記事監修医師
川崎たにぐち皮膚科、院長
冬の寒い時期には、手足の冷えが気になります。冷えによって手足の血行が悪くなると、しもやけという状態になることがあります。しもやけは手や足先が腫れたりかゆくなったりする炎症のことで、人によっては慢性化することもあります。
しもやけがひどいときや、慢性化したときは皮膚科を受診するのがおすすめです。では、しもやけのとき、皮膚科ではどんな薬を処方してもらえるのでしょうか?
しもやけを解消するには、「冷えた体を温める」「血行を良くする」の2つのポイントが重要です。これらの効能が期待できる薬には、「トコフェロール(ビタミンE)」の内服薬や軟膏、ヘパリン含有薬、漢方などがあります。皮膚科では、しもやけ自体の症状やアレルギーなどの既往歴、体質などを考慮しつつ、どの薬を処方するかを決めていきます。
ユベラ®軟膏は、ビタミンEとビタミンAの2つのビタミンを配合している軟膏で、皮膚の血流を良くするとともに皮膚を乾燥から守り、保湿する役割があります。凍瘡(しもやけ)の他、進行性指掌角皮症(手荒れ)の治療にも効果があります。主な成分と効能・使用方法は以下のようになっています。
ユベラ®軟膏は、 1日1回〜数回を患部に塗って使用します。使用頻度は医師から指示されますので、必ずそれに従いましょう。また、使い忘れた場合は気がついた時点ですぐに塗ること、間違えて多く塗ってしまった場合は医師や薬剤師に相談しましょう。目に使用することは推奨されていませんので、顔に塗る場合は十分注意が必要です。
副作用としては、紅斑(皮膚の赤み)やかゆみなどが現れることがあります。頻度は高くありませんが、このような症状が出た場合は医師や薬剤師に相談しましょう。開封後は密栓し、乳幼児や小児の手の届かないところに保管しましょう。また、処方された薬が残った場合、もったいなくても長期間保管することは変質を防ぐために避ける必要があります。必ず破棄しましょう。
前述のユベラ®軟膏以外にも、ビタミンEを含んだクリームなどの外用薬があります。ビタミンEは血管を収縮させる神経物質に作用してその働きを抑え、毛細血管を拡張させる働きを持っています。
しもやけは冷えによって体の血行が悪くなることで起こりますから、ビタミンEの血管を拡張したり、血液を流れやすくしたりする作用によってしもやけの症状を改善することができます。特に、もともと血行が悪い人は手足の末端まで血液がゆきわたりにくく、しもやけになりやすい傾向があります。こうした人は、毎年冬になるとしもやけになるというように、慢性化してしまうことも多いのです。
ビタミンE配合薬は、しもやけを予防するための薬としても使えます。冷える時期などにしもやけの症状が出そうだ、と思ったら使いましょう。例えば、水仕事の後や手足が濡れて冷えてしまった後、乾燥が気になる場合などに塗ると良いでしょう。
具体的な塗り方は、以下のとおりです。
水仕事や外に出て濡れた後や、入浴後など、水に濡れている場合はしっかりと水分を拭き取ってからクリームを塗りましょう。また、湯冷めなどの冷えを防ぐためにも、温かい部屋で行うことが大切です。
ヒルドイドソフト®軟膏は、主にアトピー性皮膚炎のスキンケアに用いることが多い薬剤です。皮膚の保湿作用に加え、血行を良くする作用があり、しもやけやアトピー性皮膚炎の他、皮膚のかさつきや角皮症にも有効です。血液凝固を妨げる作用や、鬱血を改善して傷の治りを良くする作用もあり、打ち身や捻挫・血栓性静脈炎・痔核などの治療にも使うことがあります。
ヒルドイドソフト®軟膏に含まれるヘパリン類似物質は、非常に保湿効果の高い成分であることから、本来の使用目的ではない美容目的での使用が問題となっている薬剤です。しかし、美容目的での利用は想定されていないため、適切な効果が望めないばかりか、予期せぬ副作用が起こる可能性もあります。美容目的での使用は絶対にやめましょう。
ヒルドイドソフト®軟膏はおだやかな作用の薬剤ですから、使用方法を守っていれば副作用の危険性はほとんどありません。しかし、薬剤である以上はどうしても体質に合わない人もいます。もし、発疹や発赤・かゆみなどの症状を感じたら、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。
しもやけの解消に、内服薬を用いることもあります。その一つがユベラN®で、主成分はトコフェロールニコチン酸エステルです。トコフェロールニコチン酸エステルとは、ニコチン酸とビタミンEが結合した成分で、血中のコレステロールや中性脂肪を減らし、血行を良くする作用があります。高血圧や高脂血症・閉塞性動脈硬化症に使われることが多いですが、しもやけの症状改善にも使うことがあります。
ユベラN®は、副作用の少ないおだやかで安全性の高い薬剤として、古くから広く使われています。ほてりや潮紅・発赤はほとんどが血管拡張作用によるもので、心配はいりません。長期にわたって服用することが多いため、用法・用量は医師の指示をきちんと守りましょう。
成人であれば1日300〜600mgのトコフェロールニコチン酸エステルを3回に分けて摂取します。これはカプセルで1日3〜6カプセル、顆粒で1日0.75〜1.5gに当たる量です。
慢性的なしもやけを解消するために、体質改善として漢方薬を用いることもあります。漢方薬では、血液の循環を改善し、体を温める作用のある「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)」が使われることが多いです。また、「五積散」「四物湯」「温経湯」など、「当帰」という生薬を中心に調合している漢方も効果的です。
「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」は、手足の先が冷える人に対してよく処方される漢方薬です。血行を良くして冷えた体を温め、冷えによって起こる痛みをとる作用もあります。「四逆」とは「四肢」から冷えが「逆流」していくことで、手足などの体の末端から冷えが上がっていくことを表しています。
配合されている生薬は「当帰(トウキ)・桂皮(ケイヒ)・芍薬(シャクヤク)・木通(モクツウ)・細辛(サイシン)・甘草(カンゾウ)・大棗(タイソウ)・呉茱萸(ゴシュユ)・生姜(ショウキョウ)」です。主な効能は冷えの改善ですから、しもやけの他、冷え性や冷えによる月経痛などの改善にも役立ちます。また、冷えによる下腹部痛や腹痛、下痢にも効果があります。
しもやけの中でも赤く腫れ上がったり、赤黒く変色していたり、出血や水ぶくれが起こったりするなど、症状がひどい場合はステロイドの含まれている外用薬を使用する場合もあります。ステロイドは、正しく使えばしもやけに対する即効性があるため、ひどい症状に悩まされている人には非常に効果的な薬であると言えます。
しもやけのかゆみは我慢できず、イライラとして集中力がなくなったり、かきむしって症状が悪化したりしてしまう可能性があります。また、目立つ部分に発赤が現れると人の目が気になり、強いストレスになることもあります。そこで、ステロイド薬を使用してすぐに症状を抑える必要が生じることがあるのです。
出血や水ぶくれなどが起こっている場合は、抗生物質の含まれるステロイド薬を使用することがあります。抗生物質は傷の部分で細菌が増殖するのを防ぎ、傷口が化膿するのを予防します。
使用するステロイド薬の強さや、使用期間などは医師の判断を仰ぎましょう。子供には比較的弱いステロイド薬を使うことが多く、また、成人でも顔に使用する際は他の部位よりも弱いステロイド薬を使います。かゆみが強い場合はヒスタミン剤を併用することもありますが、ここも医師の判断によります。
ステロイド薬は副作用が怖い薬というイメージも強いですが、医師の診断どおりに用法・用量を守って使っていれば、症状に対し即効性のある心強い薬剤でもあります。逆に、1週間使用しても効果が得られない場合は、再度医師に相談しましょう。
ステロイド外用薬は5つの強さに分類されています。薬局で購入できるタイプのステロイド外用薬は、5つの分類のうち真ん中の強さの「ストロングタイプ」とそれより1つ弱い「マイルドタイプ」が多く、概ね以下のような基準で使います。
ステロイド外用薬は、弱いレベルのものから順に使うよりも、始めに強い薬剤から使い始め、症状が改善されてきたら徐々に弱いレベルのものに切り替えていく方が効果的です。効き目が不十分な弱い薬剤を使い続けると症状が悪化したり、慢性化したりすることもあります。薬局で購入できるステロイドの強さには制限がありますので、しっかり治療をする場合は皮膚科を受診する必要があります。
また、ステロイド外用薬はその剤形によっても、軟膏・クリーム・スプレー・ジェル・ローションなど、さまざまな種類があります。一般的によく使われるのは軟膏タイプですが、症状や好みに合わせて使い分けることもできます。特に、軟膏のベタつきが気になる人にはクリームが、軟膏を塗りにくい場所にはローションやスプレーがおすすめです。
これらのステロイド外用薬は薬局でも手に入れることができますが、自己判断で使うのは非常に危険です。まずは皮膚科を受診し、医師に相談しましょう。
しもやけの薬は、冷えを改善することと血行を促進することが主な作用です。主にビタミンE配合の軟膏やクリームを使うことが多いですが、ヘパリン類似物質や漢方の「当帰」などの生薬も血流の改善や冷えの改善に効果的です。
また、症状がひどい場合にはステロイド外用薬の使用も推奨されます。ステロイド外用薬を使用する際には自己判断せず、医師の診断のもとで使うようにしましょう。
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