記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
2019/1/6 記事改定日: 2020/6/17
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記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
心臓病の治療などで動脈に挿入されることのある「ステント」。このステントは、どんな素材でできているのでしょうか?ステントを埋め込んだ後、MRI検査を受けても問題ないのか、飛行機には乗れるのか、ステントの安全性など、気になる疑問にお答えしていきます。
ステントとは内腔を保持するための小さい器具の総称をいい、心臓、頸、腎、下肢などの動脈が狭くなった部分を拡張したり、悪性腫瘍で食道、気管、消化管が狭くなったところを広げたりする目的で使用します。
ステントは形状記憶の金属が使用されています。
なぜステントの素材が金属であるかというと、ステント術は狭くなった部位を広げるために使用されますので、折り畳んだ状態から広がる弾性(自己拡張型)あるいは塑性変形性(バルーン拡張型)に加えて、経時的に起こる血管外膜の 収縮に拮抗する放射支持力(剛性)が必要とされるためです。これらの条件を満たしているのが金属となります。
また、ステントの治療はX線造影しながら行われるためX線造影性が要求されるのですが、金属はこの条件も満たしています。
弾性や支持力があり治療の際に使用するX線に耐えることができるという観点から、現在は金属以外のステントは出てきていません。
現在、ステントはさまざまな病気の治療に使用されており、ステント治療が可能となったことでこれまで病気によって命を落としていた人が助かるケースも増えています。
ステントは、身体の中の管状の臓器や血管が病気によって狭くなった際に、その内部を物理的に押し広げるために用いられます。具体的には、冠動脈の閉塞によって引き起こされる心筋梗塞などの病気に対し、詰まった血管内にステントを留置して拡げることで再灌流が可能となります。
また、進行した食道がんや胃がんなどですでに手術ができないケースでは、消化管ががんによって狭められて十分な食事を摂ることができなくなってしまうことを防ぐため、ステントを挿入して消化管を拡げる治療も行われています。そのほか、尿管結石や胆管結石などもステント治療が広く行われているのが現状です。
ステントは一般的に腐食しない金属でできており、その安全性がとても高いことからステン
トの寿命は現在のところありません。
また、ステント術は1994年に保険適応が始まり、日本で心臓血管の治療の主流となってから多くの治療がなされてきました。ステント術が主流となってから約20年ほど経った今でもステントの腐食などといった報告は出てきていません。
さらに近年では「生体吸収性冠動脈ステント」といい、手術用縫合糸に使われる生体吸収性ポリマーで作られた溶けるステントも開発されており、一定期間を経過すると分解されて体内に吸収されてなくなるステントもあります。
この生体吸収性冠動脈ステントは、金属のステントがむき出しとなる通常のステント術と比べて再狭窄のリスクを減らすことができるというメリットがあります。
ステントは医療用ステンレスという特殊な金属を使用していることから、ステント挿入後にMRIの検査を受けることに問題はありません。しかし、ステント移動の可能性を最小限に抑えるために、ステントが完全に内皮化(ステントの金属部分が内膜で覆われる)するまではMRI検査を受けないようにすることが推奨されています。実際に病院でもMRI検査を受けることを断られる場合があります。
一般的にはステント留置後最低8週間は、MRI検査を受けないようにすることが推奨されています。
ステント挿入後は術後に出血など特に問題がなければ、ステント留置後より2日以上経てば飛行機に乗ることは可能です。しかし、ステントの治療をしなければならないということは動脈硬化になっている可能性が非常に高いといえます。
動脈硬化のある人が狭い座席に長期間座っていることで血流が悪くなり、下肢に血栓ができてしまう「エコノミー症候群」となるリスクがあるため、その点には十分注意する必要があるでしょう。
また、ステント留置より2日以上経っていたとしても合併症や元の疾患の悪化など何らかの症状が出現している場合には飛行機に乗ることはできません。
医療用の金属でできているステントによる治療が日本で保険適応となって、20年ほど経過しました。未だにステントの腐食などの報告が挙がっておらず、生涯にわたって使用できる金属と考えられています。ステント留置後はある程度時間を置く必要はあるものの、MRIの検査や飛行機搭乗も可能です。ほかにも不安なことがあれば、主治医に尋ねてみましょう。
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