膵臓移植を受けられるのはどんな人?メリット・デメリットは?

2018/11/24

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

膵臓移植とは臓器移植の一種で、膵臓という消化・血糖コントロールに関与する臓器を移植する手術です。膵臓移植は誰でもが受けられるとは限らず、膵臓移植の適応となるには条件があります。

膵臓移植を受けられるのは、どのような人なのでしょうか?また、膵臓移植に伴うメリット・デメリットにはどのようなことがあるのでしょうか?

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膵臓移植を受けられるのはどんな人?

膵臓移植の適応となるのは、1型糖尿病の患者さんです。1型糖尿病は、主として生活習慣病による2型糖尿病とは異なり、直接的な原因がわからないまま膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンの分泌が激しく低下・または枯渇してしまう状態です。自己免疫疾患の一種とも考えられていますが、インスリン投与による対症療法以外の治療法が発見されておらず、糖尿病専門医の治療によっても血糖コントロールが困難な疾患です。

また、糖尿病性腎症によって腎不全を合併し、人工透析を行っている、または近々人工透析が必要とされている患者さんの場合、膵臓と腎臓を同時に移植する手術が行われます。腎臓を先に移植している、または腎症の発症がない患者さんでは、膵臓のみを移植する場合もあります。

1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンを産生する膵β細胞の破壊が進み、インスリンが大幅に欠乏してしまい、注射によってインスリンを補充することが絶対不可欠な状態です。さらに、膵β細胞が完全に破壊されてしまうと、体内でインスリンを産生することができなくなり、外部からのインスリン注射だけでは血糖値の変化に応じた調節を行うことが非常に難しくなります。

そこで、膵臓移植手術の適応となります。また、インスリン枯渇とともに糖尿病の合併症によって腎不全も同時に発症している場合、週3回の透析を継続する必要があり、QOL(生活の質)が著しく低下すると考えられるため、腎臓との同時移植の適応となります。膵臓移植や膵腎同時移植によってインスリン治療や低血糖発作、透析から解放されるほか、脳や心臓などの合併症の進行、末梢神経症状などの改善も期待されます

膵臓移植の方法は?

膵臓移植は、提供者(ドナー)の膵臓の全てあるいは一部を患者さん(レシピエント)に開腹手術で移植します。膵臓移植の種類には大きく分けて2つあり、脳死または心停止したドナーから提供された膵臓の全てを移植する手術と、存命の血縁者または配偶者から提供された膵臓の半分(膵体尾部)を移植する手術です。

脳死または心停止のドナーから提供を受けて手術を行う場合、レシピエントは日本臓器移植ネットワークの登録者から選択され、緊急に移植手術が行われます。生体膵臓移植でも膵腎同時移植を行うことも可能で、腎臓の1つを同時に移植する場合もあります。

膵臓移植の具体的な手順は?

膵腎同時移植を行う場合、移植には6〜12時間という長い時間がかかるため、移植時には膵臓に出入りするドナー側の血管をレシピエント側の血管と繋ぎ合わせてから行います。インスリンはこの血管を通してレシピエントの全身に流れていきます。また、膵臓からは消化液を分泌する都合上、ドナーの十二指腸をレシピエントの膀胱あるいは小腸と吻合することで、消化液を排出します。

こうして、ドナー側の十二指腸をつけたままの状態で膵臓をレシピエントの右下腹部に移植します。また、腎臓を同時に移植する場合、腎臓は左下腹部に移植します。腎臓の移植の必要がない場合、膵臓のみを下腹部に移植して終わります。

膵臓移植のメリット・デメリット

膵臓移植では、受けられるメリットが大きいですが、デメリットが生じる可能性もあります。メリットとデメリットのそれぞれについて、詳しく見ていきます。

膵臓移植のメリット

膵臓移植によるメリットは、以下のようなことが挙げられます。

  • 移植した膵臓が機能することで、インスリン療法が不必要となる
  • 糖尿病による合併症の改善が期待される
  • 消化器機能異常や、自律神経障害が改善される
  • 網膜症の進行が抑えられたり、ごくまれに視力が回復したりする可能性がある

最も大きなメリットは、インスリン療法が不要となることです。移植後の膵臓は術後数時間で機能し始め、速やかに血糖値が正常化する場合がほとんどです。ごくまれに移植された膵臓が移送の間などに保存障害を強く受けていて機能が低下していた場合、インスリンの投与が継続して必要となる場合もありますが、この場合でも数時間後に膵臓の機能が回復することもあると報告されています。

また、糖尿病による合併症の改善が期待できます。便秘や下痢を繰り返してしまう消化器機能の異常や、起立性低血圧などの自律神経障害についても、膵臓が機能回復するに従って徐々に改善されていくことがわかっています。ただし、一朝一夕に起こるような劇的な回復ではありませんので、一喜一憂しないよう注意が必要です。

視力の低下や網膜症は、一般的には膵臓移植でも改善は期待できないとされています。しかし、まれに視力が回復する例や、網膜症の進行が遅くなるという例も報告されています。ただし、眼底が不安定なときに移植によって急激に血糖コントロールが改善すると、網膜症が悪化する例も報告されているため、網膜症に関しては随時適切な治療を受けることが必要です。

膵臓移植のデメリット

膵臓移植によるデメリットは、以下のようなことが挙げられます。

  • 移植した膵臓の血管内に血栓ができてしまう血栓症が起こる可能性がある
  • 膵機能の回復の程度により、インスリン治療を継続する必要がある場合がある
  • 腎臓との同時移植をしても、虚血障害や拒絶反応によって透析療法が必要となる場合がある
  • 膵臓移植の術式によっては、縫合不全や感染症・出血の可能性がある

膵臓移植で発生しうるデメリットは、移植によっても期待したとおりの成果が100%発揮されるとは限らない、という内容です。ただし、外科的な処置となるため移植の拒絶反応や感染症、出血などのリスクは全ての手術療法と同程度のリスクが想定されます

血栓症は移植の数日以内に起こる可能性のあるリスクで、血栓症によって移植された膵臓への血流が途絶えた場合、膵臓を摘出する必要があります。血栓症の原因は、移植後に膵臓に血流が戻るまでに受けたダメージの程度や、手術の成功度合いによります。最近では保存液の改良により、欧米では血栓症の頻度が5%以下に低下したとの報告もあります。

膵機能が十分に回復しきらない場合は、インスリン注射を継続する必要があります。ただし、完全にインスリンが枯渇した状態ではなく、移植後の膵臓が多少なりとも機能していれば、低血糖発作がなくなるなど移植前よりも血糖のコントロールが改善される傾向にあります。

膵腎同時移植の際に、虚血障害や拒絶反応などで腎臓が機能しないこともあります。一時的な機能低下であれば、2週間程度の透析後に排尿が行われ、移植腎の機能が回復する場合が多いですが、機能低下の程度がひどいと継続して透析療法が必要となる場合もあります。最悪の場合、拒絶反応によって移植した腎臓を摘出する必要が生じることもあります。

手術後に見られる合併症では、アシドーシス(酸血症)が特徴的です。移植手術時、膀胱へ膵液が流れることでアルカリ性の膵液が排出され、結果的に体内の血液が酸性となる状態です。アシドーシスが生じた場合、体内の酸とアルカリのバランスを調整するため、重曹などのアルカリ製剤を長期間服用する必要があります。

おわりに:膵臓移植は1型糖尿病の人に限られる

膵臓移植を受けられるのは、1型糖尿病の患者さんに限られます。彼らは糖尿病の専門医によっても血糖コントロールが難しい状態に陥ることが多く、また腎不全を合併発症している場合など、膵臓移植によるQOLの改善が期待されるためです。

膵臓移植にはメリットが多い一方、手術によるリスクや、期待通りの成果が100%出るとは限らないことも考えられます。手術を受ける前に主治医としっかり相談し、納得して手術を受けましょう。

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1型糖尿病(26) 糖尿病性腎症(19) アシドーシス(1) 膵臓移植(2)