オフィスや通勤電車での風疹感染、どう防ぐ? 妊婦だけでなく「職場」こそが対策を

2018/11/24

山本 康博 先生

記事監修医師

東大医学部卒、独立行政法人国立病院機構東京医療センター

山本 康博 先生

風疹の感染拡大が止まりません。連日ニュースやWebメディアでは、ワクチン接種の重要性や風疹が妊婦に及ぼすリスクを伝え続けていますが、それとは裏腹に感染者は増え続け、ワクチンの不足という新たな問題も浮かび上がってきています。

こんな現状の中、出勤を続けなければいけない妊婦さん、妊娠希望の女性はどんな対策をとればいいのでしょうか。 

風疹患者は2000人超…その多くが子育て世代&働き盛りの男性

11月20日、根本匠厚生労働相は今年(2018年)の風疹の患者数が計2000人を超えたことを明らかにしました。これは2012~2013年に起こった風疹の大流行以来の数値です。

medicommiでは今年9月の段階で風疹の流行についてお伝えしていましたが、そのときと変わらず、現在も感染者の多くは30~50代の男性です。理由としては、この年代の男性が子供の頃に風疹のワクチン接種を受けていなかったこと、接種回数が不足していることが関係しています。

【風疹の抗体を持たない(不足している)年代について、詳しく知りたい方はコチラへ】

そもそも風疹問題が取り上げられているのは、妊婦さんが風疹にかかってしまうと胎児に発達の遅れや難聴、先天性の心臓病、白内障や緑内障などの障害が出る恐れがあるからですが、今期の風疹の主な感染者である30~50代の男性はちょうど子育て世代であり、妊婦さんや妊娠希望の女性と接触する可能性が高いことが大きな問題点になっています。

また、特に女性と同居をしていなくても、働き盛りの世代でもあるため、オフィスや通勤電車を通じて妊婦さんに感染させてしまうリスクも存在します。

接種を希望しても、ワクチン不足で断られるケースも

風疹患者が最も多い東京都では、妊娠希望の19歳以上の女性に限定していた予防接種や抗体検査の補助を、妊婦の夫や妊娠を希望する女性の夫、同居人にまで拡大することを決定しました。
すでに一部の自治体では補助対象が広がっており、制度を利用してワクチン接種を申し込む人も増えてきています。

しかし一方、都内では深刻な問題が発生しつつあります。ワクチンの供給不足です。
風疹流行の報道が始まったのは今年の8月頃からですが、これを受けて9月頃からワクチンの接種希望者は急増し始めました。しかしこのスピードにワクチンの供給が追いつかず、成人へのワクチン接種を中止したり、予約の受付を中止したりする医療機関も増えてきています

このワクチン不足の背景には、麻疹(はしか)の流行も関係しています。現在、国内で生産されている主な風疹ワクチンのひとつは、風疹と麻疹の免疫を一度につけられる「MRワクチン」ですが、今春の麻疹の流行を受け、麻疹予防のための接種希望者も増えていたために流通量が減ってしまっていました。

そうなると数少ないMRワクチンは、妊娠希望の女性や子供など、優先して接種すべき人のために確保されるようになります。すると必然的に成人向けのワクチンは不足し、在庫不足を理由に接種を断られるようになってしまうのです。これでは、女性のパートナーや風疹の感染リスクが高い30~50代の男性は、いくらワクチンを接種したくてもすることができません。

「ワクチン接種をすれば大丈夫」とも限らない

風疹の感染を防ぐのに有効な方法がワクチン接種ですが、実は中には、接種しても抗体がつきにくい体質の人も存在します。そのことについて取り上げ、Twitterで大反響を呼んだかんべみのりさんの漫画をご紹介します。

オフィスや通勤電車での風疹感染のリスク…働く妊婦さんはどうすればいいのか

妊婦さんの中にはかんべさんのような体質の方もいますし、妊娠してからの風疹ワクチン接種はできません。しかし風疹は、感染者の咳やくしゃみなどを吸い込んだりすると感染するので、妊婦さんの旦那さんやパートナー、同居人がワクチン接種をする必要があります。さらにいえば、日々同じオフィスで働く人たち、通勤電車で乗り合わせる見ず知らずの人たちも、抗体をもっていなくてはなりません。

ただ、風疹問題に関心のない人たちも一定層存在すること、金銭面の問題でワクチン接種ができない人たちもいること、ワクチンの供給が追いついていないこと…そんな要因がある以上、国民全員の接種は望めません。
では、働く妊婦さんはどうやって生活していけばいいのでしょうか。

同居人にワクチンを接種させる

まず第一に、旦那さんやパートナー、ご家族などの同居人に、すぐに風疹の抗体検査を受けるよう促してください。風疹の感染経路で特に注意すべきなのが家庭内感染であり、たとえ抗体をもつ妊婦さんであっても、風疹患者と濃厚な接触をすると風疹に感染してしまう恐れがあるからです。検査の結果、抗体価が不足していると判明した場合は速やかにワクチン接種をし、家の中で風疹に感染させる可能性を断ち切りましょう。

「検査と接種で2回も病院に行く時間がとれない」という方は、検査よりも接種を優先してください。仮に風疹の抗体を十分もつ人がワクチン接種をしても、何も問題はないからです。むしろ抗体が強化され、より感染の防御率が上がります。

なお、MRワクチンを接種した場合、抗体がつくまでには2~3週間かかります。その間は外出時にマスクをする、なるべく人込みには近づかない、といったできる限りの対策をとるようにしてください。

公益社団法人 日本産婦人科医会 の情報をもとに編集して作成 】

妊娠20週まで人との接触を避ける

妊婦さんの中でも、特に十分な風疹の抗体をもたない方は、少なくとも妊娠20週までの間なるべく外出を控え、人と接触しないようにしてください。妊娠中の風疹感染によって胎児に障害が出る「先天性風疹症候群(CRS)」は、妊娠初期であればあるほど発症リスクが高いとされているからです。
妊娠週ごとのCRS発症率は、以下のようになっています。

  • 妊娠4〜6週での感染:100%
  • 妊娠7~12週での感染:80%
  • 妊娠13~16週での感染:45〜50%
  • 妊娠17~20週での感染:6%

なお、妊娠1〜2ヶ月で感染すると、重複して障害をもつケースが多いとも報告されています。20週以降の感染では、永続的な障害が残ることは基本的にはありません。

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「出勤を控えさせる」職場の協力も不可欠

「妊娠20週まで外出しない」ためには、毎日の通勤も控えなくてはいけません。しかし仕事の性質や立場上、実現がなかなか難しい…という方も少なくないでしょう。

そこで必要なのが、職場管理側からの協力です。まず妊婦さんは妊娠が判明した段階で、職場の管理者に妊娠初期ということを伝えましょう。それを受けた職場管理者は、しばらくの間出勤を控えさせる措置をとることが望ましいです。

「風疹にかかっていそうな人はいないから、うちの会社は大丈夫」と軽く考えてしまう方もいるようですが、症状を伴わない不顕性感染も15〜30%程度みられ、また軽い症状のうちは多くの人が出勤したり、出かけたりしています。そのため、オフィスや通勤電車内での妊婦さんへの風疹感染を防ぐには、出勤を強要しないことが重要なのです。

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おわりに:風疹対策に乗り出す企業も続々。職場管理者はできる対策を

妊婦さんの風疹感染を防ぐには、ご自身が人混みに出かけない、同居人にワクチン接種を促す、職場に協力を求めるといった対策を実施することが必要です。しかし、肝心の同居人や職場の協力がなくては、万全な対策にはなり得ません

すでにロート製薬やバズフィードジャパン、ヤフーなど一部の企業は、従業員のワクチン接種の無料化や費用助成など、職場でできる風疹対策に乗り出し始めています。今後の各企業の職場管理者には、「妊娠中の社員に出勤を控えさせる」「社員に抗体検査やワクチン接種を受けるよう促す」「検査や接種を理由とした早退、遅刻を認める」といった寛容な対応が求められることになるでしょう。

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