記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/17 記事改定日: 2020/5/18
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
「慢性膵炎」とは、膵臓の炎症である膵炎が長期的に起こっている状態です。この記事では、慢性膵炎の初期症状や治療薬、「急性膵炎」との違いなどを紹介します。慢性膵炎の進行について用いられる「代償期」や「非代償期」の意味も解説します。
慢性膵炎とは、長期間に渡って膵臓で炎症が繰り返し起こり、膵臓の細胞が徐々に破壊されていく疾患です。
繰り返し炎症を引き起こすに伴い、膵臓の正常な細胞はどんどん破壊され、細胞の線維化や石灰化が起こります。すると、だんだんと膵臓全体が硬くなって萎縮していきます。
慢性膵炎を発症して膵臓の細胞が徐々に破壊されていくと、膵臓が持つ2つの作用が少しずつ低下していき、全身の消化や代謝に大きな影響を与えます。慢性膵炎は徐々に進行していきますが、逆に放置しておいて自然に治ることはありません。
膵臓に炎症が起こす膵炎ですが、「慢性膵炎」と「急性膵炎」に分かれます。
慢性膵炎はさまざまな原因によって引き起こされますが、最も多いのは長年にわたる大量飲酒によるものと考えられています。
一方で、女性に多いのははっきりした原因が分からない「特発性慢性膵炎」とされており、そのほかにも胆石や脂質異常症、副甲状腺機能異常症などの病気や遺伝が原因となって引き起こされる慢性膵炎もあります。
近年の研究では過度なストレスや疲れなども慢性膵炎の引き金になると指摘されています。
慢性膵炎を発症しても何らかの症状が常に出るというわけではありません。
通常時は時に自覚症状はないとされていますが、飲酒や高脂肪食の摂りすぎなど膵臓に負担がかかり続けると急激に炎症が強くなり、激しい上腹部や背中の痛み、嘔吐、高熱などの症状が現れます。
さらに膵臓の炎症の慢性化が続くと、膵臓の機能は徐々に低下していき消化酵素やインスリンなどのホルモンの分泌が減少します。その結果、下痢や胸焼けなどを起こしやすくなったり、糖尿病を発症したりするようになります。
また、膵臓で産生された消化酵素を含む膵液を分泌するための「膵管」に膵石と呼ばれる血症ができることもあり、膵管が詰まることで強い腹痛や発熱などを引き起こすこともあります。
急性膵炎を引き起こす最大の原因は過度な飲酒とされています。また、膵液の十二指腸への排出を妨げるような部位に胆石が形成されると膵液が膵臓内で停滞して急性膵炎を発症することもあります。
そのほか、交通事故などによる膵臓の損傷や薬の副作用によって発症することも知られています。
急性膵炎は、大量の飲酒や高脂肪の食事を摂った後を中心に、上腹部や背中の激烈な痛みに加え、発熱、嘔吐などの症状が突然現れるのが特徴です。また、消化酵素を含む膵液が漏れ出すようになるため、膵臓や周囲の組織の壊死を引き起こし、腹膜炎や敗血症など命に関わる重篤な合併症が生じやすくなります。瞬く間にショック状態に陥ることも多く、治療が遅れると死に至る可能性もある病気の一つです。
慢性膵炎のごく初期の状態を代償期と呼び、腹部から背中や腰にかけての痛み、腹部膨満感、全身倦怠感などの症状が現れます。
代償期の腹部上部が痛む症状は約80%の患者さんにみられますが、鎮痛剤の効きにくい難治性の痛みです。痛みの強さそのものは急性膵炎と比べて弱いですが、激痛が生じた場合は急性膵炎と同様の治療が必要な場合があります。
痛みが発症するのは次のようなときです。
腹痛が発生していると、血中や尿中のアミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素が上昇している場合が多く、検査で慢性膵炎の疑いを発見できます。
多くの場合、痛みはしばらくすると落ち着いてくるため、膵炎に気づかないまま飲酒や高脂質食などを続ける傾向があります。生活習慣の改善が行われないまま腹痛を繰り返し、症状が進行してしまうことが多いのです。
しかし、この代償期に慢性膵炎の診断を受け、節酒や禁酒、高脂質食や過食を避けるなど生活習慣を改善することができれば、慢性膵炎への進行を大幅に抑えられます。
慢性膵炎の初期である代償期の治療法では、鎮痛薬とタンパク分解酵素阻害薬の内服が第一選択とされます。薬物療法のほか、生活習慣の改善も重要です。
腹痛の改善に有効です。予後の改善のために治療に取り入れられることがあります。
脂質の制限は医師や栄養士など専門家と相談しながら行いましょう。過剰に脂質を制限しすぎることも低栄養となるおそれがあります。
薬物療法と生活習慣の改善では効果が認められない場合、内視鏡的な治療法、体外からの衝撃派によって発生した結石を破砕する治療法(ESWL)、外科的な治療法が適応となることがあります。
慢性膵炎は、「代償期」「移行期」「非代償期」と進行していきます。
膵臓の石灰化や線維化は進んでいません。腹部から背中や腰にかけての痛み、腹部膨満感、全身倦怠感などが主な症状です。
薬物療法と生活習慣が主な治療法です。治療の効果によってはその他の治療法が適応となります。
画像検査で膵炎の診断ができるようになり、具体的には主膵管の広狭不整や膵石、膵内石灰化が見られるようになってきます。腹部レントゲンや健診、人間ドックなどでも行う超音波検査、腹部CTなどの検査でも慢性膵炎が疑われる状態です。
小康を得るようになります。特に腹痛は落ち着いてくることが多いですが、反復性の強い腹痛が起こる場合は膵管の狭窄や膵石の発生が考えられます。
強い腹痛が鎮痛剤でもコントロールできない場合は、内視鏡的な治療や外科的な治療法を考慮する必要があります。
移行期から症状が進んだ慢性膵炎の後期の状態です。非代償期では、まずは膵臓の外分泌機能が低下し、続いて内分泌機能が低下します。外分泌機能が低下すると、消化吸収障害や内分泌機能の低下による糖尿病(膵性糖尿病)などを発症します。
膵液の分泌量が低下するため食物を未消化のまま排出することが多く、栄養素が吸収できず、栄養状態が低下したりします。特に、脂質とタンパク質の吸収量が低下するため、体重減少や難治性の下痢が続くことがあります。
また、膵液のアルカリ成分が少なくなり、胃酸を中和できないため腸内が酸性に傾きます。消化吸収障害による症状が出た場合、消化酵素薬や胃酸分泌抑制薬を内服し、消化吸収を助けます。
膵性糖尿病を発症しやすくなります。これは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンと、低血糖時に血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの両方が分泌されにくくなるためです。この2つのホルモンの分泌が低下すると、低血糖状態や高血糖状態が長引きやすくなります。
内分泌機能の低下による糖尿病に対しては、糖尿病治療薬での治療をします。しかし、一般的な2型糖尿病とは原因が異なるため、治療方法は個々の患者さんの状態に応じて決める必要があります。
慢性膵炎の患者さんは膵臓がんを合併するリスクが高いといわれています。悪性腫瘍による死亡率を、慢性膵炎の患者さんと健康な人を比較した場合、1.5倍にも跳ね上がります。
慢性膵炎の症状が重篤でないからと放置せず、生活習慣の見直しを含めた適切な治療を行いましょう。
お酒を飲んだ後や脂っこい食事をした後に腹痛が起こることが多い場合、慢性膵炎の代償期にあらわれる初期症状かもしれません。腹痛が続いている間に病院に行き、診察を受けましょう。非代償期に進行すると、糖尿病などの重い症状を発症するおそれがあります。早期発見・早期治療を目指し、慢性膵炎と診断された場合は生活習慣改善など治療を適切に行ってください。
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