心臓のアブレーション治療が必要になるのは?

2019/2/22

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

心臓のアブレーション治療という治療法を聞いたことがありますか?主に心疾患のうち、不整脈の治療に使われる治療法ですが、これは実際にどのような治療法なのでしょうか?
また、アブレーション治療が必要な病気の種類、施術の流れなどについても解説します。

心臓のアブレーション治療とは?

アブレーション治療とは、「頻脈性不整脈(ひんみゃくせいふせいみゃく)」という病気に対して行われる治療法です。心臓の拍動リズムは通常一定の速さを保っていますが、激しい運動や緊張などの心拍が早まる原因がないにも関わらず、何らかの異常によって脈拍数が多くなることを頻脈性不整脈と呼んでいます。

「アブレーション」とは、「取り除く・切除する」という意味で、医学的には、「カテーテルの先から高周波電波を流し、カテーテル先端が接している生体組織を小さく焼き切る」ことを意味しています。これを専門用語では「電気焼灼(でんきしょうしゃく)」と呼ぶこともあります。

心臓のアブレーション治療では、足の付け根などの太い血管からカテーテルを入れ、心臓の中にある疾患部位を小さく高周波電波で焼き切ります。頻脈性不整脈の原因は、余分なリエントリー回路や異常自動能を有する部位があるためです。これらの異常な電気活動を薬剤で抑える方法もありますが、部位そのものを取り除かないと根本的な治療にはなりません

心臓は自律神経の支配下にあるとともに、自動能という自律的な機能があり、この両者のバランスによってリズムを調整されながら拍動を行っています。自動能そのものは神経による制御を受けない、心臓自身による独自の電気刺激システムです。このシステムに異常をきたしたものが異常自動能と呼ばれます。

また、細胞は電気信号によって生命活動を行っていて、心臓も例外ではありません。心臓において、電気信号の回路が正常な拍動のための通り道以外にもできてしまったとき、その別の回路を電気信号が回り続けてしまうことをリエントリーと呼び、リエントリーの巡っている回路のことをリエントリー回路と呼んでいます。

以前の治療法は、手術で胸部を切開し、直接心臓を操作して異常な部位を切除する方法でした。しかし、心臓に直接メスを入れるのは大手術であり、患者さんの受ける負担も非常に大きいものでした。そこで、胸を切開する必要のない「アブレーション治療」が開発されました。アメリカで1982年に始めて実際の治療に用いられてのち、日本でも急速に普及してきました。

アブレーション治療は、経験を積んだ医療チームが不整脈に対して行った場合、成功率は9割を超えると言われており、安全性も高いと言えます。現在では、比較的侵襲性の低い安全かつ効果的な治療法として、定着してきたと言っても過言ではないでしょう。

アブレーション治療が必要になる病気は?

アブレーション治療が必要になる病気は、上室性・心室性に大きく分けられますが、さらに細かく分けると6種類の病気があります。

上室性の頻脈性不整脈
房室回帰性頻拍(ぼうしつかいきせいひんぱく)
房室結節回帰性頻拍(ぼうしつけっせつかいきせいひんぱく)
心房粗動(しんぼうそどう)
心房頻拍(しんぼうひんぱく)
心房細動(しんぼうさいどう)
心室性の頻脈性不整脈
心室頻拍(しんしつひんぱく)

まず、「房室回帰性頻拍」「房室結節回帰性頻拍」の2つは、「発作性上室性頻拍(ほっさせいじょうしつせいひんぱく)」をさらに細かく分けたものです。「発作性上室性頻拍」とは、突然起こる発作的な頻拍のうち、原因となる部位が心室よりも上の領域(=上の部屋)にある頻発性不整脈のことを指します。

「房室回帰性頻拍」とは、心室と心房とを結ぶ副回路ができてしまい、一度心室へ伝わった電気信号が再び心房へと戻ってきてしまい、この回路上をループ状に周り続けることで起こる頻発性不整脈です。「房室結節回帰性頻拍」とは、副回路はありませんが、心室と心房をつなぐメイン回路の中で電気信号の伝わる速度に差ができてしまい、早い経路と遅い経路でやはりループ状の回路ができてしまった状態です。

「房室回帰性頻拍」「房室結節回帰性頻拍」のいずれも、原因となる部分がはっきりしていることに加え、領域も限られているため電気焼灼のターゲットを定めやすく、アブレーション治療が最も有効なタイプの不整脈であると言うことができます。

「心房粗動(しんぼうそどう)」は、心房の筋肉が毎分250~400回も収縮してしまう不整脈のことを指します。多くは右心房を円形に回り続ける電気信号によるものですが、収縮する電気信号のうち、心室に伝えられるのはこのうちの一部ですから、脈拍数が250回もに増えるということではありません。心房粗動もアブレーション治療が有効な治療法で、この円形の回路のどこかを断絶するように電気焼灼します。

「心房頻拍(しんぼうひんぱく)」は、心房のどこかに異常自動能を有するために上室性頻拍となってしまった状態のことを指します。異常自動能を有する部位の数が少なく、かつ位置が特定できれば、アブレーション治療によって電気焼灼することで完治が期待できます。

「心房細動(しんぼうさいどう)」は、心房内で無秩序に電気信号が多発することにより、心臓が痙攣したような状態になることです。血液を心室へ送り出す心房としての役割を全く果たせなくなってしまうため、心房細動が長時間続くと、内部に溜まった血液が凝固して血栓となってしまいます。この血栓が流れ出すと他の臓器の動脈を塞いでしまい、脳梗塞や肺塞栓などの合併症を引き起こす可能性があります。

60歳以上の人口の6~7%にみられる病気ですから、それほど珍しくはありません。心臓のポンプ機能にはあまり影響しないため、短期的には強い症状が現れることもないのです。非常にまれな現象ですが、心房細動の異常な電気信号が心室に伝わると、心室頻拍へ移行することもあります。

心房細動は、原因となる部位を特定しにくいため、アブレーション治療は無効だといわれてきました。しかし、近年では左心房から肺静脈接合部の異常自動能が原因の約90%を占めることがわかり、薬物療法などと組み合わせたアブレーション治療も行われるようになってきています。

心室頻拍は、特発性と二次性の2つに分けられます。原因となる別の病気などがはっきりしないものを特発性、心筋梗塞や心筋症などの心臓病に合併するものを二次性と呼んでいます。心室は、心臓から血液を最終的に送り出すポンプの役割を持っているため、長時間にわたってそのポンプ機能が障害されると生命をおびやかす危険な状態に陥る可能性があります

特発性心室頻脈の場合、原因となる副回路や異常自動能の部位の主なパターンが明らかにされているため、アブレーションによる治療が有効です。二次性心室頻脈は、電気信号の伝達に異常があることが原因であるのではないかと考えられていますが、個々の症例によって違いが大きいため、アブレーション治療が難しい不整脈の一つです。

アブレーション治療の対象にならない病気は?

不整脈であっても、アブレーション治療を行うのが推奨されない病気もあります。急性の感染症にかかっている場合や、重症の心不全、血が止まりにくい病気を有している場合などです。感染症の場合はもちろんアブレーション治療は行なえませんし、後者の場合はアブレーション治療を行うかどうかは非常に慎重に検討する必要があります。

アブレーション治療ってどんなふうに行うの?

アブレーション治療の施術の流れは、以下のようになります。

施術前
治療前に、担当医とスタッフで治療方法の検討を行う
担当医から治療の流れや合併症のリスクなどについて説明がある
施術前日
治療数日前〜前日に入院する(必要な検査が終わっていない場合は、検査のための入院期間が必要なこともある)
治療前の数日間は、抗不整脈薬や抗凝固薬などの服用は中止する必要があることも
治療前日には、治療の際にカテーテルを挿入する太もも付け根付近などの除毛や入浴などを済ませ、施術に備える
施術当日
治療開始前に、太ももの付け根などカテーテルの挿入部位を消毒後、局所麻酔する
麻酔が効いたら、カテーテルを挿入するための管(シース)を血管に挿入する
管(シース)を通じて血管に電極カテーテルを挿入する
挿入した電極カテーテルを心臓内の各部分に留置する
心臓内に留置した電極カテーテルから電気刺激を与え、治療に必要な検査を行う
得られたデータをもとに、治療用カテーテルを心臓内に挿入し、焼灼が必要な部位に留置する
治療用カテーテルにより、焼灼する部分に高周波通電を行う
焼灼後、電極カテーテルから電気刺激を行うなどし、焼灼の効果を確認する
効果を確認後、心臓内に留置したカテーテルを全て取り除く
管(シース)を取り除き、挿入部位の止血を行い、治療を終了する
施術後
施術が終わった当日はベッドの上で安静にする
カテーテルを入れた部分からの出血や心電図の異常・合併症などがないか、医療スタッフがチェックし、異常がなければ翌日からベッドを降りて歩くことができる
問題がなければ、治療後数日~1週間程度で退院

アブレーション治療の施術は、意識のある状態で行います。治療は心電図を見ながら進められるため、検査機器などの音が気になってしまう人もいますが、常に医師や医療スタッフがモニターを監視しているので、心配する必要はありません。

治療中は深呼吸や咳払いをするとカテーテルの位置が動いてしまい、安全に治療が行えなく鳴ってしまう可能性があります。そのため、できるだけ平常の呼吸を心がけ、体を動かさないようにしましょう

心臓のアブレーション治療で起こり得る合併症は?

アブレーション治療による合併症は、主に「脳梗塞」と「心穿孔」の2種類が考えられます。

脳梗塞
心房細動のアブレーション治療において、0.3~0.5%の確率で発生する
心房細動以外の不整脈では極めてまれな合併症
心穿孔
心臓に小さな損傷ができ、そこから心臓周囲に血液が漏れ出て血圧が下がる
心房細動のアブレーションで1%程度発生する
心房細動以外の不整脈では極めてまれな合併症
針を刺して漏れ出した血液を排出することで対処する

その他、カテーテルを挿入した血管の損傷や出血、心臓の周囲の神経や臓器に障害が発生することがあります。これらの合併症は、患者さんの状態や治療する不整脈の種類によっても発生率が異なります。

おわりに:アブレーション治療は安全だが、有効な不整脈は限られる

アブレーション治療は、胸部を切開したり心臓を直接操作したりすることがないため、患者さんの負担は非常に軽い治療であると言えます。熟練したチームであれば成功率も9割を超え、安全性も高いです。

反面、アブレーション治療は焼灼する範囲がごく小さいため、この治療法を行うには「異常部位の位置がはっきり特定できる」ことが必要です。アブレーション治療を希望される場合は、担当医とよく話し合いましょう。

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