災害はその後の「感染症」が怖い! 有効な対策を知っておこう

2018/9/7

山本 康博 先生

記事監修医師

東大医学部卒、独立行政法人国立病院機構東京医療センター

山本 康博 先生

西日本豪雨や相次ぐ台風、そして震度7を観測した北海道地震など、現在日本では自然災害が連続発生しています。これらの災害はそれ自体が大きな怪我や、命を落とすことにつながるものですが、もうひとつ恐ろしいのが「災害に伴う感染症」です。
またいつ起こるかわからない災害に向け、リスクの高い感染症や、その対策を知っておきましょう。

災害時は「感染症」に注意!

地震やゲリラ豪雨、洪水、津波、土砂崩れ、台風など、自然災害にはさまざまな種類があります。例えば地震の場合は付随して津波や火災が、台風の場合は看板の倒壊や建物の損壊、水害が二次災害として起こり得ますが、災害の恐ろしい点はそれだけではありません。

洪水によって汚染された水や土壌と接触したとき、ケガをした部分が土や泥に触れたとき、避難所での集団生活をしているとき、ガレキの撤去作業をしたときなどに、リスクが高まるのが「感染症」です。

感染症の発症には「感染源」「感染経路」「免疫力の低下」という3つの要因が関わっていますが、災害時はそのすべてが揃った状態です。災害によって生活環境が汚染されると、さまざまな病原菌の分布が変化して接触しやすくなり、また特に避難所では「ヒト―ヒト感染」が起こりやすく、さらに栄養不足や集団生活のストレス、睡眠不足によって免疫力も低下しています。つまり、かなり感染症が起こりやすい状況といえるのです。

災害時はどんな感染症が起こりやすい?

では、災害時は具体的にどんな感染症が起こりやすくなるのでしょうか。状況別に、注意が必要な主な感染症をご紹介します。

避難所で注意が必要な感染症

インフルエンザ

インフルエンザが流行するのは一般的には冬場ですが、避難所での集団生活では全国的に流行していない時期でも、インフルエンザに集団感染することがあります。

風邪などの呼吸器感染症

避難所での温度管理が難しかったり、寝具が不足していたり、睡眠不足や栄養不足の状態が続いていたりすると、風邪などの呼吸器感染症が避難所内で流行する危険性が高まります。

感染性胃腸炎

東日本大震災や熊本地震のとき、各避難所で流行したことがあるのがノロウイルスなどの感染性胃腸炎です。ノロウイルスは感染者の排泄物や吐しゃ物に含まれているため、トイレを共有しかつ十分な消毒を行えない避難所では、集団感染のリスクが非常に高いとされています。

洪水やガレキの撤去作業に伴う感染症

破傷風

土の中には破傷風菌が存在していることがあり、怪我などの傷口からこの破傷風菌が侵入したことで感染するのが破傷風です。感染した場合、死亡率が非常に高い感染症としても知られています。

破傷風菌には神経毒素があり、人の体内に侵入するとさまざまな神経を阻害します。3~21日ほどの潜伏期間を経て、はじめは「口が開きにくい」「顎が疲れる」といった症状が起こります。その後は歩行困難や排泄障害が起こるようになり、最終的には全身の筋肉が固くなってしまい、体を弓のように反らせたり、呼吸困難になったりして、死亡することがあります。

厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】

レジオネラ症

レジオネラ症は、レジオネラ属菌による細菌感染症です。レジオネラ属菌は土壌や河川、湖水などの自然界に生息している細菌で、これに汚染されたエアロゾル(しぶきや細かい霧)を吸入することによって感染します。代表的な感染源は循環式浴槽、冷却塔水、噴水などですが、災害後のがれき撤去作業の際に腐葉土の粉塵を吸入したり、水害時に溺れて水を飲み込んだりすることで、感染することもあるといわれています。

レジオネラ属菌に感染すると、2~10日ほどの潜伏期間の後、全身の倦怠感や頭痛、食欲不振、筋肉痛などが起こり、その後38℃を超える高熱や咳、呼吸困難、胸痛などの症状が見られるようになります。これは「レジオネラ肺炎」の症状で、意識障害や幻覚、下痢を伴う場合もあり、早期に適切な治療を行わないと命にかかわる恐れがあります。

なお、レジオネラ属菌に感染しても、一過性の発熱や悪寒、筋肉痛で済む軽症の「ポンティアック熱」に留まる場合もあります。

厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】

レプトスピラ症

レプトスピラ症は、レプトスピラ菌への感染によって起こる急性熱性疾患です。
レプトスピラ菌を保菌しているのは、ネズミや犬、家畜などの哺乳類で、これらの動物の糞尿から排出された菌が土壌や水を数週間にわたって汚染します。この土壌や水、あるいは保菌動物と接触すると、皮膚や粘膜から体内に菌が侵入し、人に感染します。

衛生環境のよい日本ではそこまで主要な感染症ではありませんが、災害時は食べ物のゴミなどが溜まってネズミが繁殖しやすく、また汚染水がうっ滞しやすいため、感染リスクが上昇します。

レプトスピラ菌に感染すると、5~14日ほどの潜伏期間を経て、発熱や頭痛、悪寒、筋肉痛といった風邪のような症状が現れます。なお、レプトスピラ症には上記の風邪のような症状で軽快する軽症型のほか、黄疸や出血、腎障害などを併発する重症型があります。重症型の場合、早期に適切な治療をしないと20~30%の割合で命を落とすといわれています。

厚生労働省検疫所FORTH の情報をもとに編集して作成 】

災害時の感染症を防ぐには?

ご紹介したような感染症を予防するには、以下のような対策をきちんと行うことが大切です。

手指の洗浄・消毒の徹底

避難所での風邪やインフルエンザ、ノロウイルスの感染予防として、基本中の基本が手洗いです。特に食事の前後や調理時、トイレに行った後、病人の世話をした後、咳をしたり鼻をかんだりした後、オムツをかえた後、ゴミ箱に触れた後などは、しっかりと石鹸で手を洗うようにしてください。

とはいえ、水道などのライフラインが切断されがちな災害時は、水が得られないこともしばしば。その場合は消毒用アルコール製剤を代用するのが有効です。

咳エチケットを守る

風邪やインフルエンザなど飛沫感染で拡大する感染症については、感染者本人が咳エチケットを守ることが大切です。咳をするときは口を手かティッシュで覆い、ティッシュはゴミ箱に捨ててください。手は石鹸と水、あるいは消毒用アルコール製剤で消毒します。

なお、咳だけでなく高熱や呼吸困難、意識障害などの重い症状がみられた場合は、避難所の部屋を隔離して、医療機関を受診することも重要です。

タオルや食器を共有しない

風邪や感染性胃腸炎のウイルスは、コップなどの食器やタオルの共有でもうつることがあります。こういったものの貸し借りは避けるようにしてください。

生活区域の清掃

トイレや炊事場など、ノロウイルスなどの感染リスクの高い場所については、毎日必要なときに清掃することが重要です。清掃の際は、ハイターなどの家庭用塩素系漂白剤約5mLを1Lの水に入れ、かき混ぜたものを使用します。特に調理場やオムツ替えの台、トイレや吐しゃ物で汚染された部分については消毒が必要です。

また、避難所での布団や枕などの寝具は、使用者が変わるたびに清掃・洗濯を行うようにしてください。

便で汚れた衣類は廃棄する

衣類が便でひどく汚れていた場合は、使い捨ての手袋・マスク・エプロンをつけた上でつかみ、ビニール袋に密閉して廃棄してください。

ワクチンを接種しておく

さきほどお伝えした感染症一覧の中で、破傷風はワクチンの接種によって予防できるものです。またほかに、避難所では麻疹や風疹の集団感染や、蚊が媒介する日本脳炎に感染する恐れもありますが、これらもワクチン接種によってほとんどの場合予防することができます。

ただし、ワクチンの種類によっては年月を経るごとに抗体が減少する場合もあるので、定期的に抗体検査を受け、不足がわかったらその都度接種することが大切です。

復旧作業時は長靴やゴム手袋の着用+粉塵マスクを

汚染された土壌や水に接触することで発症する恐れのある、破傷風やレジオネラ症、レプトスピラ症は、ガレキの撤去作業などで特に感染リスクが上がります。こうした復旧作業時は、病原菌の入り込む傷口をつくらないよう、なるべく皮膚を露出せず、長靴やゴム手袋を着用することが重要です。また、作業時に巻き上がった粉塵を吸入しないよう、粉塵マスクも着用してください。

屋外に出るときは虫除けスプレーも必須

災害時に感染リスクが上がるとされる日本脳炎は、先述のとおり蚊が媒介する感染症なので、屋外に行くときは虫除けスプレーをしましょう。

傷口は水で洗う

もし作業時や避難時に傷ができてしまった場合は、感染症を防ぐためになるべく早く水で傷口を洗い流すようにしてください。もし化膿したり熱を持ったりするようになった場合は、医療機関を受診するようにしましょう。

ボランティアが感染症を持ち込むケースも。しっかり対策を

災害時の感染症は被災者の中で流行する以外に、ボランティアなど外から来た人が持ち込んでしまうケースもあります。現地でのボランティアを検討している方は、発熱や咳などご自身の体調が優れないのであれば、完全に回復するまで出発を延期するようにしてください。また、インフルエンザや麻疹・風疹、破傷風など、ワクチンで予防できる感染症については事前に接種を行うことも必要です。

そして、ガレキの撤去など復旧作業に携わる予定の場合は、長靴やゴム手袋、防塵マスク、虫除けスプレーなどの対策グッズを必ず持ち込み、破傷風やレジオネラ症などの感染を未然に防ぎましょう。

おわりに:災害時の感染症で死亡することも。できる対策はしっかり行おう

避難所内での風邪の流行、溺れて汚染水を飲んだことによるレジオネラ症、ガレキ撤去作業時の破傷風など、災害時にはあらゆる感染症のリスクが伴い、最悪の場合は死亡するケースも存在します。しかし事前に対策が可能な感染症も少なくないので、被災者の方もボランティアの方も、事前にできる対策を把握・実践することが大切です。

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