすいといえます。
加齢によって頸椎の間の椎間板が傷むことは脳性麻痺の患者さんに限らず、誰でも加齢によって起こりうることですが、脳性麻痺の患者さんでは通常よりも早く発症する場合が多いです。
頸椎症によって歩行障害を引き起こすことがあります。もともと歩行機能が低いタイプの脳性麻痺の患者さんでは加齢による機能低下を引き起こしやすいといえます。それ以外であっても4、0歳ぐらいを過ぎて全身の筋力低下によって歩行機能や運動機能の機能低下が著しく現れる場合があります。
股関節に二次障害が起こる場合、四肢麻痺の方に多く起こります。痛みを伴う患者さんは4〜6割で、歩行可能なタイプよりも歩行不能なタイプに多くみられます。
股関節に二次障害が起こると、筋肉のバランスが崩れ、股関節が徐々に内側に回転することで脱臼が起こることもあります。すると座ったり、車椅子に乗るなどの動作で耐え難い痛みを伴うこともあります。
腰椎の二次障害は脳性麻痺の人に特徴的なものではなく、加齢によるところが大きいです。これは、腰椎自体に不随意運動が起こることは少ないので、アテトーゼ型などの脳性麻痺でもそれほど影響が起こりにくいためです。
しかし、脳性麻痺の患者さんで筋力が低下している方は、加齢による症状が30代ごろから見られるため、注意が必要です。
脳性麻痺の二次障害は、麻痺している体で長い年月を過ごすことによって起こる経年的な障害です。通常の人でも加齢によって起こることがある障害の頻度が、筋力低下や不随意運動によって神経の損傷が起こりやすい脳性麻痺の人では早期に起こりやすいのです。
つまり、神経や筋肉・関節などにダメージが蓄積しやすいことを自覚し、早い段階から予防意識を持つことが大切です。特に、加齢による筋力低下を防ぐためには、若い頃から筋力トレーニングなどを行うことが有効です。
筋力トレーニングはアテトーゼ型、混合型などの不随意運動を常に伴うタイプの脳性麻痺の患者さんにはかえって負荷を増大させることがあります。
アテトーゼ型の患者さんでは、訓練によって筋力を増加するというよりは、ストレッチなどで筋肉や関節をやわらかくほぐしたり、筋肉の疲れを残さないような環境を作るように心がけるのがよいでしょう。
脳性麻痺の二次障害を防ぐためには、日常生活で以下のようなことに気をつけるとよいでしょう。
痙直型(けいちょくがた:手足が硬直し、突っ張った状態になるタイプ)など、不随意運動を伴わないタイプの脳性麻痺では無理のない程度の筋力トレーニングは有効です。その際に筋肉に疲れを残さないようにしましょう。
体に疲れを残さないように、生活習慣を整えてください。
仕事などの作業をしている場合は、正しい姿勢を保つことが重要です。例えば、車椅子の状態であれば背中を真っ直ぐに伸ばし、骨盤全体で体重を支えるようにしましょう。パソコンを活用した作業などは集中して何時間も姿勢を変えずに行いがちですが、1時間ごとにタイマーをかけ、体を動かすのが理想です。
寝たきりに近い場合は、2時間おきくらいに介助者に体位を変えてもらうことが望ましいです。寝返りなど自力で位置を変えられる場合も、2時間程度を目安に行うと良いでしょう。
冷えや神経にダメージを与えることはできるだけ避けましょう。また、椎間板など神経の通う部位にダメージを与えないようにしてください。
脳性麻痺の二次障害の症状が現れた場合、最も有効なのは手術療法です。特に、アテトーゼ型の脳性麻痺の患者さんに二次障害が現れた場合、筋解離術や頸椎固定術などの手術によって症状の緩和を目指すことが有効です。
いずれの場合も、しびれや痛みなどの初期症状を見逃さず、早期に手術を受けることで、生活への影響や負担を減らすことができます。
薬物療法は、脳性麻痺とわかった時点で行われる治療と同じように、痙縮による筋肉の極度な緊張を緩和する目的で行われます。特に、筋肉を弛緩させる目的で行われるボツリヌス注射や、髄腔内にバクロフェンを持続投与することが可能な埋め込みポンプを挿入する方法は、小児の脳性麻痺でも使われる療法です。
大人の脳性麻痺の二次障害は適切な治療とリハビリを行うことで運動機能の低下などを防ぐことが可能です。
しかし、二次障害の症状が進行した状態で初めて治療やリハビリを行っても、機能が十分に回復しないことも少なくありません。
このような場合には寝たきり状態となるケースも多々あり、さまざまな感染症や誤嚥性肺炎などから二次障害を発症しない人に比べて生命予後は短くなると考えられています。
脳性麻痺は完治が難しいため、障害と上手に付き合っていく療育を求められる疾患です。脳性麻痺の患者さんは、若い頃から筋肉に負担をかけすぎないように、疲れやダメージを残さないようにすることが大切です。また、二次障害が疑われる場合は早期に治療が必要です。早めに医療機関を受診するようにしましょう。