胆嚢摘出後に合併症や痛みが出てくることはある?

2018/12/8

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

胆嚢という器官は、肝臓のすぐ下にある小さな袋です。ここには、消化液の一種である胆汁が貯められていますが、ここに石ができたり傷ついて炎症を起こしたりすると、胆嚢摘出術という手術を行うことがあります。
この胆嚢摘出術の後、合併症や痛みが起こることはあるのでしょうか?また、術後の食生活にはどう影響してくるのでしょうか?

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胆嚢摘出手術のあとに合併症があらわれることは?

胆嚢摘出手術はほぼ安全な手術であり、危険性はほとんどありませんが、稀に以下のような合併症を起こすことがあります。

  • 後出血(手術後に出血を起こす)
  • 胆汁漏(胆汁が漏れ出す)

これらの合併症が起こった場合は、多くは点滴治療で改善しますが、程度がひどい場合には手術で追加処置を行う場合もあります。また、手術中に腹腔鏡での手術が困難と判断した場合、そのまま開腹手術へ移行することもあります。

そのほか、創感染(傷が膿む)、肺炎、胆管損傷(胆汁の通り道を傷つける)、腸管損傷(小腸や大腸を傷つける)などの合併症が起こることもありますが、いずれもごく稀な合併症です。

胆嚢摘出後に痛みが出てくることは?

胆石や胆嚢炎などの手術で胆嚢を摘出した後、以下のような症状が現れることがあります。

  • 一過性または慢性的に持続する上腹部痛、上腹部の違和感
  • 黄疸
  • 吐き気
  • 下痢

黄疸とは、皮膚や粘膜が黄色くなる症状です。これらの症状が現れた場合、胆嚢摘出後症候群と呼ばれます。胆嚢摘出後症候群とは、胆石や胆嚢炎などの手術で胆嚢摘出術を受けた後、腹部に現れる症状の総称で、合併症とは違い、手術を受けた人の5〜40%に一過性あるいは慢性的な症状が現れるといわれています

しかし、このような症状は胆嚢摘出に限らず、他の臓器に疾患を発症している場合にも同じような症状が起こることも多く見られます。そこで、症状が胆嚢摘出によるものかどうかは、検査や問診などでしっかりと見極める必要があります。

痛みなどの症状が出たらどんな治療をするの?

治療法は、それぞれの原因によって異なります。例えば、原因が遺残結石という胆管内に残った胆石によるものであった場合は、内視鏡的な採石術が行われます。また、非常に小さな微細胆石が原因で、内視鏡的に採石することが難しい場合は、ウルソデオキシコール酸を服用して溶解する方法が有効です。

胆汁性の吐き気や下痢などが原因である場合、コレステロールの吸収を抑える薬が有効です。また、食生活の改善、特に高脂肪食の制限が有効である場合もあります。胆汁は脂肪の吸収を助ける消化液ですから、脂肪を摂取すると分泌量が増えます。逆に、摂取する脂肪の量を制限し、減らすことで、分泌される胆汁の量を減らすことができます。

また、胆道損傷・臓器との癒着など外科的な症状が見られる場合には、再手術が行われることもあります。

胆嚢を摘出した後は好きなものが食べられなくなる?

胆嚢とは、肝臓で産生された胆汁を一時的に貯めておく器官です。ですから、胆嚢を摘出した場合、胆汁が常に肝臓から消化管へと流れ続けます。胆嚢がある場合、食事を摂取したことがトリガーとなって胆汁が胆嚢から分泌されるのですが、胆嚢がない場合は食事を摂取しているときもいないときも胆汁がずっと流れ続けることになります。

このため、下痢になりやすくなります。胆汁には消化酵素が含まれておらず、膵液や腸液などに含まれる消化酵素を活性化させ、栄養分の吸収を助ける働きがあるのですが、中でも特に脂肪分を消化するための消化酵素を活性化する役割を担っています。そのため、胆嚢摘出後は脂肪分を消化するための消化酵素の活性化に制限がかかった状態になってしまいます。

そうなると、脂肪分を大量に摂取した際、大量の脂肪分が分解できずにただ排出されてしまいます。分解されなかった脂肪分は、そのまま水や泥状の便となって排出されるため、頻繁に下痢を引き起こすこともあります。ですから、胆嚢を摘出した後に明確な食事制限はありませんが、あまりに脂肪が多く含まれた食事は控えめにしましょう

また、コンビニ弁当などの外食は意識している以上に脂質が多く含まれるため、なるべく避け、脂質の少ない自炊をするようにしましょう。外食する場合でも、脂質や油の少ないものを選ぶようにすると、比較的下痢を引き起こしにくくなります。脂肪制限食について、管理栄養士さんなどに食事指導を受けることもおすすめです。

おわりに:胆嚢摘出術の合併症は稀だが、脂肪食を控えると良い

胆嚢摘出術はほとんど安全な手術といわれていて、術後に合併症などの危険性が見られることはほぼありません。しかし、胆嚢摘出後症候群と呼ばれる痛みや違和感、下痢や吐き気などの消化器症状が現れることがあります。

これは5〜40%とそこそこの頻度で発生し、主に高脂肪食の摂取によって脂肪が消化不良を起こすことが原因で起こる場合が多いです。胆嚢摘出後は高脂肪食の摂取を控え、ヘルシーな食事を心がけましょう。

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