「痛い」「恥ずかしい」…大腸内視鏡検査のハードル、どう下げる? ~ 堀内朗先生イグ・ノーベル賞受賞記念講演会①

2019/3/8

座りながら、自分でお尻にスコープを突っ込んで大腸内視鏡検査をする―そんな衝撃的な研究で、2018年イグ・ノーベル賞の医療教育賞を受賞された昭和伊南総合病院(長野県駒ヶ根市)消化器病センター長の堀内朗先生。

今回は11月29日、アポプラスステーション日本橋本社にて開催された「堀内朗先生イグ・ノーベル賞受賞記念講演会」でのお話をもとに、「大腸がん死ゼロ」の実現に向け、大腸内視鏡検査のハードルを下げるために堀内先生が取り組んできたことをご紹介します。

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がんで亡くなる女性、死因のトップは「大腸がん」

「日本人の死因の第1位はがん」とはよく知られていることですが、「女性のがんによる死因の第1位は大腸がん」とご存知の方は少ないのではないでしょうか。実は平成15年以来、がんで亡くなる女性の死因のトップはずっと大腸がんです。

そして、この大腸がんを早期発見・治療するために欠かせないのが「大腸内視鏡検査」であり、検査をより多くの人に受けてもらうために、そして大腸がんによる死亡をなくすために、これまで数々の研究・取り組みをされてきたのが堀内朗先生です。

痛い、恥ずかしい…大腸内視鏡検査のハードルを下げるには?

「大腸がんを早期発見するには、大腸内視鏡検査を受ければいい」というと簡単そうに聞こえますが、これ、実はなかなか実現が難しいテーマなのです。その理由は、検査に対する「痛い」「恥ずかしい」といったネガティブなイメージにあります。

「大腸内視鏡をやったことがない」方に向けて、筆者自身の体験をお話します。

まず検査台に上がるとお尻の穴からチューブを突っ込まれ、腸がパンパンになるまでガスを注入されるため、お腹が張って多少の苦しさを感じます。

その後電子スコープがお尻に挿入されてからは、腸の曲がり角をスコープが通過しようとする際に腸壁を突かれて痛みが…。結局最後まで耐えられず、検査を中断してもらうことになりました。

(※実際に感じる痛みの程度には、個人差があります。)

こうした問題は、鎮静剤で眠ってしまえば解決できることです。しかし日本では通常、検査に鎮静剤は用いられておらず、「鎮静剤、つまり眠り薬を使ったら車を運転して帰れないので、田舎では日帰りの検査は難しい(堀内先生)」という問題点が。

そこで、「細いスコープを使えば楽なのでは」と考えた堀内先生は、2001年頃から細径スコープを自ら飲み込んで胃カメラを行う研究を開始。圧倒的に検査が楽だったため、次は大腸内視鏡で応用してみたところ、やはり細いほうが楽だと実感したそうです。

そうしてセルフ内視鏡の研究を進めるうちに、今度は座った姿勢のままスコープを入れたほうが苦痛が少ないことに気づき、2006年に「座位での大腸内視鏡検査:小口径の可変剛性結腸鏡を用いて、自己大腸内視鏡検査から学んだ教訓」を発表。2018年、この論文がイグ・ノーベル賞を受賞することになりました。

「誰がやっても痛くない」「検査後に車を運転して帰れる」を実現するために

ただ、それでも解決できない要因が、検査医師の力量差。細径スコープや座位での検査でも、すべての患者さんの苦痛は取り切れないことが浮き彫りになります。

また女性の場合、座りながらの検査は恥ずかしい…ということから、座位での検査は実用化には至りませんでした。とはいえ鎮静剤を使うと、今度は車を運転して帰れない問題に直面することに。

そこで、堀内先生が新たに注目したのが、アメリカの多数の内視鏡センターで使用されていた「プロポフォール」という鎮静剤。検査中は眠っているので苦痛を感じずに済むだけでなく、従来の鎮静剤と比べて眠りから醒めるのが早いのが特徴です。

堀内先生は、2004年からプロポフォールの安全性の研究を開始。ドライビングシミュレーターで投与後の覚醒レベルを従来の鎮静剤(ミダゾラム)と比較したところ、ミダゾラム群では半数以上が投与2時間後も注射前の覚醒レベルまで回復しなかったのに対し、プロポフォール群では全員が投与後1時間で注射前の覚醒レベルに回復していたそうです。

この結果から「検査後に車を運転して帰宅できる」ことを立証した堀内先生は、昭和伊南総合病院の地名から、この鎮静法を「駒ヶ根プロポフォール鎮静法」と名づけました。従来と違い、体重ではなく年齢で投与量を決定する点も高く評価されたそうです。

「良いこと」を言っても伝わらない。ちょっと過激で「変わったこと」を

昭和伊南総合病院では2006年からプロポフォールを使用した大腸内視鏡検査を実施しており、同院のホームページには「検査後、車を運転して安全に帰宅できます」という頼もしい言葉が。

「ホームページに『鎮静剤を使って車を運転して帰っていいよ』なんて書いているのは、世界中でも多分私どもの病院だけだと思います」と堀内先生は笑い混じりに話します。

実際これまで大きな事故はなく、「プロポフォールを投与し内視鏡検査を受けた患者で、検査から24時間以内に交通事故に遭った人はいない」という論文も発表されました。

また、本来は事前予約が必要な内視鏡検査ですが、同院では朝食を摂らずに10時までに来院した人であれば、当日検査が可能とのこと。実際予約なしで来院する人は多く、2018年10月に実施した大腸内視鏡検査519件のうち339件、なんと65%が予約なしの患者さんだったそうです。

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こうした“患者ファースト”な取り組みによって大腸内視鏡検査のハードルを下げ、大腸がん早期発見・治療への道を拓いてきた堀内先生。これまで研究で特に心がけていたというのが、「新しいアイデアを取り入れる」「自分が良いと思ったことは、ちょっと過激にやる」ことだそうです。

「人は新しいことに弱いですよね。例えば『内視鏡検査を受けたほうがいいよ』とか『大腸がんで死なないほうがいいよ』なんて良いことを言ったって、みんな聞き飽きてて全然聞いてくれません。でも新しいこと、変わったことを言うと耳を傾けてくれる。

だから、『プロポフォールを使えば検査を受けた後、車を運転して帰れる』とか、ちょっと過激な取り組みもして参りました。こうした取り組みをきっかけに、もっと内視鏡検査への考え方を変えてもらえたら、日本から大腸がん死をなくすところまで持っていけるんじゃないかなと思っています」

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